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第九十話 簡単な尋問 ~王の慟哭

 コンコン。


 マリエッタ姫が、イブリ・クスからの特使が使っている部屋の扉をノックした。


「マリエッタ・シェルリングです。


 あなた方に、お話があって来ました。ここを、開けていただきたい」


 そして俺たちを振り向き、

 

「……ほ、本当に行くのか。大丈夫だろうな……?」


 いぶかしげな表情をする。


「ただ、話をするだけだって。事を荒立てるようなことは、一切」


 と俺は答えた。

 

 

 会食を行った三日後。


 俺たちは、「特使に挨拶したい」とマリエッタ姫に頼み、こうして部屋の前まで来ていた。

 アポを取るのに、少し時間がかかってしまった。


 その間、探知妖精さんにこっそりやつらを探らせたが……

 やつらは一切会話せず、情報は何も得られなかった。


「……ドウゾ」


 くぐもった声が、部屋の中から聞こえた。


「失礼する」


 と姫が扉を開き、中に入る。

 俺たちもその後に続いた。


「……」


 不気味な四つの魚の目が、じっとこちらを見つめている。

 ……今後、魚料理が出てくるたびに、こいつら思い出しそうでやだな。

 

「こ、この者たちが。あなた方に話があると……


 会食の時は、ろくに話も出来ず、残念だったと……」


 マリエッタが、半魚人たちに話しかけた。

 半魚人たちは何も答えず、変わらずじっとこちらを見るだけだ。


「先日はどうも。私、ティエルナのシルヴィアというもので……」


 と俺が進み出て、あいさつした。

 やはり、半魚人は答えない。


「お二人の名前は?」


「……」


「……」


 やはり返事なし。

 と、半魚人が鼻と思われるあたりをひくひくさせる。


「……?」


 彼らの周りに、微妙に色がついた水が流れてきていた。 


 例によって、あの水はレリアの『素直になる香水』の成分が含まれた水だ。

 それを吸い込ませて、尋問……いや普通に質問するだけ作戦。


 彼らの元へ成分が行くように、【強く、可愛く、たどり着く】で香水瓶を『強化』した。

 ファンシーになった瓶の栓をレリアが後ろ手で抜くと、自動的に目標まで成分が移動してくれる。


「……そろそろいいかな。お二人の名前は?」


「クスティ・カケラ」


「ミスカ・スオメラ」


 素直に答える、特使二人。

 【強く】の効果は、ちゃんと半魚人にも成分が効くようにしてくれている。

 

「え……?」


 会話が成立していることに、マリエッタ姫が困惑しているようだ。 

 特使二人は、姫とも大してコミュニケーションを取ろうとはしなかったみたいだな。


「マリエッタ姫と、ドグラス皇子の結婚について聞きたい。


 無事結婚が済めば、停戦するというのは本当か?」


「嘘ダ。コノ結婚ハ、コノ国ノ民衆ノ気持チヲクジク為ニ行ウ。


 国民カラ慕ワレル、マリエッタ姫ガ我々ノ皇子ト結婚スレバ……」


「我々ニ歯向カオウトイウ、気持チモ萎エルダロウ。


 コノ国ガ屈服スレバ、我々モイタズラニ兵ヲ消耗シナイデ済ム。


 ソウシテコノ国ハ、人間ドモノ国ヘト攻メ入ル、橋頭堡トナル」


 半魚人たちは、唸るような声でたどたどしく告げた。


「なんだって……!?」


 マリエッタ姫が驚愕に表情を歪ませる。


「……結婚式が終わったあとは?」


 俺は質問を続けた。


「結婚式ガ終ワレバ、即座ニコノ国ニ我々ノ軍ガ入ル。


 人魚タチハ、奴隷トナッテ、我々ノ侵攻作戦ニ協力シテモラウ」


「コノ結婚デ、戦争ガ終ワルノハ確カダ。我々ノ完全ナ勝利デ。


 結婚式……楽シミダ。我ラガ神モ、出席ナサレル。


 貴様ラ人魚ドモ。偉大ナル、クラーケン神ニ、ヒレ伏スガイイ……」


 そして半魚人たちは顔を見合わせ、グゲゲゲ、と不気味な声で笑ったのだった。





「なんてことだ……」


 王の間にて。

 さきほどの一件を、マリエッタ姫が報告し、ヴィルホ王は頭を抱えた。


 じいもショックのあまり、椅子に座り込んで一言も話さない。


「やつらは結局、この国を蹂躙するつもりだったのです!


