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再戦

秋はとにかく忙しい。

とりあえずひたすら森に入って採取している。

日曜の休みを返上してまで集めていて、ちょっと前まではクランベリーを採りまくっていた。

おかげで保存用ジャムが孤児院の食品庫を埋め尽くす勢いで充実している。

今はサルナシ・アケビ・ムベを主に集めている。

ジャムもいいけど、サルナシ酒やムベ酒も漬けてみたいんだよなぁ。

問題は教会で酒を作っても怒られないかどうかだけど、部屋でこっそりやる分には大丈夫だろうか。

サルナシ酒は美味しいと聞くので一度は飲んでみたい。

まあ、サルナシは単品でも美味い。ベビーキウイって名前でスーパーで売ってるのには驚いたけど、あまりの美味さにリアルでも買い求めてしまった。

サルナシの種は保管して、春に孤児院の庭に植えようと誓うほど美味しかった。 

とにかく食い気に走りがちなので、食べられる実をつけるものを庭に植えようと画策しているが、これは子供達の食卓にも直結するので誰にも文句は言わせない。

そう考えるとやっぱり果実酒はないな…。


茸も採り放題状態で、薬用の樹上茸以外にも、食用茸を採取しては孤児院に持ち帰っている。タマゴダケがお気に入りだ。

茸鍋や茸スープは手間があまりかからないのに美味しくて優秀で素晴らしい。

シイタケや家庭菜園で穫れるナスなんか、焼くだけで美味いしな。


家庭菜園ではサツマイモやサトイモなんかも収穫出来、子供達も大喜びで掘っていた。

大人は、子供達がサトイモの葉を傘にして遊ぶ姿に大分癒やされた。


もうすぐ狩猟シーズンになるわけだが、オラスとはあの後もなんだかんだツーマンセルで森に入っている。

木の実や茸を採集するにも、2人の方が安全で効率がいいからだ。

あとオラスがプレイヤーのインベントリの便利さに気づいてしまったからでもある。

あいつ結構人使いが荒い。

でもサルナシが好きだと知ると、こっちにサルナシを多めに寄越してくれるから許してる。


その日は午後だけでもかなりがっつり採取出来て、マツタケも採れて、ウキウキで森の中を歩いていた。

突然オラスが、木に登れ、の合図である口笛を吹いた。

急いで木に登ると確かに気配察知に複数高速で動く生命体が引っかかった。

フォレストウルフだ!

見るとオラスはさっさと矢をつがえている。

すぐさま自分も背負っていた弓を準備する。

素早く動くフォレストウルフは厄介なので、同時にストーンアローの呪文を唱える。

威力より追尾重視で、ストーンアローが当たって怯んだところに矢を射っていく。

途中からオラスは矢を射かけるのを止め、練習だというようにこちらを観察しているだけになった。

こっちは焦りながらなんとか魔法攻撃と弓をひくのを同時にやっているというのに!

まだ並列処理のスキルレベルが低いせいで、別々のフォレストウルフにそれぞれ魔法と弓を同時に当てる技術はないので、一頭ずつ足止めして射るしかない。

オラスから、

「なるべくヘッドショットを狙え!」

との指示が飛ぶ。

わかってるけど、そう簡単にいかないんだよ!

一頭が木に飛びついてくる。

その眉間目掛けて矢を射る。

上手くいった!

