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第十三話 私の犬は『待て』を頑張った!

 お父様の先触れのとおり、アーロンの意志が以前と変わっていないのであれば婚約をお受けしたいということでお伺いしたのだが。

 ギブソン家にやって来た私にアーロンもトビィも大興奮になり、私がきちんとアーロンとお話する前に、とにかく急いで両家で書面を取り交わすことに決まった。


 今回のことで家族は本当に温かく見守っていてくれたんだなと思っていたけれど、ギブソン侯爵ご夫妻からも前から気を配って下さっていたことが改めて分かった。

 侯爵様も家格のことがあるから、私が萎縮したり困るかもと当初は難色を示してたようなんだけど、幼い頃のアーロンを変えたことと今の頑張りでクローディアならばとお決めくださったご様子。


 アーロンは嫡男になるのだけれど、ひとまず結婚する時にはお持ちの伯爵位を譲って下さるのだという。

 そうして私にもギブソン家としての教育を施し、いきなり侯爵家夫人とするのではなく、段階を踏んで身分差を和らげるようにして、いずれ侯爵家を継ぐという形を計画されているようだ。

 低位貴族から高位貴族へ急に入ると、社交の仕方から違うために辛い目に遭わされることがまま起こるそうだ。

 その軋轢をとにかく和らげるために、この方法を取ってくださるのだと説明され、ご夫妻のお気持ちがありがたくて思わず涙が出てしまった。




 とにかく良かった良かったとギブソン侯爵ご夫妻にも言っていただいて、トビィにも受け入れられ過ぎるほど受け入れられた。

 子爵家と侯爵家であるのにすんなりと婚約が認められて、ようやく私は緊張を解くことが出来た。


 ギブソン侯爵ご夫妻とポーリーン、アーロンとお茶をいただいた後、先に退室されたご夫妻を見送ったと思ったら、ポーリーンが呆れながらアーロンを小突いた。


「良かったわねえ、アーロン。······でもちょっと犬に近くなりすぎてない?」

「仕方ないよ、クローディアに会うために必死で犬になろうと努力したんだから!」

「ああそう、まあ結果オーライかしらね? クローディア」

「ええ。私アーロン以外の方と婚姻だなんて無理だと思いますもの」

「クローディア!!!」

「ワオーン!!!」


 感動するアーロンに手を握られた私の横でトビィが飛び回っている。

 ちょっと喜びすぎ? 喜び方が犬っぽい?

 というか何故トビィまでもが喜んでいるのかしら?


 ポーリーンはクッキーを全て食べ終えると、「クローディアの分を届けるように頼んで来るわね」と言ってアンを伴って出て行った。


「アーロン様」

「婚約者になるのだからアーロンと呼び捨てにして?」

「はい、アーロン」

「ねえ、クローディア、僕の犬姿はどうだった?」

「最初は困惑しましたけど、フワフワで可愛かったですわ」

「でもクローディアの恐怖症克服がミカエル殿下の手柄になるのは納得行かないな」

「そんな事ありません! 本当に協力してくれたのはアーロンですし、アーロンが犬になったから克服できたのですよ」


 少し拗ねたように話すアーロンに、慌ててフォローを入れると、アーロンが再びあの犬耳帽を被り出した。


「え、どうしてまた? もう平気ですわよ」

「ねえ、クローディア。犬は好きだよね?」

「······? ええ」

「この犬耳のついた帽子、僕によく似合うよね?」

「そうね、我ながら良く似合う物が作れたわ」

「帽子被ってけっこう一緒にいたよね?」

「そうね」

「お散歩したりさ、色々したよね?」

「ええ······?」

「楽しかったね?」


 何だが畳み掛けるように、誘導されるように話しているけど着地点はどこなんだろう?

 首を傾げながら話についていっている私に、アーロンはニコニコと満面の笑みを崩さず、さらに続ける。


「ねえ、僕は背は伸びたけど、前と同じ僕だって分かったでしょ?」

「ええ」

「『待て』を沢山したけど、もういいよね?」

「ええ······って、うん?」

「好きだよ、クローディア。君が望むなら舞踏会にも犬になって行くから、これからは僕にだけエスコートさせて?」

「絶対すぐに婚約者になって? 結婚して?」


 私の肩にぐりぐりと頭を押し付けてくるアーロン。


「これはトビィの真似だよ」


 ――『トビィはわたしをすきといっているのよ』

 犬の大好きサイン?


 恥ずかしくてふと目を逸らしたら、お部屋にイベリスが飾ってあることに気が付いた。


「ここにもあるよ、ほら」


 アーロンが脇に隠してあったらしいイベリスの花束を渡してくれる。

 ブワッと広がる甘い匂い。


 前に調べたイベリスの花言葉は「心をひきつける」「初恋の思い出」、それに「甘い誘惑」だった······。

 

 美しい金色の前髪と帽子の犬耳を少し震わせて、アーロンの顔が徐々に近づいてくる。

 私もゆっくり目を閉じる······が、その時、

 

「『待て』は沢山したからもういいよね?」

「え?」

「いいよね?」

 

 吐息がかかるほど近くからアーロンが繰り返す。

 イベリスの花束ででも顔を隠したいけど、もう膝に置かれた私の手の上にアーロンの温かい手が重なっていてどうにもならない。


 ······これってもしかして、あれよね? あれ待ちよね?

 

「アーロン、よし!」

「ワン!」

 

 アーロンは最大級の笑顔で私の唇に触れた。

 


 

 〈終わり〉

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