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第八十五話 シーサーペント襲来 ~人魚との出会い

 ばちゃばちゃばちゃ……



「ぷ、ぷはっ! いいかなー、これで?」


「ああ、だいぶ良くなってきた。その調子。息継ぎをちゃんとね」


 俺はレリアの両手を握って、浅瀬で泳ぎの練習に付き合っている。

 今はバタ足の練習中だ。


 レリアは泳ぐことも初めてだったため、こうして俺が教えている。


「こ、これ。あたしの『水中呼吸の薬』を使えば、ぶはっ! 


 息継ぎ、しなくて良いんじゃない?」


 また便利そうな薬を作ったみたいだけど、泳ぐのにそれはちょっとズルかな?

 

「薬とか使わず、普通に泳げるようになっておいて、損はないと思うよ」  


「うー! がんばる! ぶはっ!」


 レリアはそう言って、練習を続ける。いいぞ。



「お姉さまの手ほどきを受けるのは、ぼ、ぼくが最初に!」


 と言って張り切っていたリリアーナは、早々にスタミナ切れでダウン。

 デッキチェアに横たわって肌を焼いている、エウねーさんの隣で寝ている。


 日焼けは嫌だ、という事で、ビーチパラソルがすぐ横に突き立てられていた。 


「次は。わたし」


「マティは、もう十分泳げるようになったろ。後は一人でも上達するさ」


「むー。【高速成長】のスキル。邪魔」


 上達が早すぎて、おにいちゃんと手をつなぐ時間が無くなった。

 そう言ってマティは頬を膨らませた。



 エリーザは、例の水着で「どこまでも行ける!」とか言って遠泳中。

 周囲を見回しても姿が見えないので、ほんとにどこまで行ったやら。


 ニーナさんは、しばらく娘の泳ぎの練習を眺めていたが、今はパラソルの陰で読書している。


「私は正直、元の小屋で、シルヴァンさんの体の管理をしていたかったのですが……」


 毎日、保存カプセルから一度出して、俺の体を丁寧に洗ったりしてくれてるらしい。 

 エウねーさんはとても助かると言っていたが。


 俺の裸体をご婦人に拭いてもらうなんて、ありがたくもあり恥ずかしくもあり……


「ああ。一日一回はあの体を拝まないと、やっぱり調子が上がりませんわ」


 こんなことも言いだす始末だし。

 正直この人に任せたままで良いものか、未だに迷っている。



「ぷは! つかれたー!」


「少し休憩しよう」


 レリアが波打ち際に寝転がり、胸を上下させている。

 俺はその横に座って、目の前の海を眺めた。


 どこまでも続く青、寄せては返す波の音、癒される……


「あれはエリーザかな?」


 かなり沖のほうから、白波を立てながら、こちらに向かって泳いでくるのが見えた。

 

「ん?」


 エリーザのさらに向こう、なにか細長い三角形のシルエットが見える。

 ……シーサーペントの背びれじゃないかアレ!?


 それも、クソデカい!



「ぶはっ! 巨大シーサーペントが出ました!」


 浜辺までたどり着いたエリーザが、海から上がりながら叫んだ。


 遅れて、シーサーペントがその鎌首をもたげながら、海中から姿を現す。


「【強く、可愛く、頼もしく】! 『ウィンドカッター』!


 蝶々の羽を生やした、緑髪の少女の姿をした精霊が現れ、猛烈な風をまとう。

 そしてシーサーペントに向かって、目にも止まらない速度で突進。


 直後、シーサーペントの首が、切り裂かれて空高く飛んだ。


「お見事です! シルヴィアさま!」


 肩で息をしているエリーザが拍手した。

 しかしよく、こんなのから泳いで逃げられたものだ。


「水の抵抗が少ない、この水着でなければ危ない所でした!」


 そうなのかなあ?



 一拍おいて、どすん、と空からシーサーペントの首が落ちてきた。


「うわあ。おっきーい!」


 レリアが驚きと感心の入り混じった声を上げる。

 確かに、人間なんて簡単にひと飲み出来そうな、巨大な口だ。


「普通のシーサーペントは、ここまでデカくない。


 突然変異かなにかだろうか」


 って、その口の牙の間から、人の手が出てる!?


