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第九十四話 対クラーケン戦・前編 ~イブリ・クスへ

 シーサーペントとサメを片付けても、クラーケンには特に変化は見られない。

 姿を現した時から、海底から少し上の海中を、ずっと静かにゆらゆらと揺れている。


 見た目は完全にクラゲだが、丸い傘部分は真っ黒だ。

 傘の下からは、無数の白い触手が下に向かって生え、うねるように動いていた。


「目も、口もなさそうだけど。こっち、見えてるのかなー?」


 クラゲと同じで、何を考えてるのか全く分からないな……

 どうやって、半魚人どもやシーサーペントに命令を下してるのか。 


「ともかく、こいつが敵の総大将なのには間違いない。仕留めるぞ……


 【強く、可愛く、頼もしく】、『アイスミサイル』!」


 クラーケンに向かってかざした俺の手の先に、巨大な氷の槍が形作られ、勢いよく発射された。


 だがクラーケンの手前数メートルあたりで、ゴォーン! と音を立てて氷の槍は止まり……

 そして粉々に粉砕されてしまった。


 最上級氷結魔法が、弾かれるか。


「はっ!」


 今度はマティが魔法剣を発動。

 宇宙的安物の剣に、勇者専用の光魔法をまとわせ、クラーケンに向けて振り下ろした。

 

 しかし、その飛ぶ光の斬撃も、クラーケンには届かない。

 やはり手前で受け止められ、散らされてしまう。

 

「なかなか固い、魔法障壁で周囲を覆っているようだな……なら。


 【強く、可愛く、頼もしく】、『ディスペル』!」


 強化された解呪魔法が俺の手から放たれた。


 それがクラーケンの周囲に展開している、魔法障壁に当たった瞬間……

 今まで見えなかった透明な膜が、七色に光り輝き、その存在を現した。


 そして、上から徐々に光の粒子となって消えていく。


「障壁、なくなったみたいだね!」


 レリアが手を叩いた。


 すると、クラーケンがゆっくりと動き出した。 

 徐々に俺たちから離れていく……撤退するつもりか?


「逃がすわけないだろ」


 俺たちも追いかける姿勢を取る。


 と、クラーケンは触手を二本、上に向かって伸ばし、ゆらゆらと動かし始めた。


「……なんだ?」


「な、仲間を、呼んでるんじゃ?」


 リリアーナの推察通り、クラーケンが向かう先から、次々とシーサーペントや巨大サメが出現。

 こちらへ猛然と向かって来る。


「あ、甘いね。巨大サメが居る限り……む、無駄なんだ。


 サメたち……シーサーペントは、敵だよ……


 さ、さあ、かみつけ……食べちゃえ……」 


 リリアーナが目を閉じ、ぶつぶつとつぶやく。


 すると、こちらへ向かって来ていた全ての巨大サメが、くるりと方向転換。

 並行していたシーサーペントどもに、食らいつきはじめた。


「【生物操作】、便利すぎる。いいぞ、リリアーナ」


「お、お姉さまに褒められた! う、うへへ……も、もっとご褒美を……」


 相変わらず、リリアーナは俺の腰にしがみついている。

 その手が俺の胸の方へ向かっていくのを、ぴしゃりと手ではたいた。


「わーん!」 


 わーんじゃない。

 全く、嫁入り前の女性の胸を揉もうとするとは、不届きなやつ。


(あなたが、それを言いますか!?)


 あ、お、おはようございます。今日は遅いですね、ファニーさん……


(意識上には出てきてないだけで、いつもあなたのやる事は感じてますからね!?


 何度も何度もわたしの胸を揉んだ事、分かってますからね!?)


 い、いやそこまで何度も揉んだはずは……ごめんなさい。


(あ、いや、すいません、決戦の時に。ちゃんと、無事で帰ってきてくださいね。

 

 ご無事を、お祈りしています……!)


 無事に帰るのは当然だ。

 嫁入り前の体、傷つけるわけにはいかないよ。


(その場合は責任を取って、わたしを貰っていただいても……ん、んんっ!


 と、とにかく頑張ってください!)


