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バッドデイ  作者: ふゆむしなつくさ
フォー・ラヴ・オン・クリスマス・デイ
7/16

(1)

 自然と目が覚めた時、外はまだ真っ暗だった。


 手元にあったリモコンで暖房のスイッチを入れ、吐き出された空気が部屋を暖めるのをいくらか待ってから、身体を起こしてベッドを這い出る。モッズコートのポケットをまさぐって入れっぱなしだったスマートフォンを取り出し、画面をつけて確認すると、時刻は午前5時を回ったばかりだった。


 少し遅れて切り替わり表示された12月24日という無機質な文字に馬鹿みたいに律儀に傷つきながら、僕はもう片方のポケットへ手を突っ込み、煙草たばことライターをつかんで部屋を出た。そしてそのまま静かに階段を降り、寝ている母親と妹を起こさないよう、慎重に玄関扉を開けた。


 屋外おくがいへ出た途端、容赦なく吹き付けてきた寒風かんぷうが肌を蝕んで、ものの数秒で手が震えだす。朝方だからというのもあるんだろうけど、まだ真冬の時期にも入ってないってのに、外は暴力的な寒さだったな。まぁ、ろくに対策もせず出てきた僕も悪いんだけどさ。


 コートだけでも取りに戻ろうかと迷ったけど、結局そのままの格好で少し歩き、家から距離をおいて、震えながら煙草を一本吸った。吐いた息が白いのが、煙草たばこのけむりなのか寒さのせいなのか、よくわからなかったな。


 家に戻って熱いシャワーを浴び、髪を乾かして部屋へ向かおうとする頃になると、外はようやくしらみ始めてきていた。居間のカーテンを少しばかり開けて空を見上げると、昨日とは打って変わって、雲ひとつない晴れ間が広がっていた。なんだか、天気ってやつまで、今日という特別な日を祝福しているみたいだったね。


 きっと今日は、多くの人にとって、かけがえのない幸せな一日になるんだろうな、そんなことを思った。


 そしてそれは恐らく、彼女にとっても。


 思考がそこに行き着いた途端、無性むしょうに見ていられなくなって、僕は開けたカーテンを閉め直してから自分の部屋へと戻った。


 考えれば考えるほどむなしくなるだけなのはとっくに思い知っていた。けれど、そんなのわかっていたところで、考えずに済むわけじゃない。


 戻ってきた時のためにと点けっぱなしだった暖房をわざわざ消し、小窓を意味もなく開け放して、急激に冷え込む部屋の中で毛布にくるまりながら、改めて考える。


 もう、今日が最後の機会だ。このまま何もなく夜を迎えちまったら、僕は去年よりも更にみじめなイヴの時間を過ごすことになるだろう。そして何も変えられないまま元通りの日常ってやつに戻り、また逃げ続けるだけの灰色の毎日を過ごすことになるんだ。それを避けたいなら、今日こそはこの孤独に、なんらかの形で決着をつけなければならない。


 外とほとんど寒さの変わらない部屋の中でかたかた震えながら、スマートフォンを弄っていくばくかの時間を過ごし、時刻が6時半を過ぎた辺りで、母親のものだろう目覚まし時計の音が聞こえてきた。


 僕はそれを合図にして被っていた毛布から抜け出し、いつもと同じモッズコートとマフラーを手早く纏って、顔を合わせないよう足早に家を出た。


 行き先はまぁ、言わずもがなってやつさ。

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