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ゲームスタート?

ほくほくしながら、帰路を辿る。

今日はVR機器が届く予定なのだ。


社会人五年目、それなりにコツや課題を見つけながら、日々を平凡に生きている。

でも大体が職場と駅前のスーパーと自宅で完結してしまう日々でもある。

仕事にやりがいを感じるけれど、もっとプライベートを充実させた方がいいんじゃないか、と漠然と感じ始めたのはいつからだっただろうか。

婚活とか新しい趣味とか習い事とか、本来は色々と選択肢はあるはずだったが、どうにも腰が重く、また今度、まあいっかーの連続でここまできてしまった。


学生時代はゲームで遊んだこともあるものの、社会人になってからは一切触ってこなかったにもかかわらず、ある日突然ゲーム欲がムクムクと湧いてきて、特に何のゲームがというわけでもなくただただゲームがしたい!と思い立ちネットで情報を漁りだした。

VRゲームをやったことはあったが、最近のゲームは日進月歩が凄まじい。

リアルさ、ゲーム内時間加速、翻訳機能など、技術の向上が進み多種多様なタイトルが発売されている。


そのゲームが発売されたのは一年前のことだったが、未だに人気があるようで、ネットを漁ると何度もその名前を目にした。

リアルさは勿論のこと、時間加速機能が優れていて、一時間のプレイでなんとゲームでは3日間楽しめるとのこと。

それも、ゲームから離れていても24時間以内の再ログインであれば、ゲーム内時間では2時間しか経っていないことになるらしい。

どのような技術を以てそのようなことが可能になるのかは説明サイトがあったが、全く理解出来なかった。


他のプレーヤーと待ち合わせるときは、ゲーム内日時ではなく、リアルの日時で待ち合わせすることが常識らしい。

都度プレーヤー同士の時間を同期させているようで、どれほどの演算処理能力が投入されているのか想像もつかない。


そんなわけで、内容はオーソドックスな剣と魔法のファンタジー世界でのオープンワールドゲーム、だそうなのだが、若い子たちだけでなく多くの社会人ファンや主婦主夫たちの心も掴み、ユーザーの年齢層が幅広いのが特徴とのこと。

そりゃあ、日々の隙間時間にゲーム出来るなら人気が出るだろうし、職業やスキルなどが豊富で、色々なスローライフを楽しめるとなれば、従来のゲームユーザー以外の層にも人気が広がるのは想像に難くない。

実際高齢者層にも人気で、リハビリ目的としても使用されているらしい。

都会では難しいガーデニングや釣りなど、やりたかった、あるいは中断していた趣味をゲーム内で行う人も大勢いるという。


社会人から多くの高評価を得ているレビューを読んで、なんとなくそのゲームを選び、対応するVR機器を即日注文してしまった。

今日はその機器が届くことになっているのだ。


急ぎつつ帰宅したが、なんなく運送会社に指定した時間帯よりも前に到着し、無事に商品を受け取ることが出来た。

大きなダンボールと格闘しつつも機器のセットアップをし、ゲームをダウンロードする。

手早く夕食を済ませ、風呂に入り、いよいよゲーム開始だ。


まずはキャラクタークリエイトから。

プレーヤー名は、ダッサイ、と思考入力した。

カタカナなのがこだわりの一つだ。

獺が魚を乱雑に広げるように、自分自身も積読だけでなく本を並行して読み進める習性があり部屋に本を散らかしがちなことからつけた名前なのだが、カタカナだった為か被りはなかったようだ。


種族もお約束の獣人、エルフ、ドワーフ、ハーフリングを始め、沢山の選択肢があったが、ここはロマンビルドの為に人間にした。


他の多くのゲーム同様、人間だとどの能力も平均的に伸びるのが特徴となっている。よく言えば大器晩成型、悪く言うと器用貧乏型である。


職業はこれまた豊富にあったが、アンケート形式で絞ることも出来るらしい。

事前に調べていた時に心に決めた職業があったので、迷わずそれを選択する。

ふふふ、なんとこのゲームにはストライダーがあるのだ!

