第五十八話 リリアーナ、エウねーさんちへ ~シルヴィア争奪戦?
「人の体を使って、女の子を落としまくらないでください!」
ここは夢の世界。
王城へ侵入してオーブを三つとも奪い去り、研究所を爆破したその夜(爆破したのは自分じゃないけど)。
久々に、ファニーとの夜会話である。
「落としまくるとか、そんな事した覚えはないけども……」
「そのうえ、ま、また女の子の胸を揉んでるし、この、お、お……おっぱい賢者!」
また、って自分以外は揉んでないよ?今回のリリアーナだけ!
あとおっぱい賢者って何!?
「そんなに揉みたいなら、わたしのがあるじゃないですか!
……ん、んんっ! とにかく、あ、いえ」
ファニーがちょっと元気なさげになって、
「なんか、怒ってばかりですね、わたし。すいません」
「いや、そんなことは……」
「そういうことを言いに来たんじゃないんです。
その、お気遣いありがとうございました」
?
「バレルビア国の戦争を止めるため、行動を起こされたでしょう。
その時に、わたしが一国の王女であったことに、配慮していただきました」
まあ、研究所の所長には顔を見られてしまったけど。
結果的には彼女……リリアーナをこちら側に引きこめたから、これも結果オーライではある。
「まあ、あなたの立場を悪くするわけには、いかないからね」
一介の冒険者として、名声を築くならともかく、今回やったことは『暗躍』だからなあ。
「亡国の王女でも?」
「いずれ、国を復興されるつもりでしょ?
それが成ったとき、バレルビア国からオーブを盗んだ犯人とか言われたら……格好もつかない」
ふふっと、ファニーが笑った。
「いつかも、元の体に戻れたらわたしの国づくりに手を貸す、と言ってくれましたよね。
ほんとに……嬉しかったです」
あの決意も直接言ったわけじゃないけど、筒抜けなんだよね。
下手なこと、考えられないよなあ。まあ後ろめたい事をしてるつもりはないけども。
今回のオーブ奪回作戦も。
「わたしも、バレルビアの戦争を止める事は大いに賛成です。
今回のあなたの行動に、敬意を表します」
ファニーがぺこりと、礼をする。
今回のは、なかなか強引な手だったけどね。
「あなたは常に、正しいことをされてると思います。わたしの身体を、託すにふさわしい方です」
「だと、いいんだけど」
「もっと胸を張って。……ただ、そのあなたに、惹かれる方々が増えつつあるのが問題ですけど」
最後の方は、ぼそぼそ声で言われたのでよく聞き取れなかった。
そして、そろそろ今回の夜会話の時間も終わりらしい。
「それでは、また。あなたの選択の先に、光がありますように。……すやぁ」
ぱちり。
宿屋のベッドの中で、目をあける。
「……今回は、エリーザさんの『朝ですよ!』で目覚めずにすんだか」
ふと気が付くと、自分の右隣りにマティ、左隣りにリリアーナが引っ付いていた。
それぞれ腕をからめ、寝息を立てている。
「ベッドはそれぞれ用意してあるのに」
今までもたまにこういう事があったが、その時はリリアーナじゃなくレリアだった。
レリアのベッドの方を向くと、こちらに背を向けて寝ている。
「後で何か、言われなきゃいいけど……」
▽
少し時間はさかのぼり。
レリアがふと夜中に目を覚まして、シルヴィアのほうを向いた。
シルヴィアの右隣りにマティが居るのが分かり、つい「あたしも……」とシルヴィアの左隣に行こうとする。
しかし、その場所はリリアーナが既におり、「おねーさま……」などとむにゃむにゃ言いながら寝ていた。
「あう……そこ、あたしのばしょ……」
仕方なく、自分のベッドに戻る。
そうしたら、何故か寝れなくなった。
シルヴィアの隣に行けないことが、ものすごく寂しい。
なんなら、リリアーナをどかしてでも、と思ってしまった事に自分で驚いた。
