表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/127

第八十七話 クラーケンの野望 ~人間の借り

「クラーケンが、全生命の支配?」


 いやいや、ドラゴンだってそんな野望は持たないぞ。

 せいぜい――と言うには被害自体は小さくないが――船を襲うくらいのクラーケンがそんな。


 大きさだって、一般的な帆船の二倍程度。

 それに……


「クラーケンが、地上にまで出てくるというのかい?」

 

 エウねーさんも首をひねる。

 クラゲの化け物が地上に上がって来る……ってのは想像しにくい。


「クラーケンは、いま、たまたま海中を主な住処にしてるってだけだ。


 あれはどこでも生きていける。この海には、空を飛んでやってきたのだ」


 マリエッタはそう断言した。


「飛べるの? クラゲがー!?」


 レリアのびっくり声。


 クラゲは水中をふわふわと漂うものだが……

 クラーケンは、そんな感じに空気中も漂うようなことが出来るというのか。


「わけわからんな……」


 しかし、南の海からここヴァレント海の間には、大陸が横たわっている。

 それを越えるためには、空を飛ぶか、この星を逆方向に回って北からのルートしかない。


「われわれの仲間が、目撃もしている。


 その大きさは、クジラ百頭分はあったらしい」


 デカっ!?


 ちょっとした、砦くらいの大きさじゃないか。


「単純な生き物のようだが、知性もあるし魔法も使う。


 伝承では、クラーケンは空の彼方から、海へと落ちてきたとも言われている」

 

 人魚の伝承か……

 本当にそうなら、空を飛ぶ魔法を使う、唯一の存在なのかもしれないな。


「しかし、全生命の支配って……クラーケンがそう宣言したの?」


 俺の疑問をぶつけてみる。


 クラゲがぺらぺら喋るところなんて、想像もできない。

 魔法が使えるなら、意思を伝えることは出来るだろうけど。


「クラーケンは、洗脳のように、生き物を支配下におく。


 我々の仲間も、相当数がサハギンにさらわれ、クラーケンの手によって支配下に落ちた。


 しかしたまたま、その洗脳が解けた仲間がの一人が、なんとか逃げ延び……」


 報告してくれた、というわけか。

 クラゲのくせに精神系魔法の使い手とは。

 

「そして、同じ末路をたどった人間たちの姿も、確認されている」


 マリエッタのその言葉はちょっとした衝撃だった。

 

 もしかして、船を襲ったクラーケンは人間を捕食したのではなく。

 連れ去って支配下においていたと……エルフの里で、あの王がやっていたように。


「しかし、人間は水中では活動できませんよ? ちょっと泳げる程度がせいぜいです」


 と、エリーザ。

 シーサーペントから泳ぎで逃げ切った人が言うか、って感じだが。

 

 でもまあ、素のままでは水中で無力なのは確かだ。

 

「人間は肉体改造のようなものを受け、サハギンに近い姿にされている。


 それにより、水中でも呼吸が出来るようになり、活動できる」


 肉体改造……クラーケンは洗脳だけでなく、そんな事も出来るのか。

 ドラゴンより器用だな。


「その、サハギンってどんな姿なの?」


 レリアが首をかしげながらマリエッタに聞いた。

 人魚はよく物語に出てくるが、半魚人の話はほとんど無いからな……


「なにか、描くものはあるだろうか? 私、それなりに絵心があるので」


 とマリエッタが言うので、エウねーさんが羊皮紙とペンを持ってきて姫に手渡した。

 受け取った姫がさらさら……と手早く描いたものを、こちらに向ける。


 そこには、めちゃくちゃ上手い絵で、グロテスクな半魚人が描かれていた。


「うーん」


 エリーザが気絶して倒れた。


 おばけだけじゃなく、こういうのもダメだったか……

 いやしかし、上手すぎる。

 

 人間と魚が融合した姿が、こと細かく、異様な迫力で描かれていた。


「き、きもちわるいー!」


「これは。ものすごく怖い」


 レリアもマティも、怖い系は得意なはずだが、この絵には二人して身を寄せている。


「わ、わたしも気分が悪くなってきました……」


 とニーナさんも、自室へ引っ込んでしまった。


「うう。こ、これは恐怖絵師として、王都で食っていけそうなレベルだよ。


 ぼくとは全く違う、方向性の才能だ」


 リリアーナが、手で体を抱いて震えながら言った。

 エウねーさんも、あごに手を当てて「確かに」とうなずいている。


 俺もてっきり、ほのぼのした感じか、ヘタウマ系の絵を想像してたんで意表をつかれた。


「実際の姿を忠実に再現したので、私の創造とかは入ってはいない。


 絵描きの才能ではない……」


 姫に念押しされた。

 少し顔が赤いので、褒められて照れてるのかもしれない。

 

 しかし、こんな奴らが地上へ上がって、徒党を組んで押し寄せたら……

 エリーザのように気を失うか、戦う意思をくじかれる者も多数、出て来そうだ。



「とりあえず。私の話はこんなところだ。この先、いつになるかは分からないが……


 私の国の次は、あなた方の国が、このような輩に蹂躙されることになるだろう。

 

 今のうちに、対策を練っておかれるとよい。


 地上には、シーサーペントやサメが出てこれない分……


 クラーケンとサハギンとの戦いが、主になるだろう」


 と、マリエッタが話を終えた。


「ちょっと待って。なんかもう、人魚国が支配下におかれる事前提になってない?」


 と俺が姫に尋ねる。

 姫は顔を伏せ、


「……残念だが。サハギンだけならともかく、深海からのモンスターどもも相手では……


 今もじわじわと我が領土は、削られていく一方だ。


 だが諦めたわけではない。私も最後まで、命と誇りをかけて戦い抜く。


 例え……私一人になっても……だ!」


 姫はきっ、と視線を天井に向け、唇をかみしめた。

 

「……そろそろ、私は海へ戻ろう。さらばだ、おのおのがた。


 命を救っていただいたこと、決して忘れぬ。


 さっきの話だけでは、その恩に報いられたとは思えないが」


 いやいや。

 そんな話をされて、これで終わりって。


「……その戦い。私たちも協力しよう」


 と、俺は立ち上がって姫に向き合う。


「なんだって……?」


 マリエッタは意外な事を聞かされた、というような表情だ。


「話からすると……あなたたち人魚は、深海からの侵略から、ある意味人間を守っている。


 クラーケンと戦い、その勢力が地上へ押し寄せるのを、いま防いでいると言える。


 これは、大きな……借りだ」


 と、ティエルナの面々(エリーザ除く)を振り向き、ニヤリと笑って見せた。


「確かにー! 


 人魚のひとたちが居なきゃ、今頃クラーケン軍がこっちに攻め入ってたかもだよねー!」


「出た。おにいちゃんの。『借りは返す』」


 レリアとマティも、笑ってうなずいている。



 これは俺個人の借りではなく、人間全体の借りではあるかもだけど。


 人間の誰も知らない借りを、誰も知らないうちに返したって、別にいいだろ?

 っていうのは、かっこつけすぎかな。

お読みいただきありがとうございます!


「面白かった」「続きが気になる」「興味ある」と思ってくださった方、


下のほうにある☆☆☆☆☆に評価をお願いいたします。


☆一つからでも構いませんのでどうぞ採点してやってください。


ブックマークしていただけたなら、さらなるやる気に繋がります!


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