「だ、誰か食べられたのかなー?」


 レリアが体を震わせながら言った。


「生きてる。でも。人間じゃない」


 マティが鑑定し、報告した。


 その手を掴み、ずるりと牙の間から引き出す。

 波打つ長い髪をした、女性だ。


 しかしその下半身は、完全に魚だった。

  

「セイレーン……人魚だ!」


「初めて見たよー……すごい、きれい……」


 ぐったりしている様子の人魚を眺めながら、レリアがため息をつく。


「水色の髪。魚の下半身。物語の人魚そのもの」


 マティも少し興奮が抑えられないようだ。


 とはいえ人魚自体は、完全におとぎ話の存在ではなく、実在を確認されてはいる。

 ただ、人前に姿を見せる事はまずなく、幻の種族のように扱われている。


 ……しかし、話では貝殻の胸当てがよく描写されるけど。

 実際はなんか、ビキニアーマーっぽい……?



「シーサーペントに食べられかけだったのでしょうか?」


「けがはない。すぐ目を覚ます」


 マティの言う通り、しばらくのちに人魚は意識を取り戻し、その目をゆっくりと開いた。


「大丈夫?」


 ティエルナを代表して、俺が聞いてみる。言葉、通じれば良いが。


「……はっ? に、人間!?」


「おお、通じるみたいだ。私たちは……」


 手を差し伸べるが、人魚はびくりと体を震わせる。


「わ、私は人間に囚われたのか!?


 そして、そ、そんな大勢で! 私を辱めようというのか! くっ……殺せ!」


 は?


「私は、誇り高き人魚姫騎士のマリエッタ・シェルリング!


 人間たちにこのような野外で、屈辱を与えられるくらいなら……


 私は死を選ぼう!」


 そう言いながら、きっ、とこちらを睨みつけてきた。

 誤解があるようです。それも、妙な方向の。


 とりあえず、落ち着こう?




「……では、あなた方がシーサーペントを倒し、私を救ってくれたと?」


 浜辺に頭だけ残っているシーサーペントと、俺たちを見比べるマリエッタ。


「……そうだった。思い出した。私はシーサーペントに襲われたのだ。


 だとしたら、申し訳ない。感謝する。あなた方は命の恩人だったようだ。


 真っ昼間から、こんな野外で、私の純潔を蹂躙しようという輩ではなかったようだ」


 マリエッタが頭を下げ、謝罪の意を示してきた。

 しかし、すごい事考える姫だな。


「シーサーペントに食べられて、よく五体満足でいられたね」


「ああ……追いつかれ、噛み砕かれる瞬間。逆に口の中へ飛び込んだのだ。


 そして、牙の一本にしがみつき、飲み込まれるのを回避した……というわけだ」


 勇気の選択だな、助かる道はそれしか無かったんだろう。


「しかし、それから外へと脱出する機会をうかがっていたのだが。


 シーサーペントの舌に強打され……気を失っていたらしい」

 

 それで飲み込まれなかったのは幸運だな……牙の間にいい具合に挟まったみたいだ。

 そして、前後の記憶が飛んでしまったのかな。


 ともかく助かって良かった。



「しかし……あの巨大シーサーペントを倒してしまわれるとは。


 とてつもない、実力者のようだ。人は見かけによらぬというのは、このことか」


 マリエッタが驚愕といった面持ちで、俺たちを見回してきた。


「倒したのは、シルヴィアちゃんでーす!」


「です。簡単に。一撃必殺」


 と、レリアとマティが俺の両側から、俺の両手を持ち上げて万歳させてきた。

 ちょっと恥ずかしいぞ。


「ひ、一人でやったと申されるのか!? それも、簡単に!?


 と、とんでもない話だ。にわかには信じがたい……!


 あれを倒すためには我が騎士団、百名総がかりでないと到底無理だというのに!


 しかし、嘘を言ってるようにも思えぬ……」


 ひとしきり騒いだのち、落ち着きを取り戻した姫が、俺のほうに向きなおる。


「シルヴィアどの。改めて、礼を言う。


 私は、人魚国テレース連邦のマリエッタ・シェルリング。


 命の恩人に……最大の感謝を」

お読みいただきありがとうございます!


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