第五十九話 クエスト探し ~『冒険者狩り』
リリアーナをエウねーさんに預けて数日。
さすがに天才と言われたリリアーナ、オーブの解析は順調らしい。
魔女の小屋の中に、過激な実験し放題の部屋を作ってもらい、生き生きと研究を行っている。
ときどき、エウねーさんと口げんかになるのが玉にキズだが。
ニーナさんが「あらあら」とか間に立って器用に振る舞い、納めてるようだ。
「うーん。めぼしいクエスト、無さそう」
「野良ドラゴンでも出ればいいのにねー!」
「そりゃさすがに緊急事態だ……つか、クエスト報酬にもはや興味がなくなったのが問題かも」
「三つのオーブの報酬で。何もしなくても。食べていける」
俺たちはというと、また王都に戻り、冒険者ギルドでクエスト掲示板を眺めているところ。
もうオーブは集めきったし、それ以外の古代魔法に関わるものも聞いた事がない。
なので魔女の小屋でのんびりしてたら、
「ここは、アンタらのたまり場じゃないんだよ!
冒険者らしく、クエストでもこなしてきな!」
とエウねーさんに、追い出されてしまったのだった。
「おお、英雄ティエルナ! また、戻って来てくれて嬉しいよ!」
「三つ目のオーブ獲得、おめでとう!」
「祝賀会、中止になったのは残念だけど、俺たちはいつでも応援してるからな!」
戦争準備がいったん止まったらしく、王都の人々には笑顔が戻っていた。
皆、明るく俺たちに声をかけてくる。
「よかったね、戦争止められて!」
「しっ、あれはあくまで事故だったし、私たちは何も知らないんだから」
そーだった、と両手を口に当てるレリア。
しかし王都に入る時は、こちらのしでかした事がバレてて、いきなり警備兵に囲まれるのではないか……
などと多少警戒していたが、拍子抜けなくらい何もなく。
探知魔法で念のため探るも、俺たちに対して間者や使い魔のたぐいが放たれている様子も、全くなかった。
ギルドに行くと、また冒険者連中やらギルド職員から、歓迎と祝福の言葉を雨あられとかけられた。
「英雄の嬢ちゃんたち、またまた偉業を成し遂げたってな!」
「今度の目標はなんだい? もう、並みのクエストだと物足りなさすぎるだろう!」
「『王立研究所爆破の犯人探し』とかはどうだ?
あれにもめちゃくちゃ高額な賞金がかかってるぞ!」
その話にはちょっと苦笑いしてしまう。
俺たちは完全にその犯人を知ってるし、かくまっているのだ。
「つか、あれ事故じゃないんだ?」
と何食わぬ顔で聞いてみると、
「あそこの職員はそう証言したみたいだが、王はそう考えてないみたいだ。
他国のスパイか何かが、オーブを奪ったうえで研究所を爆破したのだ! とか言ってるらしい」
と冒険者の一人が答えた。
国をあげて、総力でその犯人を捜すために動いているとか。
当然、冒険者ギルドにもそのクエストが依頼され、破格の賞金が提示されている。
ただ、今のところ手がかりはゼロとのこと。
他国が関わってるなどの証拠も、いっさい出ていない。
「あれは、職員さんの言う通り、事故じゃないかな」
とまた、とぼけてそんな事を言っておいた。
ギルド職員も冒険者たちも、やっぱそうかー、とかうなずいている。
「結局、これは、と思えるクエストはないなあ」
「仕方ないですね! オーブ級のクエストなんてそうそう転がってるわけでもないですし!」
そりゃそうだと言いかけ、ふと掲示板の隅っこの、クエスト依頼の紙に気づいた。
貼られて長いこと放置されているらしく、黄色く変色したそれには『冒険者狩りの調査依頼』とあった。
「冒険者狩り……?」
「ああ、それですか。
数年前から、デルベック草原付近で行方不明になる冒険者パーティが、複数出ているんですよね」
俺らよりも冒険者稼業が長い、エリーザが説明した。
「近くのデルベック村の人たちには、不明者は一切出ていないのですが……
村から出された、モンスター討伐の依頼に応じて向かった冒険者たちが、ですね。
のきなみ、行方不明になったのです」
モンスターにやられたのではなく?
「その草原に出る植物系モンスター、アルラウネは落とす素材も良質で。
以前はよく狩りに行くパーティが居ました。そこまで強いモンスターではないですし。
B級、慣れればC級のパーティでも楽に狩れるような程度です」
ここでエリーザは声を潜めて、
「ところが……数年前から、その平原で次々と冒険者パーティが消える事件が発生。
調査に向かったギルド直属の警備隊も、結局戻らず。
狩るものが居なくなったアルラウネたちは数を増やし……
その後デルベック村は全滅。アルラウネたちも共食いを始め……
今では、生きる者は誰もいない草原になったのです……
狩られまくったアルラウネの呪いという噂も……ひいぃ」
いや、別に怖い話風に話さなくていいから。
アルラウネの呪いなら、なんでアルラウネ自身にも呪いをかけるような真似をしてるんだ。
そして、話してる本人が震えている。
「へえ、ちょっと興味あるなー」
「わたしも。グロッセート平原を思い出す」
ほら、レリアとマティが食いついたぞ。
そういう話、好きだもんな。
「あと、まだその話には続きがあるぞ」
近くに居た、おっさん冒険者が話しかけてきた。
「その後も、冒険者パーティの失踪は続くんだ。
その村の近くに、大きな街道が通ってるんだが、そこをゆくパーティの奴らが次々と」
「へえ?」
「そこは毎日、商人の荷車、巡礼者、旅行者たちがよく行き来してるんだが。
なぜか、冒険者だけ、狙ったように居なくなってしまう」
「だから、『冒険者狩り』なんだね」
俺の答えに、おっさん冒険者が指を鳴らす。
「その通り。そしてついに、とあるA級冒険者パーティすら、そこで行方不明になって以来……
冒険者は、誰も近づかなくなったというわけだ。その依頼も、誰も受ける者はいない。
アルラウネの呪いってのはどうかと思うが、エルフの暗殺部隊が暗躍してるって噂もある。
近くに、エルフ国があるからな」
「どう思う?」
俺はティエルナの面々を見回した。
「怖いですから、やめときましょうね?」
エリーザがやや青い顔をしている。当然乗り気ではなさそうだ。
「誰も受けない依頼。ティエルナなら」
「だねー! あたしたちの出番だよね?」
だよな。満場一致ってことで、受注してみよう。
「一致じゃないです! の、呪いの話を聞かなかったんですか!?」
「怖い話風に味付けしたのは、エリーザじゃないか」
「人からそういう風に聞いたんです! やめときましょ!? 呪いは物理で倒せませんし!
……ああー!?」
俺が受注用紙にサインしてしまったので、エリーザが悲鳴を上げた。
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