第九十八話 凱旋 ~人魚姫騎士、落ちる?
マリエッタと共に人魚国へと戻ると、大勢の人魚たちが歓声をもって出迎えてくれた。
人魚たちの中には、ヴィルホ王も交じっており、先頭に立って槍を振り回している。
「うおお! 我がマリエッタよー!」
……あの弱気だった王が、豹変したように元気だ。
半魚人の皇子が率いてきた精鋭部隊と戦い、往年の覇気を取り戻したみたいだな。
「ずいぶんと早い帰りだったが……クラーケンはどうしたのだ?」
「ご安心を、父さ……王よ。ここにいる、ティエルナの方々が仕留めました」
「なんじゃと!?」
のけぞり過ぎて、後ろにひっくり返りそうになるヴィルホ王。
なんとか体勢を取り戻し、
「ま、まことか……?」
「はい。そして、やつらの国……イブリ・クスもまた、同時に滅び去りました」
「!?」
完全に言葉を失う王。
立て続けに襲う衝撃に、頭がついて行けない様子だ。
「本当です。我々が細部まで確かめました」
「サハギンどもは全滅……彼らの都市も、がれきと化しておりました」
「お喜びください。半魚人との戦争は、終わったのです……!」
マリエッタと共にイブリ・クス跡地に来た人魚たちが、口々に報告する。
そしてようやく、ヴィルホ王も話を把握し、その顔に喜びと安堵が浮かんできた。
「お、おお……!? 長きにわたる戦が、ついに、終わったと……?」
「はい、王よ。全て、ティエルナの方々のおかげです……!
民よ! こたびの戦争の、最大の立役者……ティエルナを讃えてくれ!」
マリエッタが、集まっていた人魚国の民に叫び、後ろに居た俺たちを振り返った。
「おおおおおおおおーーーっ!」
人魚たちが、一斉に歓声をあげ、拳を天に突き出した……!
こうして……
人魚国――テレース連邦がイブリ・クスの支配下におかれようとした、悪夢の結婚式の日は一転。
戦勝記念日となって、街中が盛大な祝典のにぎわいで満ち満ちる、栄光の日となったのだった。
「テレース、万歳!」
「ヴィルホ王! マリエッタ姫! ありがとう!」
「ティエルナに栄光あれ!」
「ティエルナ万歳! シルヴィアさまに感謝を!」
街中でティエルナやマリエッタの名前が連呼され、乾杯の音がなりやまない。
俺たちは宮殿の大庭園にて、祝賀会に出席。
机の皿に盛り上げられた、人魚国の珍しい果実や、菓子、料理に舌鼓をうっていた。
「……海の中だっていうのに、食べ物にしけった感じがしないのは何故だろうな。
特別しょっぱくもない」
「不思議だね! でもどれもこれも美味しい!」
「旨味。甘露甘露」
「ぼ、ぼくは部屋にこもって、少人数で楽しみたいなー……」
リリアーナだけ、多少居心地が悪そうだ。
なにせあとからあとから、ここの国の重鎮やらお偉いさん方が挨拶に来たり、礼を言って来るのだ。
多少、もう引っ込みたくなる気持ちはわからんでもない。
「……シルヴィアどの」
と、マリエッタが声をかけてきた。
「この度は、ティエルナの多大な支援、感謝する。
我々は、到底返しきれないほどの恩を受けた。
国を代表して、お礼申し上げる」
と手を差し伸べてきたので、再び俺たちは握手をした。
「いやいや。つか、固い、固いよマリエッタ姫。
もう少し、気楽にいこう」
「……そうだな」
マリエッタが、笑顔を見せた。
今まで気を張って、強くあり続けなければという姿勢を崩さなかった姫。
これからは、そんな常に緊張するような生き方からは、解放されて欲しいところだ。
「あ、そうだ……このウェディングドレス。返さなきゃ」
なにげに、ずっと着っぱなしだった。
俺はマティにちょっと手伝ってもらい、ウェディングドレスを脱ぐ。
戦場でも着たままだったが、疑似オリハルコン製にしてあるので傷どころか汚れ一つない。
「やった! ……な、なんだ、下には水着、着てた……」
リリアーナが一瞬喜びの声を上げた直後、心底がっかりの声に。
こんな人前で、裸とか下着姿になるわけないだろ!
そして脱いだウェディングドレスを、姫に手渡そうとするが。
「いや、これはもうあなたのものだ。
お礼の品々は後からまた、色々と渡したいところだが……
まずは、その気持ちの一つとして、受け取っておいてくれ」
と、姫にやんわりと押しとどめられた。
「うーん、装飾品とか、あしらわれた宝石とか、かなり高そうだけど。
貰って良いのかな……?」
それに、男がウェディングドレスを持っててもなあ。
まあ、ファニーが将来、着る可能性もあるか……
とか思ったら、何か胸に妙にずきんと来るものがあった。
うん……?
「それに、戦場をつねに駆けていたような、私には似合わないものだ」
とマリエッタ。
「そうかなあ……?
マリエッタ姫も可愛いんだし……似合わないなんてこと、絶対ないと思うけど」
と答えると、とつぜん姫が耳まで真っ赤になった。
「なっ……!? な、な、な、なんと言われた!?」
しまった、何か不敬な事でも言ってしまっただろうか。
とはいっても、今まで砕けた口調でしか対応してないし……?
「か、か、か、可愛い、だと!?」
あ、それか。美しい、綺麗、とかの方が適切だっただろうか?
「わ、私は、騎士として、男にも負けぬよう鍛錬と研鑽の日々を生きてきた。
そ、そんな私に、か、か、可愛い、などと! 言ってきたのは、あなただけだ……!」
しまった。
可愛い、は人魚姫騎士をけなす言葉として、受け取られてしまったのか!?
しかしマリエッタは、真っ赤になったまま。
手を揉み絞ったり、人差し指どうしをツンツンさせたり。
そして、目をしばたたかせながら、横目でじっと俺を見てきた。
「か、可愛いと、貴君には、映るのか……?」
もじもじ。
姫は身をよじらせたりしながら、こちらの言葉を待っている。
これは、怒っているというよりは、照れている……?
「あ、うん。可愛い、と思ったけど……」
「そそそそそうか!? そうなのか!? いいいいいやそんなことは!
こ、これはもしかして私は、動揺している!?
目の前の人間の女性に、心高ぶらせているのか!?」
落ち着きなくそわそわしだし、言葉もめっちゃ震えている。
そのあげく、
「こんな公衆の面前で、か、かか可愛いなどと! 口説いているつもりか?
みだらな! 私はそのような戯れ言には屈さぬ!
正直嬉しいなどとはみじんも思っておらんぞ!
だが、覚悟は決めた! くっ……娶れ!」
と言って、両手を後ろに回し、目をつむった。
メトレ?
人魚国の方言か何かだろうか……?
「な、何か良く分からないけど……マリエッタ姫は疲れてるのかな?」
とか言ったら、姫のおそば付きの人が「それはいけませぬ」とか言って、姫を自室へ運んで行った。
マリエッタはなんか固まったまま。
まあ色々あったし、疲れてても仕方ないよね。
(あなたは! また! そうやって、女の子を、口説き落として……!)
とここで、ファニーが責めるような口調で言ってきた。
なんでそうなるの!?
お読みいただきありがとうございます!
「面白かった」「続きが気になる」「興味ある」と思ってくださった方、
下のほうにある☆☆☆☆☆に評価をお願いいたします。
☆一つからでも構いませんのでどうぞ採点してやってください。
ブックマークしていただけたなら、さらなるやる気に繋がります!
何卒よろしくお願いいたします。