それも騎乗するストライダーではなく、歩く方のストライダー!

ファンタジーは奥深く、ストライダーは定義揺れがあったりするが、このゲームでは道なき道を行けるタイプのストライダーを選べる。

馳夫と訳すそのお洒落さが子供心に響いて読んでいた小説だったが、まさかそれをゲームでロールプレイ出来るとは!

この職業があったからこそこのゲームを購入したと言っても過言ではない。


ストライダーの特色はまずなんと言っても徒歩時の移動スピード。

職業固有スキル、健脚を持っていることだ。

スキルはレベル制で、レベルが上がる毎に該当スキル効果が上がり、その行動をした際のエネルギーポイント低下率が減少する。

つまりは、スキルは使えば使うほど効果が上がり、疲れにくくなるのだ。


もう一つは、豊富な生命力と体力だ。

このゲームにはHP、MP、EPがあり、それぞれヒットポイント(生命力)、マジックポイント(魔力)、エネルギーポイント(体力)を表している。

ストライダーはHPと、特にEPが高く設定されており、成長時に伸びやすくなっている。


しかしデメリットもある。

まずはじめに、ストライダーは各拠点のポータルを使ったファストトラベルが出来ない。

まあ、その名もストライダーなのにファストトラベルでポーンと転移出来ちゃうのって味気ないしな。


転移を使いたい場合は時空魔法を取得する必要があるらしい。


ゲームにはその他に

STR 筋力

VIT 活力

AGI 敏捷性

INT 知力

MND 精神力

DEX 器用さ

LUK 運

の項目がある。

普段はマスクデータとなっていて見えないが、ゲーム開始時のキャラクタークリエイト中には見られるようになっている。

STRやVITの値を参照してHPや攻撃力・防御力が決まり、VITの値でEPが決まるなど、それぞれ関連しながらプレーヤーのステータスが決まっていくそうだが、ストライダーにはデメリットもある。

VITの数値が防御力に反映されにくく、EPとHPに反映されやすくなっているのだ。

また、LUKの数値もアイテムのドロップ率には一切反映されない。

AGIやDEXの数値と相俟って回避率やクリティカル率には反映されるようだ。


体力はあるが、タンクとして運用するには防御力が足りず、回避盾とするには素早さが足りず、特に知力や精神力が飛び抜けているわけでも、運極振りしても旨味があるわけではない、この中途半端さが、ストライダーの特質なのだ。


平凡な人間種の中で更に平凡になるビルド、それがストライダーだ。


しかし、ロマンは余るほどあると個人的には思う。

そこそこの筋力にそこそこの敏捷性、そこそこの知力にそこそこの運、それこそがストライダーに相応しい。

移動砲台なストライダーはなんか違うし、レアドロップを引いて一喜一憂するストライダーというのもイメージに合わない。


その特色からあまり人気がない職業らしいが、ファンタジーするには最適な職業ではなかろうか。

うん、ストライダーにしよう。


ストライダーを選ぶと、HP:100、MP:50、EP:200とステータスに反映された。

更にポイントが10ポイント付与されて、好きな項目に割り振ることが出来る。

本来なら筋力活力などの項目はマスクデータとして隠されているのだが、ここでのポイントの振り方によって今後のレベルアップ時の成長率が変わってくるらしい。


STR 6→8

VIT 9→9

AGI 7→8 

INT 5→6

MND 5→6

DEX 5→8

LUK 3→5


ポイントの振り方も、均すように振ってみた。


あとはスキル!

