第六十話 デルベック草原へ ~襲撃
そんなわけで、俺たちは馬車で1か月ほどかけ、デルベック草原へとやって来たのだった。
ここは王都からかなりの距離のある、辺境の地だ。
太陽は、ちょうど真上に来たあたり。
調査向き?のいい天気だ。
「な何もなさそうですね、かかか帰りましょうか!」
エリーザが草原に着いて早々、そんな事をいう。
「大丈夫だって、今回の件は、呪いなんかじゃないと思うよ」
「そ、そうですか? シルヴィアさまが、そう言われるなら……」
「ほんとに呪いだったら、ごめんだけど」
「ひぃい! やっぱり帰りゅ!」
冗談だって。
街道を離れて、小高い丘に登る。
そこからは、ひろびろとした緑の草原が見渡せた。
「広いなあ。グロッセート平原とどっちが広いかな」
「遠くに、巨人樹の森が見えますね!」
そこには、エルフたちが暮らす自治領『森の里』がある。
辺境の地であることと、エルフ自体が他種族との関わりをさける傾向にあるため、人々の交流はほぼない。
エルフの若者が、反対を振り切って飛び出してくることが、たまにあるくらいだ。
「でっかい樹だねー! あれが、おかーさんの故郷の樹かあ」
レリアが背伸びして、巨人樹の森を見つめた。
森の国は、周囲を天然の樹で作られた壁に囲まれている。
その樹は巨大樹ほどではないが、それでも数十メートルの高さがあった。
「基本的にいいところだけど、頭が固くて他種族をみくだす傾向があるって、おかーさん言ってた」
なるほど。
そういう傾向にない若者が、外に出ていくのか。
ニーナさんも、そうなのかな。
何の因果かネクロマンサーになり、人間界でも肩身が狭くなって、奈落へと。
なかなかハードな人生……エルフ生だ。
「草原、アルラウネっていうのは居なさそうだねー?」
「人の気配なし。その辺りにあるもの。鑑定結果におかしな点なし」
マティの鑑定と、俺の探知妖精さんの調査からも、妙な要素は見つからなかった。
やっぱり、呪いとかそういうものではなさそうだ。
竜人都市のときみたいな、マナラインの乱れによるものという可能性も考えたが、それも違うっぽい。
「じゃあ、エルフの暗殺部隊ー? あんまり、考えたくないなー。
あたしのおかーさんの故郷の人が、悪いことしてるなんて」
レリアが少しうつむいている。
「まあ、まだ何も分からないから」
俺はレリアの肩を軽くたたいて、草原を適当に歩き出した。
しばらく適当に草原をうろついているうちに、森の里を囲む『天然樹の壁』ちかくまで来てしまった。
「この樹一本一本が、アルラウネやらドリアードだったり……しないか」
マティの鑑定でも、特におかしな点はない。
「明確な敵対行為ではないとはいえ……
あまりこの辺りをうろうろして、エルフに怪しまれるのも厄介だ。
いきなり矢で射かけられないうちに、離れよう」
空が赤く染まって来た。
そろそろ日が暮れる。
俺たちは、最初に登った丘の近くまで戻って来ていた。
「……特に、なにもなかったね」
「『冒険者狩り』も、毎日仕事してるわけでもないかな?
というか、冒険者がここに来ることも数年ぶりだろうし」
「夜は嫌です……早めに、どこかの村とかで宿をとりましょう」
エリーザが周囲を見回しながら、震えた声で言った。
まだ、呪いのイメージから離れられないようだ。
「呪いなら、日中でもおかまいなしだと思うけど……」
周りは草原で視界は良いが、草は人の腰ほどの高さのものもあり、誰かが隠れている可能性はある。
そろそろ、不意打ちに適した時間帯だ。
「一番近くのデルベック村が無くなったのが痛いな、ここから直近の村は結構離れ……」
「上!」
マティの警告のさけび。
ばさっと、四方におもりがついた投げ網が、俺たちの頭上に広がっていた。
マティが即座に剣を抜き、網をバラバラに切り裂く。
同時に、草むらから黒いローブの男たちが現れた。
やっぱり、この件は人為的なものだったか。
「何者か!」
物理が効きそうな相手と分かるや、がぜん元気になったエリーザが問う。
しかし男たちは無視し、こちらに向かってきた。
サササ……と素早い動きで、円を描くように、こちらの周囲をあっという間に取りかこむ。
男たちはフードを深くかぶっていて、顔は全く見えない。
そのうちの一人が、長い筒を口元に持っていき、「ふっ」と息を吹き込んだ。
「吹き矢!」
マティが剣の腹でカン、と弾いた。
「あうっ!」
レリアの叫びに振り向くと、レリアがくたっとくずおれるところだった。
むき出しの腕に、吹き矢が刺さっていた。
「毒!?」
「このっ!」
エリーザがひさびさに双剣を振り回し、次々に放たれる毒矢を切り払い、弾く。
「大丈夫。レリアは気絶しただけ」
マティが鑑定したらしい。昏倒させるだけの毒のようだ。
だが、レリアを傷つけたな!?
「【あばく、可愛く、ものすごく】! ウィンド!」
そよ風程度の風魔法が強化され、うなりをあげて広範囲に吹きすさぶ。
そして襲撃者のローブを、ことごとく引きはがした。彼らの顔の周りには星が飛び、明るく照らし出している。
「襲撃者は、エルフ!?」
金髪に、とがり耳。
彼らはあきらかに、エルフだった。
「しかし、なんか皆老いてるな……?」
老エルフばかりの襲撃者とは、想像もしなかった。
彼らが『冒険者狩り』!?
普通なら隠居してる年だろうに、おそらく魔法で身体を強化しているのだろう。
「チッ」
リーダーと思われる者が、ピッピッと口笛を吹き、それを合図に襲撃者は全員散って姿を隠してしまった。
引き際の良い奴らだ。
「うーん……」
マティがレリアの口に解毒薬を流し込み、回復魔法をかけると、レリアが目を覚ました。
「大丈夫か」
「う、うん。気を失った、だけみたい。だいじょーぶ!」
立ち上がって腕を振り回し、元気のアピールをするレリア。
倒れた時は、けっこうあせったぞ。
「彼らが、冒険者狩りなのでしょうか。
投げ網といい、気絶させるだけの毒といい、我々を捕らえるのが目的のような」
確かに、狩るというより、捕獲のためにしている行動に思える。
なら、行方不明になっている冒険者たちは、エルフに捕まって彼らの里へさらわれた……?
「……エルフの里に入ってみよう。
その中で何かが起こっているのは、確実だ」
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