第八十二話 三つの力を一つに ~リリアーナの襲撃?
「ほ、本当に見つかったのか!?」
思わず声が震える。
元の体、男の体に戻れる……
ついに、その時が来たのか!?
エウねーさんは、「まあその話はアタシの部屋でな」と言って、歩き出す。
ティエルナの他の面々は、風呂に行くなり個室で休むなり、自由に行動してもらった。
「そ、それで!?」
ねーさんの部屋につき、扉を閉めるなり俺はねーさんに掴みかかった。
「まあ落ち着きな……
見つかった、つっても、まだしばらく時間はかかるんでね」
とエウねーさんは答えた。
「時間?」
「シルヴァンの体に、シルヴァンの魂を戻すには……
この世の理に逆らわなきゃ、無理だ。
理ってのは、死んだ人間は元には戻らない……生き返らないってことだね」
それが、普通だもんな。
死人を操る魔法はあれど……死人を蘇らせる魔法は存在しない。
古代文明のオーブにすら、無かった。
「それを無理やり、どうにかする方法……それは、三つのオーブの複合技だ。
まず『生命のオーブ』で、シルヴァンの肉体を活性化させる」
保存液に浸かってるとはいえ、魂を失った肉体は徐々に劣化していくようだからな……
「なるほど、そして?」
「そして『時空のオーブ』で、天国に接続する」
は?!
突然、話が飛んだような!? て、天国?
「天国ってのは、仮の名前さ。
この世の全ての魂が、帰るところであり、生まれるところだ。
命ってモノの大元となるエネルギーが、そこにあるんだ」
うーん、そうなのか……とかしか言えないな。
この世界のどこかに、そんな場所があるなんて。
「『時空のオーブ』は時間と空間を操る秘術だ。その空間を操る、っていう方を使う。
そして『天国』に接続し……魂のエネルギーを、ちょいといただく」
エウねーさんがニヤリと笑う。
「いただく、って……」
良いのかなそんな事して……
「魂のエネルギー自体は、人間も動物も植物も関係ない状態のものなのさ。
だから、そんなに気にすることはないよ。
誰かの人間の魂がその分無くなる、ってほどでもない。
例えるなら、世界中の生命からほんのちょっと元気を分けてもらう、程度の話だ」
それなら、まあ……良いのかな?
自分のために誰か犠牲になるとか、そんな話だと気分が悪いからな……
「そして時間がかかるって言うのは、天国の場所の特定と……
そこからエネルギーを運ぶ、経路の確保。
それが、ちょっと手間になりそうって話なんだ」
なるほど……それなら、仕方ない。
今すぐ、ってわけにもいかなくても、十分良い話だし。
「そして、天国から魂のエネルギーを得たあと『知性のオーブ』で、精神の力を植え付ける。
魂はそのままでは、ただの生命エネルギーだ。精神あってこそ、人間の魂たりえる。
まあこの場合、誰のものでもない無個性の精神、になるけど」
ちょっと難しい話になってきた。
まあともかく、三つのオーブの秘術を合わせることで、人の魂が出来るらしい……?
「……って待った。魂を作ってどうするんだ。
私の魂を、体に戻すって話では?」
「今の体の中に眠ってる魂には、オマエの魂が引っ付いてるって話、聞いてるだろ」
ああ、なんか魂同志はぺたっと引っ付く、って話はだいぶ前に聞いた。
「それを利用する。まずシルヴァンの体に、作り出した仮の魂を入れる。
本人の魂は、どうあがいても本人の死体には戻せない、ってこの世のルールがあるが。
誰のでもない魂なら、入れられる。これはある意味ネクロマンサーの秘術に近い」
確かに、ネクロマンサーは死体に微量の魂エネルギーを入れて操る、と聞く。
その魂エネルギーは術者本人から、抽出するようだ。
「そして、シルヴァンの体に入った、仮の魂に……」
「私の魂を入れて引っ付ける……ってわけか!」
なるほど、それなら元の体に戻れる! いま、ファニーの体に入っているように!
「以上が、元の体に戻る理屈だ。どうだ、だいぶ進展しただろう!」
エウねーさんが得意そうに胸を張った。かなりのドヤ顔だ。
俺は思わず、エウねーさんに抱き着いてしまった。
「ありがとう! 恩に着る! これはとてつもなく大きな借りだ!
一生かけて、返せるかどうかの!」
「お……おいおい、あまり大きい事を言うもんじゃないよ。
そうしたら、アタシはオマエを一生、自由にこき使える立場になるよ?」
やや照れた様子でエウねーさんが答えた。
一瞬そうなってもかまわない、と思ったが……さすがにそれは怖い事になりそうだ。
「ああ、そうだな……なるべく、そうはならないように借りは返していくよ」
体を離して、そう言った。
しかし俺のテンションは上がりっぱなしだ。
長らく求めていた、元の体に戻れる方法が、ようやく見つかったのだ!
古代魔法のオーブにすら、無かった魂の秘術を……
三つのオーブを組み合わせることでどうにかするなんて!
「エウねーさんは天才だな!」
「いや、アタシだけの研究のたまものじゃないよ。
リリアーナの研究が実を結んだ結果でもある。それの複合技さね」
「リリアーナの……」
「ああ、あいつは大したもんだ。きっちり、仕事をしやがった。
今では、尊敬できる研究者同士、仲間同士だ」
そうか……結構、険悪だったねーさんとの仲も良くなったみたいだ。
良い話ばっかりで、嬉しさも倍増だ……!
(おめでとうございます! シルヴァンさん! 良かったですね!)
ファニーも祝福してくれた。
今日は、とてもいい日だ!
「……それで、リリアーナとやってた賭けの話になるんだが」
と、エウねーさんがここで悪い笑いを浮かべる。
「賭け……?」
なんだっけ?
「ああ。
『リリアーナが、アタシの生命のオーブの解析度を、一カ月で越える事が出来れば……
シルヴィアの体を好きにする権利をやる。越えられなかったら、アタシが好きにする』
……ってやつ」
「……」
し、してた、そんな話……!
「お、お姉さまが帰って来たんですって!?」
ここでガラッと扉が開かれ、リリアーナが入って来た。
「か、賭けの話、してましたね!? 約束通り、自由にして良いんですよね!?」
良くない!
俺の同意が全くなかったろ、あの話!
「おうリリアーナ。ちょうどいいとこへ。
まあ、結局あの賭けは、引き分けということになったんだ」
? どういうこと?
「リリアーナは確かに一カ月で越えたが……
同時に、アタシの解析の仕事ぶりも認めることになったのさ」
「エウさんは、す、すごいよ! まさかぼくに匹敵する、研究者がいたなんて。
勝ち負けなんて、決められない!」
だってさ、と得意げな顔を俺に向けるエウねーさん。
「な、なら……引き分けなら、私の体は、誰にも自由には」
「だから。アタシもリリアーナも、同じ権利を得たんだ」
そんな馬鹿なー!?
「こ、この日を一日千秋の思いで待ち続けたよ!
つ、ついにお姉さまの体が、ぼくのものに……!」
顔を紅潮させ、息を荒くするリリアーナ。
手つきが尋常じゃなく怪しい。
い、いやだ! 何をされるか分かったもんじゃないぞこれー!
逃げかける俺の体を、エウねーさんが後ろからガシッと捕まえた。
両腕を俺の脇の下から通して、羽交い絞めにしてくる。
「まあまあ、これも『大きな借りを返す』ってやつに、含まれてると思えば……」
そ、そんな事言われたら俺としては……!
そしてリリアーナが鼻息荒く、にじり寄って来る。
うわあああ!
今日はいい日だったはずではー!?
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