スキルに至っては頭痛がしてくるほど種類がある。

これもアンケート形式で絞りこめたり、ソートや検索機能が使えるようになっている。

スキルのポイントはSPとして初期から100ポイントあり、そのポイントを使ってスキルを取得するシステムになっている。

スキルは勿論ゲームスタートしてからも取得出来るし、特定の行動を繰り返すとスキルをポイントなしで習得出来るようになっているらしい。

ここでのスキル取得は、要はスタートダッシュを決めたり、ビルドの方向性を決めたりする為にあるようだ。

100ポイント以内ならいくつスキルを取ってもいいそうだが、今後何が必要になってくるかわからないので、とりあえず6個だけ選んでみた。

ちなみにスキルがなくても該当行動は出来るが、アシストがなく、疲労度も激しくなるとネットには書いてあった。

事前情報はそれくらいだけ入れて、特におすすめスキルなどは調べずにこの日を迎えたが、自分で考えながら選ぶのはやっぱり楽しい。


取得したのは

言語 2PT あらゆる言語を解せるようになる

読書 1PT 本を理解できるようになる

筆記 1PT 字を書けるようになる

発見 3PT 何かしらを発見しやすくなる

鑑定 5PT 物の詳細を調べることができる

生活魔法 3PT 生活魔法が使えるようになる

の6つのスキルだ。


生活魔法はファンタジーによくある定番の着火や浄水などの魔法が使えるようになるものだが、Lv.1ではライトが使えるようだ。


最後にアバターを作成する。

ストライダーのイメージに合うように、30代くらいの渋めの男性のアバターを作り上げ、これでよし、と。


キャラクター操作チュートリアルがあって動いたり走ったり前転したりと動作を確認しておしまい。

戦闘や生産などのチュートリアルはゲーム内で受けられるように設定されているそうだ。


というわけで、いざ!ゲームの世界へ!


視界が切り替わるとそこには石造りの道路と建物が並んでいた。

どうやらヨーロッパ風の街並みらしい。

路地の両脇を高い石壁が遮り、曲がりくねったその先に何があるのか、また壁の向こうには誰が住んでいるのだろうか、などと興味が湧いてくる。

このゲームではスポーン地点、つまり始まりの町、はそれぞれランダムになっていて各自異なる。村だったり、町だったり、都市だったり。

日本風だったり、インド風だったり、ヨーロッパ風だったり、中華風だったり、様々な拠点があるそうだ。


モンスターのレベルも固定制ではなく、始まりの町からの距離によって強さが変わるように出来ているらしい。

最初から友人達と一緒の町でスタートしたい場合には、事前に絆の証というゲーム内アイテムをサイトから購入しキャラクタークリエイト時にコードを読み取って入力すればいいらしい。

更に色々と課金アイテムやスキンなんかはあるらしいが、とりあえずは課金しないでおく。


さて、探索と行きますか!

本当は大通りを目指した方がいいんだろうけど、やっぱり路地に惹かれてしまうので、ふらふらと探検してから定番の冒険者ギルドを探すことにした。


それにしてもグラフィックの美麗さよ!

そよ風も美味しそうな匂いも感じられるこのリアルさ!

うーわー、テンションアガる!!


細い路地を抜けると商店にたどり着いた。

看板を見上げると、魔導具屋、と書いてある。

興味を惹かれて中に入ると、暇そうな顔をしたおじさんがニヤっと笑いかけてくる。

「いらっしゃい」

会釈して店の中を見て回る。

どうやら雑貨屋というか、家電屋みたいな感じらしい。

スプリンクラーとか、コンロとか、冷蔵庫みたいなものが売っている。

魔石を填めて使うらしい。

魔石って何って感じだけど、電池とかカセットボンベみたいなものだろうか。

魔石を使用するものとは別に、単品で使えるものも置いてある。

必ず冷たい水になる水筒や、収納量2倍のアイテムバッグ、撥水・防水機能付きのリュックやポンチョなど、冒険に便利そうな道具が並べられていて、RPGだ!と実感が湧いてくる。

そうかと思えば何に使えばいいのかわからない謎商品も雑然と置いてある。

見ているだけで楽しいが、値段を見るとどれも結構いいお値段がした。

多分駆け出しの冒険者が来る店ではないんだろう。

冷やかしになってしまったが、最後に「また来ます。」と店主に言って店を出た。


そのまま少し広い通りに出てふらふらと歩いていると、壮大な雰囲気を醸し出す四角い建物が見えてきた。入り口も立派だ。

壁面を眺めると、なんと図書館らしい!