「うーん……なんだろ、このもやもや……
これが、人を……すきになる、ってことなのかな。……でも」
何度か、寝返りを打って考える。
「あたしがすきなのは、シルヴィアちゃん? それとも、シルヴァンさん?」
前は何も思わなかったのに、今は、風呂場で裸を見られるのが恥ずかしい。
カプセルの中のシルヴァンさんの裸を見るのも、恥ずかしい。
いつから、こうなったんだろう。
「そして、あたしはハーフエルフ。ふつうの人間と、寿命が違う……
あたしのおかーさんも、相手のひととそのことで別れたって。
あたしは、どうすれば、いいのかな……?」
この気持ちを、きちんと整理しないといけない。
もうすぐ、その時が来る。
なぜか、そんな予感にとらわれる、レリアだった。
▽
「朝ですよ!」
といつものエリーザさんの大音声で、皆もそもそとベッドから起き上がる。
今日は、リリアーナを連れて、エウねーさんのところへ行く予定だ。
「……」
レリアは珍しく寝不足のようで、馬車の中でうつらうつらと舟をこいでいた。
「で、オーブ奪還作戦は大成功と。そして、ついでにその子をさらってきたと」
そしてエウねーさんの、木のうろの中……の魔女の小屋。
「さらったとか人聞きが悪い。
ある意味、リリアーナのおかげで追っ手の心配がなくなるくらい、オーブの件は片付いたんだ」
物理的な意味でも。
「ねっ! お姉さま!」
とリリアーナがまた腕を絡めてくる。
ガタっと席を立ちかけ、「おねえちゃんはわたしの……」とマティがぶつぶつ。
エリーザはほほえましい顔つきになり、レリアはまだ頭がゆらゆらしている。
「また、人間関係をややこしくしてきたねえ。
そして、アタシの実験室をこの子に貸し出したい、そういうわけだね」
「また、借りを作る」
「いつものことだあね。この子が、話に聞く天才リリアーナか」
リリアーナは、腕を絡めたまま、小屋の中をあちこち見回している。そして、
「き、汚い部屋、だね」
と自分を完全に棚に上げて、そんなことを言った。
「ああ? いきなりケンカ売って来てるのかい?」
「こ、こんな、整理されてない部屋を見れば、わかる。
オーブの解析が進展しないのも、無理ないね。ぼくなら、もっと早く出来る」
「アタシは全部、どこに何があるか把握してこの状態なんだよ!」
な、なんか相性悪そうだな。
一緒に住まわせて良いのか、心配になる。
「お、オーブは、ぼくが三つまとめて面倒見るよ。お姉さまの、頼みとあっては。
必ず、あの男の体に再び魂を戻せるよう、してみせる」
リリアーナには、来る途中の馬車の中で、二つの頼みごとをした。
オーブの解析。
俺の元の体に魂を戻す方法を、エウねーさんと協力して探って欲しい。
もちろん、ファニーの件はいったん内緒で……
結局『魂の秘術』なるものは見つからなかったわけで、それなら三つの古代魔法の解析でなんとかその道を探れないか。
いちるの望みを、それに賭けることにした。
「へえ、ならお手並み拝見といこうじゃないか。シルヴァン、いやシルヴィアたっての頼みだ。
一応、面倒見てやろう。だが、アタシの小屋をちょっとでも傷つけてみろ。
オマエの研究室ごと、ここの空間の狭間に放り込んで、二度と出れなくしてやるよ!」
「な、なら時空のオーブを使って、出てくるまでだね。
ここは空間を歪めて作る、精霊の隠れ里みたいなもの。
時空のオーブなら、楽勝さ、おばさん」
「おば……!?
よし、そこまで言うなら、アタシの『生命のオーブ』の解析度を1か月で越えてみせな。
もし越えられたら、シルヴィアの体を好きにする権利をやる。
越えられなかったら、アタシが好きにする」
「の、乗った!」
乗るな―!あと人の体を、勝手に賭けの商品にするなあ!
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