 おう。

 などと、やり取りが出来るくらい、わりと余裕はある。


 クラーケンが呼んでいるらしいシーサーペントは、操られた巨大サメと同士討ち。

 それぞれ三十体ほど現れたが、すべてが無力化されていった。

 

「楽ちんだねー! サメ、呼ぶからー!」


「やる事ない。暇」


「まったくだな。このまま、クラーケンを……うおっ!?」


 いきなり俺の足ひれに何かが巻き付き、泳ぎをガクンと止められた。

 海底に潜んでいた、巨大イカが触手を伸ばしてきたのだ。


 色を変えて、海底に擬態していたらしい。


「クラーケン、こんな奴も味方に居たのか、むう」


 巨大イカは次々に触手をからめてくる。

 だが、疑似オリハルコンコーティングのおかげでノーダメージだ。


「ああっ、お姉さまに触手を! うらやましい! ぼ、ぼくだってやった事ないのに!」


 何を言ってるんだ……あと、普通の人間には触手ないだろ……


「つかリリアーナ、このイカも食べない?」


「ぼ、ぼく。イカ、生はちょっと……せ、せめて焼いてください!」


 好き嫌い言ってる場合か。

 つか、水中だと火炎系は威力が出ないんだよな……


 しかし、ここはマティが活躍してくれた。

 すばやく絡みついた触手を断ち切り、縦横無尽に泳ぎ回りつつ、イカの触手を全て斬り払っていく。


 そのまま本体をも真っ二つにして、その破片を手にこちらへやってきた。


「はい。イカの切り身」


 とリリアーナに差し出す。


「な、生はむりー!」


 とリリアーナが拒否したので、


「じゃあ。焼く」


 とマティが切り身を握りしめ、光魔法を発動。

 しばらくして、その手を開くと、焼きイカになっていた。 

 手の中で、熱線系の光魔法を使ったらしい。


「う、うーん。大丈夫かな……」


「大丈夫。鑑定した結果。可食。寄生虫も居ない」


 イカって、寄生虫が居るって言うもんな。

 とりあえず大丈夫そうなので、リリアーナがその焼きイカをかじる。

 

「ちょ、ちょっと大味……で、でも、これでイカが次に来ても、大丈夫」


 巨大サメに続いて、巨大イカが仲間になった。


「こ、これで、次はぼくがイカを使って、お姉さまに触手プレイを……!」


 ……仲間にしないほうが良かったかも。


 しかしこの騒動の間に、クラーケンにかなり距離を離されてしまった。

 態勢を整え、速度を上げて追行にうつる。


 クラーケンはどんどん深い場所へと進んでるようで、徐々に周囲が暗くなってきた。


「光届かない深海……いよいよ、だね……!」


 リリアーナがちょっと楽しそうだ。

 水圧は、既に水着に疑似オリハルコンコーティングをしてあるので問題ない。


 しかし周囲が見えにくくなるのは困るな。


「【広く、可愛く、行き届く】! ライト!」


 丸っこい星がいくつも現れ、周囲を明るく照らし出した。

 これで周囲の視界は確保。かなり先まで見通せる。


「うう。せっかく暗かったのに……」


 がっかりするリリアーナ。

 

「クラーケンを倒したら、消してやるって」



 とかやってると。

 クラーケンがその動きを止めた。


 魔法の光に照らし出されたその場所は……人魚国のような、石造りの都市だった。


「人魚国のとは違って、なにやらまがまがしい気配だな」



 建築物の装飾から造形にいたるまで、とげとげしいシルエットで、それでいてどこか生物的なものも感じさせた。

 石はざらざらとした黒で、その表面は緑色の燐光を帯びている。


 都市の両側には、海底からそびえ立つ山々。

 山には洞窟がいくつもあり、そこにも何か潜んでいそうな感じだ。

 

「……ここが、半魚人どもの国……イブリ・クス、か」


「そこらじゅうに、半魚人がいるよー!」


 建物や柱の陰に、大勢の半魚人が潜んでいた。

 それも、とんでもない数だ……おそらく、数万。


 決戦の舞台に、お招きいただいたってわけだな……!

お読みいただきありがとうございます!


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