そのままドサッと狼が落ちていく。

こちらは樹上にいるというのに、狼達は執拗に木の周りを走りまわり、戦闘から離脱する気配を見せない。

一頭ずつ仕留めていき、最後の1頭になるとようやく残った1頭が逃げようと身を翻したところを、オラスの矢が狼を射抜き、戦闘は終わった。

「なんで途中から攻撃しなくなったんだよ!?」

「いい練習になったろ?」

~~こんにゃろ。確かに冒険者ギルドで練習するよりよほどスキル経験値は貯まったが、そういう問題じゃない。


「それに俺じゃなくお前に執着してた。木に登ったことで諦めるかと思ったけど、違ったな。心当たりあるか?」

とオラスが問いかけてくる。


フォレストウルフの死骸をインベントリに回収しながら気づいた、魔法の傷痕が腹部にかけて大きく残っている個体があることに。

「もしかしたら以前魔法を当てた奴だったのかもな。」

「そうか。」


全部で8頭仕留めたようだ。

リーダーらしき個体はなかった。

まだフォレストウルフの群れは存続しているのだろう。

いつか難なくフォレストウルフを倒せる日が来るのだろうか。


弓の心得は剣の心得より後に取得したが、スキルレベルは逆転してしまっている。

それでも素早く動くフォレストウルフに当てるのはなかなか難しかった。


「しかし、本当に便利だな。いちいち死骸を埋めなくても簡単に持って帰れるなんて。」

「魔石の報酬、半々でいいか?」

「いいのか?俺の方が倒した数は少ないが。」

「いいさ。その代わりフォレストウルフの皮貰っていい?」

「やる。ついでに皮の鞣しも教えとくか。」


フォレストウルフの皮は防具にいいらしい。

これで防寒具作りたいんだよな。

今度の日曜日は皮の鞣し方をオラスが教えてくれることになった。


冒険者ギルドで解体し、魔石と牙を売ってオラスと山分けした。

肉は固くて美味しくないとのことで、冒険者ギルドで引き取ってもらった。

なんでもスライムの餌になるとのこと。

そう、この世界の下水処理や残飯処理はスライムが担っている。

プレイヤーは排泄する必要はないが、孤児院でトイレ掃除をやろうとして驚いたのを覚えている。

スライムは大きくなりすぎないように冒険者ギルドが管理して定期的に入れ替えているらしい。


日曜日は約束通り、午前の採集の後、午後は皮鞣しの講義となった。

鞣し方はタンニン鞣しだ。

猟師ギルドの1番大きな小屋は皮鞣し工場だった。

フォレストウルフの皮は早速水漬けした。

オラス曰わく、この水漬けの処理の丁寧さが重要とのこと。

どうやら革鞣しには素材加工のスキルアシストが働くみたいだ。


革足袋づくりも順調だ。羊革で作るのでなめらかさがあっていい。

耐久性には優れていない革だそうだが、沢山作ることでスキル経験値も貯まっていくので、低レベルな内は却って都合がいい。

靴底はゴムのようなものが売っていたのでそれを使用している。

錬金術でスライム液を利用して作れるらしいが、まだ錬金術レベルがそう高くないので買う方が楽だった。

革足袋は子供達にも好評だ。

スノーシューズの方はまだまだだ。試行錯誤しながらやっている。

意外だったのは革細工スキルだけでなく、縫製スキルも上がることだ。

よく考えれば革針で縫うのだから当然だが、そこが上がるとは思っていなかった。

靴は防具に入るらしいので、防具作製スキルも上がった。

このゲームは細かいところがよく出来ている。


セーター作りはシスターアンナと協力しあってなんとか秋までに全員分用意出来た。

シスターと神父様には毛糸の靴下も作ってプレゼントしたら喜んでもらえた。

早く革靴が作れるようになってプレゼント出来るようにならないといけない。

シスターアンナからはセーターを贈られた。

今まで旅人のシャツ・旅人のズボンという初心者丸出しの服装をしていたので嬉しい。

鑑定すると、手編みのセーター、という品名だったが、フレーバーテキストにシスターアンナの心がこもったセーターと記されていて、心まで温かくなった。

旅人のシャツ・旅人のズボンは耐久性∞で防汚性も高く、洗う必要がない優れモノだが、このセーターは違うので大切に着用しようと思う。


温水の魔導具も台所用とお風呂用に2つ購入して、孤児院に寄付をしたら、シスターアンナも神父様も喜んでくれた。

お風呂にもともと付いていた加熱の魔導具は追い炊き用としてそのまま利用している。


猟期も近づいてきて、巻狩りの練習も始まった。

この為に盾の心得と槍の心得を1ポイントずつで取得し、STR上昇(微)も2ポイントで取った。

ますます迷走していくビルドだが仕方ない。

自分の役割は、追い立てられた熊が突進してきたら、熊の正面に待機している猟師達にストーンウォール(日々の堆肥ソイル掛けとこの前のフォレストウルフ戦でレベルが上がり使えるようになった)をかけ、横から盾と槍を持って熊を挟み込むことだ。

モンスターじゃなくても熊は油断ならないので、練習にも熱が入る。

命を守るものなので、大盾と槍は1番いいものを選べ、というアドバイスを受け、奮発して買った。

月光草の収入があってよかった。


狩りに備えて錬金術も頑張っている。MPポーションが安定的に作れるようになってきたので、低級MPポーション作りに邁進している。

怪我人が出た時の為にHPポーションも作り溜めしている。

今度は中級ポーションが作れるようになりたい。



遂に狩猟解禁の日が来た!

オラスは朝から鳥類を狩りに行っていたらしい。

午後からは2人で罠を仕掛けに行く。

狙いは鹿だ。

掛かるといいな。

巻狩りの日程も決まった。

その日は朝から動けるよう薬師ギルドの仕事は休みにしてもらった。

冬眠前に食い溜めしている熊はすごく美味しいらしい。

絶対熊肉ゲットしたい。


前方に雉を見つけたので、2人で矢を射かける。

同時に放った矢はそれぞれ別の雉に当たり、初めての狩りは成功した。

思わずオラスとグータッチしてしまった。


その日は町に戻ると、オラスがちょっと寄れ、と言って家に誘ってもらった。

家に入りダイニングで待っていると、オラスがグラスを持ってニヤリと笑いながらダイニングに出て来た。

「今日は幸先よかったから、お祝いな。これ、サルナシ酒。」

「え、いいの?」

「飲みたくないのか?」

「飲みたいに決まってる!」

「だろ?」

慌ててグラスを受け取る。

サルナシ酒には完熟する前の実を使うのだそう。

甘くて美味しい、幸せの味がした。

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