第九十五話 対クラーケン戦・中編 ~水魔法、限界突破
「そこらじゅうに、半魚人がいるよー!」
建物や柱の陰に、大勢の半魚人が潜んでいた。
その目は緑の光を放っており、こちらの光が届かない場所にも、星のように瞬いて見える。
そこかしこにある巨大な柱には、シーサーペントや巨大イカが巻き付き、こちらをうかがっていた。
クラーケンは、その都市の上で揺らめいている。
「い、いいね……この雰囲気……都市が、は、廃墟だったらもっと良かったのに」
リリアーナが斜め上の感想をもらす。廃墟趣味も分からんでもないが。
しかし、最終的にはそうなるんじゃないかな……?
しかし、この数、一体どのくらいの軍勢なのか。
俺は探知妖精さんを発動させて、調べてもらった。
「半魚人二万五千! シーサーペント五十匹! 巨大イカ・巨大サメそれぞれ三十匹!
山の洞窟に、改造人間、千人! 以上、です!」
と、妖精さんの報告。思った以上に半魚人が多い。
そして、連れ去って深海に適応させた人間も、そうとうな数だ。
「しかも、その人間には洞窟ぐらしをさせてるとか……扱いが悪いな」
とか言ってると、クラーケンが触手を二本、天に掲げてゆらゆら揺らし始めた。
それが合図となって、山の洞窟からその改造人間たちが出現。
「で、出た! うわー、半魚人と人間のハーフみたい!」
レリアの言う通り、改造人間はまさにそれらの中間の生き物のような外見になっていた。
それぞれ人間だった頃の得物……短剣やら斧やら、統一性のない武器を装備している。
中にはモップを構えている者もいた。
さらわれたのは冒険者とは限らないからな……
「……リリアーナ。彼らを、元に戻せる?」
「【生命操作】で? た、たぶんできるよ」
「よし。彼らも救おう。
しかしクラーケンは、生まれながらにして【生命操作】を使えるってことになるのか?」
単純そうな見た目のわりに、複雑な技能をもってやがる……
そしてふたたびクラーケンが触手を揺らす。
ざわりと改造人間たちの間に殺気が満ち、こちらへ向かって泳ぎ始めた。
グゲゲゲ、と半魚人たちが一斉に笑い出した。
「まずは、人間同士で争わせようってのか。
クラーケン、徹底的に自分自身は戦わない主義か、嫌なやつ」
「おにいちゃん。みねうち?」
そうだな……全員、気絶させていきたいところだが。
千人、一人ひとりをってのは面倒だな。さて?
「あ、じゃあ、あたしに任せて!」
とレリアが手を上げた。
そして、「はい!」と何かの錠剤を渡してくる。
「ぜったい眠れない薬だよ!」
?
……って、そういうことね。
「があーーーっ!」
改造人間たちが、いったん俺たちを包囲したあと、一斉にかかってきた。
改造されてるだけあって、確かに半魚人なみに海中を泳げるようだ。
目は赤く光り、完全に正気ではない。
そして彼らは間合いを詰め、俺たちを押しつぶさんばかりに迫る……
「が……」
しかし、急に目をとろんとさせたかと思うと、全員、いびきをかいて眠り始めた。
手足をだらりと下に伸ばし、ぷかぷかと海中に漂っている。
俺たちは『眠れない薬を』服用し、そのうえで周囲の海水に『眠り薬』の液体をまいておいたのだ。
それを吸引した改造人間は、あっという間に眠りについたのだった。
「グゲ??」
半魚人たちの間に動揺が広がる。
その間に、改造人間たちをマティのアイテムボックスに収納していった。
戦いが終わったら、リリアーナに一仕事してもらおう。
「同士討ちさせようったって、そうはいかないよ」
クラーケンに向かって言ってみた。
が、クラーケンは相変わらず無言で海中をゆらゆらしている。
リアクションも何もないと、少しやりづらいな。
その代わり、また二本の触手を上に持ち上げ、振り回した。
今度は半魚人たちやシーサーペントの間から、殺気が放たれだした。
やはり、あの触手で指示を出しているようだ。
「む、向かってくる! さ、さすがにぼく、あの数、操りきれるか、自信がないよ!?」
リリアーナが俺の後ろに引っ込んだ。
さすがにイカとサメを全部操ったところで、シーサーペントと同士討ちがせいぜいだろう。
残る二万五千の半魚人が、その間にかかってくる。
「さすがにあの数、面倒すぎるな。
……なら、クラーケン自身に、やらせてみようか」
と俺はニヤリと笑う。
「く、クラーケンを、操るの? そ、そんな事が……!?」
ちょっと違うかな。
「【強く、可愛く、神々しく】、『ウォーターショット』!」
初級の水魔法が、スキルにより最上級を越えるレベルまで格上げされた。
突き出した俺の腕に、水流がうなり、まとわりつく。
びっ、と俺は指を三本、クラーケンに向けて突き出した。
「限界突破の、神話級水系魔法……三叉神槍!
この世の全ての水を、自在に操る……!」
俺が指を軽く振ると、クラーケンを中心にして、一斉に水が引いていった。
深海に、とつぜん空気で満たされた空間が開けたのだ。
その大きさは、半魚人の都市と同じ規模……!
浮力を失ったクラーケンが、ズズン……と轟音をたてて都市に落下した。
なにせクジラ百頭分のデカさだ。
凄まじい重量で次々にイブリ・クスの建物がつぶされ、崩れていった。
立ち並んでいた巨大な柱も、なぎ倒され、それがまた崩壊を呼ぶ。
半魚人たちも、半数くらいがそれらに巻き込まれてしまった。
「と、都市の半分が、がれきに……!」
リリアーナお望みの、廃墟まであと一歩だ。
「シーサーペントも巨大イカも、落っこちたよー! なんか苦しそう!」
「どうやらやつらは、空気の中では生きられないらしい。
クラーケンや半魚人は、その点は大丈夫のようだな……なら」
俺がさした指をぐるっと回す。
すると、生き残った半魚人たちがもがきだし、喉を掴んでバタバタと倒れていった。
「お、お姉さま! こ、今度はなにを……?」
「あの中の、水分という水分を蒸発させた」
半魚人たちはいきなり干物にされたようなものだ。
だがクラーケンは、特に変わった様子がない。
触手を足代わりにして、立ち上がろうとしていた。全然、こたえてないな。
「クラゲは九割。水分で出来てるはず?」
マティが首をかしげた。
「クラーケンをクラゲと一緒にしてはダメなんだろうけど……
水を失っても平気なんて、どんな生き物なんだ?」
これはある意味、ドラゴンよりやっかいたぞ。
しかしこれでシーサーペント、巨大サメやイカ、半魚人たちは全滅。
クラーケンが操れるやつらは居なくなった……!
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