やった、この始まりの町は図書館がある規模だった。ラッキー。


このゲームはゲーム内で時間が加速する為読書家にも人気だ。

著作権が切れたリアルに存在する書籍から、AIが執筆した書籍まで、多種多様な本が存在するとのことで、かく言う自分もこのゲームでしたいことの中に読書があった。

それが取得したスキルにも表れている。


勿論図書館に入らないなんて筈がなく、早速建物の中に入ってみると、受付に若いウサ耳の女性が座っていた。

これが獣人かーと内心沸き立ちながらも表面上はなんでもないような顔をしながら、

「あの初めての利用なんですが。」

と声をかけると

「ようこそ、ヤズイの町の図書館へ。まずは入館証手続きをお願い致します。

この用紙へ必要事項をご記入ください。

代筆がご入り用の場合はお申し付けください。

入館証発行には10000G必要です。」

とのことだった。

この始まりの町はどうやらヤズイというらしい。


言われて所持金を確認すると初期装備・所持品として、旅人のシャツ・旅人のズボン・旅人の靴を装備しており、インベントリにはちょうど10000Gが入っている。

いきなり全財産を失うのはつらいが、ここで図書館の中身を見ずに戻るなんていう選択肢はない。

UIを見るとゲーム内時間が10時半くらいだった。

昼頃まで本を読んで、冒険者ギルドに登録して町中のおつかいクエストでも受ければ今日の宿代くらいにはなるだろう。

言われるまま、必要事項を記入し、入館証代を払って図書館内に入る。


書架だけでも圧倒されるほどだが、まだ閉架もあるとのこと。

備え付けの魔導検索機で調べて司書の人にリクエストすれば閉架となっている本も読めるそうだ。

今日だけではとても読み切れないので、まずは歴史の棚に寄ってヤズイの歴史から齧ることにしよう。


町史、というものがこんなにも滑らかにまことしやかに書かれているのを読むとAIの空恐ろしさを感じるが、読む分には大変興味深かった。

とても架空の世界の歴史とは考えられないほど読み応えがあり、まだ一冊目なのに読了出来なかった。


しかし宿代も稼がなくてはいけない。

後ろ髪を引かれる思いで図書館を後にし、冒険者ギルドを探す。


少し歩いて大通りに出ると、市場を抜けた先に非常にわかりやすく冒険者ギルドがあった。

オーソドックスな冒険者ギルドに酒場兼食堂が併設された3階建ての建物で、1階にはカウンターが並び、ホールのようになっている。

受付、と書かれたカウンターへ向かい、登録したい旨を話す。

担当者は品のいいシルバーヘアーの男性だ。

「はい、登録ですね。まずは登録料500G頂きます。」


「え?」

お金かかるの?

一般的なゲームって冒険者ギルド登録ってお金かからないじゃん。

え?本当に?


「え?」

と受付の男性も固まっている。


詰んだ??

ストライダーには色々な語義があると教えていただき、歩く方のストライダーであることを強調してみました。

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― 新着の感想 ―
ありがちな視野の狭いおバカ主人公か。 共感し辛いから、続けて読むか迷う。
[気になる点] 主人公の言っているストライダーのフレーバーテキスト的なイメージが無い。ので、これストライダーっぽい!って言われても共感できないところ。 大体のゲームに出てくるストライダーって『ストライ…
[気になる点] >それも、ゲームから離れていても24時間以内の再ログインであれば、ゲーム内時間では2時間しか経っていないことになるらしい。 うん、ソロゲーならまだしも、オンラインマルチならパラドック…
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