 いま、戦わずしていつ戦うのです。


 このままでは、民はみな奴隷にされ、やつらの良いようにこき使われるだけです!」


 マリエッタが、語気を強くして王に進言した。


「だが……もう、イブリ・クスには承諾の文書を送った。


 やつらは、二日後にはここへ来る……


 皇子率いる主力部隊が……その数、およそ二千……!」


 力なく答える王。

 早いな。最初から奴らは全てを準備し終えている、ということか。


「なら! 全軍をもって、阻止しましょう。


 やつらとの国境線に近い、フィノイ平野なら迎え撃つに都合が良い!

 

 ティエルナの方々も、手を貸してくれます!」


 マリエッタの後ろに控えている、俺たちは皆うなずいた。


「……しかし。結婚式を執り行うには、あと二つ条件があった」


「条件?」


 まだ、なにかあるのか。

 いやな予感しかしないけど。


「我が領海の連邦軍で……彼らの進路上に展開する部隊を、完全に撤退させること。


 結婚式が行われることを、全国民に速やかに通達すること。


 ……というものだ。それらは、既に行われた」 


「……つまり。彼らに道を開けたと。


 二日後には、無人の野を行くがごとく、イブリ・クスの皇子が軍を率いて首都に乗り込む……


 というわけですか」


 俺の言葉に、王がゆっくりとうなずく。

 やつらは国の守りをも、放棄させたわけだ。

 

「なら! 今すぐ、撤回を! 


 撤退させた部隊と、他に展開している部隊を合流させ、反撃するのです!」


 マリエッタが王に詰め寄った。


「その動きがやつらに察知されれば即、完全に準備を整えているやつらは進軍速度を上げる。

 

 こちらの足並みが整わぬうちに、首都まで来るだろう……民を戦に巻き込むことになる。


 そして……マリエッタよ。民の様子を見たか」


「いえ……?」


 王の言葉に、首をかしげるマリエッタ。


「我が国の人々は、結婚式の知らせを受け……意気消沈しておった。


 騒ぎ立て、暴動を起こすような事がないだけ、我が民は賢い。


 だが、気持ちは悲しみに沈んでいる。それは我が軍も同じだろう」


「兵士たちの士気は最悪。そういうことですね」


 俺が王の言葉を引き継いだ。


「なら、判明した奴らの企みを全て公表してしまえば……!」


 なおもマリエッタが抗弁するが、


「それでも、奴らの進軍が早いだろう。……わしが甘かった。


 和平などと言う、甘言に乗り……我が国を破滅へと導いたのは、わしだ。


 それも、わが娘を差し出した上で……


 やはり……わしはあの時、王の座を退くべきだったのだ……」


「ヴィルホ王……父上……」


 王の慟哭に、マリエッタも言葉を失った。


 あの時、というのが少し引っかかるが……

 とりあえず、まとめると。


「三日後に、イブリ・クスの皇子が、主力軍を率いてこの首都まで来る。


 人魚国の全軍は、士気を失った状態。


 クラーケン自身も、結婚式には出席する。そういうことだよね」


 と、俺はマリエッタにあえて明るく声をかけた。

 

「……ああ」


 マリエッタが弱弱しく答える。


「首都防衛隊と、撤退してきた部隊は、合わせてどのくらい?」


「五百、というところだ」


「普通に考えると、少ないけど。でも、この状況は好都合じゃない?


 あちらの重要人物が、なんと総大将を引き連れて首都にやってくるんだ。


 結婚式は、首都中心の神殿で行うんでしょ?


 そこでまとめて、クラーケン軍を全滅させてしまおう」


 人魚の王と娘が、そろって目を剝いて俺を見つめた。ついでにじいも。


「……首都で、戦争しようと言うのか。


 民の命を、財産を、なんだと思っている……!」


 王の弱弱しい言葉に、わずかな怒りが感じ取れる。

 しかし、それをさえぎって、俺は言った。


「人魚たちの命は一人だって失わせない。その上、建物にすら傷一つ付けずに……


 『首都』で、クラーケン全軍を迎え撃とうって話だよ」

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