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第九十七話 クラーケンの記憶 ~姫の笑顔

「しかし、クラーケンってどういう生き物だったのか……」


 自己修復し、水分を全て奪ってもビクともしなかった。

 ある意味、ドラゴンよりも強いモンスターじゃないか。


「……クラーケン。星々の海を渡って。この星に来た」

 

 突然マティがそんな事を言ったので、クラーケンに憑りつかれでもしたのか、と一瞬身構えた。

 しかし、


「あたしも、見たよ。クラーケンの記憶。


 クラーケンに操られた時……クラーケンから意思とか、記憶が流れ込んできたの」


 とレリアも言う。


 まだ『とうめい薬』が効いているので、水中に水着と足ひれだけ浮かんでいるように見える。

 その水着(の上)から、声が聞こえてくる感じだ。


 その不思議な光景に、ついまじまじと水着を見てしまい、


「胸ばかり見ないで! えっち!」


 と水着に怒られた。

 何も見えてないんですけど。


 ……しかし、クラーケンの記憶とは。

 あの時、そんな事が起きてたのか。


「つまりクラーケンは、宇宙から来た?」


 うなずくマティ。

 そして、レリアが続けた。


「長い年月をかけて、この星にたどり着いて、定着したの。


 そして、ここがあまりにもクラーケンにとって、良い環境だった……


 だから、仲間を呼ぼうとした。


 でも、クラーケンの力では仲間のいる遠い遠い母星まで、思考を飛ばせない。


 そのうえ、この星の環境に慣れ過ぎて、宇宙までは飛べなくなってた」


「だから。エルフの里の。星の舟を狙った」


 ……なんだって?

 クラーケンが星の舟を?


 つまり、地上へ出ようとしていたのは、星の舟が目的だったというのか。


「星の舟から、とても強い思考が飛んだのを感知したの。その力なら、仲間を呼べる。


 仲間を呼んで、この星の生き物を全て排除し、楽園としよう。


 そう考えて、まず海の人間……半魚人や人魚を支配して、地上進出をもくろんだ。


 そして、星の舟を使おうとしたの。クラーケン自身が、大きくなりすぎたから」


 あの巨体じゃ、あの舟の機能を使おうとしても、無理そうだしな。

 しかし、『思考を飛ばす』……


 そういえば、星の舟を自爆させる前。こんなことがあった。





「――システムって人。あんたを作った、古代文明人とは連絡できないのか?


 もし、あんたの帰りを、古代人が待っていたとしたら……」


 自爆させるのは、かわいそうだな、とちょっと思ったのだ。

 それについて、星の舟のシステムの返答はこうだった。


「問題ありません。わたしが地中から掘り起こされ、再起動した時。

 

 宇宙へ旅立って行った人たちへと、超空間通信を送りました。


 送ったのは、わたしの現在の状態などの情報。


 そして、繋がった端末からの情報が、少し前に送られてきていました。


 繋がったのは、わたしの同型艦でした。場所は、遥か彼方の、こことは違う銀河の星。


 それによれば彼らは肉体を捨て、次なるステージへと向かった、と――」




 古代文明人がどうとかは良く分からなかったけど。

 あの時のなんとか通信ってのが、クラーケンの言う『思考を飛ばす』というものなんだろう。


 クラーケンはそれを感知して、星の舟の存在を知った……


「しかし、それなら星の舟を自爆させたのはさらに良かった、ってことになったな」


「そうだね! 


 クラーケンに利用されて、仲間呼ばれてたらとんでもないことになってた!」


 あんなのが空から、次々とやってこられたらと思うとな。


 しかし身勝手なやつだ。

 環境が良いからって、そこにいる生き物を押しのけ、自分たちの棲み処にしようとか。


 星の舟はもう無いとはいえ、倒しておいて良かったと言えるだろう……




「シルヴィアどの!」


 突然呼びかけられ、振り向くと、マリエッタ姫率いる部隊が泳いで来ているのが見えた。


「我が国へ来た侵略者どもは、全てを排除した!


 シルヴィアどののかけてくれた、強化が大変、役立ち……!


 数にまさるサハギンどもを相手に、こちらの被害、想定以上に少なく!


 そして遅ればせながら、クラーケンとの戦いへ加勢、しに、来たのだが……」


 マリエッタは、俺が笑っているのを見て、察したようだ。


「……もう、倒してしまわれた?」


「正解」


 おおっ、とマリエッタに付いて来た人魚たちがどよめく。


「完全に押しつぶしてしまったから、クラーケンの死体は見せられないけど……


 とりあえず、半魚人の国が廃墟になったのは見せられるよ」




「……確かに、やつらの国は滅びたようです。


 がれきになった都市に、多数のサハギンの死体が。

 

 そして、あちらこちらに巨大シーサーペントやイカなどの、モンスターの死骸……」


 イブリ・クスの都市を調べて回った人魚たちが、マリエッタに報告した。


「動くもの、生きているものの姿はありませんでした。


 サハギンどもは、完全に死に絶えています」


「その数、想像以上に多く……


 あれを、モンスターどもも含めて、ティエルナの方々がやったというのですか?」


 信じられない、と言った様子の人魚たち。


「だが、事実だ。ティエルナの方々でなければ、誰がやるというのか」


 マリエッタの言葉に、人魚たちも確かに……とうなずいた。

 そして、お互いが顔を見合わせる。


「……では、我々は……」


「……半魚人との戦いに、勝った……のですね……?」


 なかなか、実感がわかない、といったような人魚たち。

 長年続いてきた戦争が、たった一日の戦いで終結してしまったのだ。

 

 まあ、無理もないかな……?



「みなさん、お疲れさま! 全部、片付いちゃったね!」


 と、(姿の戻った)レリア。


「状況。終了」


 とマティ。


「さ、最後に、良い感じの廃墟が見れて、良かった」


 とリリアーナ。


「おめでとう。海の中は、これで平和になったよ」


 そして俺はマリエッタに、右手を開いてさしだした。 

 一瞬、戸惑った様子だったが、マリエッタはすぐにその手を握って来る。


「……ありがとう! シルヴィアどの! ティエルナの方々!


 全ては、あなた方のおかげだ! ほんとうに……ありがとう!」 


 と、ティエルナの面々を見回して、晴れやかに笑った。

 初めて見る、マリエッタ姫の心からの笑顔だった。

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