第五十六話 オーブ奪回作戦 ~スキルでスニーキング
「さて、どうやって王城の、王立研究所に侵入するか……だが」
俺のスキルでブーストした、『幻影』で擬装しようかと思ったが……
必ず、何かしらの可愛い要素が引っ付いてくる。
近衛兵に成りすまそうにも、『可愛い』近衛兵になってしまえば、一発でバレる。
「私たちであれば、王城に入るくらいは問題ないのでは?」
「ティエルナが王城に入り、出ていったらオーブがなくなってた。
それでは、誰でも犯人にたどり着けてしまう」
エリーザがうーんと頭をかいた。
エウねーさんの違法コピーにも気づいた連中なので、オーブを持ち去った人間にもすぐたどり着くかもしれないが。
それでも、可能な限りはバレないようにするべきだろう。
「いちおう、私は一国の王女だし。元かもだけど。
そんな人間が、戦争を止めるためとはいえ……
他国の政治に介入してる事は、バレないようにしたほうが」
「確かに……さすが、ファ、シルヴィアさまです」
さて、俺のスキルにもよらず、バレないように侵入するには……
レリアが、透明になれる薬でも発明してくれたりすると、都合良いが。
「そーだ!」
と、ここでレリアが人差し指を立てた。
まさか、本当にそんな薬が?
「パリス作戦!」
……なんか、よく分からない作戦が飛び出てきたな。
なんだって?パリス?
「ほら! マティちゃんの、【空間収納】だよー!
パリスも、なんちゃら空間に入って、見えなくなったでしょ!
あのまま、移動できれば、誰にも見られないで済むんじゃない?」
ああ、あのパリスか。確かに……
やつはミンタカのダンジョン最深部で、完全に姿を消して見せた。
それは勇者の固有スキル【空間収納】で、自分自身をアイテムボックス空間に入れ、隠れていたためだった。
「でも、あの中は真っ暗だ。外が見えないと、移動できないような……」
一度、ファビオに入れられたからな。
あまり、また入りたいとは思わない場所だけど。
「時々。空間を中から少しだけ開いて。外を確認しながらなら……」
マティが、行けそうな気がする、という顔をした。
「……よし、何度か練習してみよう。外から見て、不自然じゃなさそうなら」
「パリス作戦で、決行ですね!」
「あいつの名前がついてる作戦、あまり良い気はしないな。空間収納作戦で行こう」
「そのままじゃん! ながいしー!」
レリアがややぶーたれたが、誰に主張するものでもないので、結局それで決定した。
そして、次の日の早朝。
朝もやがけむる、まだ薄暗い時間帯。
バレルビア国王城、南大門。
俺たちは、そこへ詰めている警備兵に一切気づかれずに、門をくぐって王城内部へと入ることに成功した。
「うまくいったね!」
昨日、しばらくアイテムボックス空間でのかくれんぼ移動法を練習して、行けると判断。
朝早くに宿屋をたち、オーブ奪還を決行することにしたのだ。
「ここをまっすぐ行けば、王の寝室がある聖王宮。
右から回って、練兵場を抜ければ王立研究所だ」
アイテムボックス空間でなら、喋っても外に聞こえることは無い。
俺はあらかじめ探知魔法で調べて作った、バレルビア城の地図を見ながら、マティに指示した。
「わかった。おねえちゃん」
マティが目元にちょっとだけの隙間を開き、外を見ながら歩き出した。
俺たちもマティについて行く。
「その曲がり角を左……そして右の扉を抜ける」
アイテムボックス空間は、俺たちが普段居る空間と少しズレた場所にある、という。
中は真っ暗で外は見えないが、歩けば普通に場所移動も出来る。
壁もすり抜ける事が出来るが、壁の中だと隙間から外が見れないので、なるべく建物に沿って俺たちは移動している。
「練兵場あった。……周囲には誰もいない。ちょっと早く歩く」
「りょーかい」
傍から見れば、空間に黒い亀裂が入り、そこからマティの目が覗くという、怪奇現象と映るだろう。
その亀裂が誰かに見られないように、建物や柱の陰に隠れつつ……
人が居ない頃を見計らい、少しずつ進んでいった。
「おねえちゃん。くすぐったい」
「おっと、悪い」
外はマティしか見る余裕がないため、俺はマティの腰を、レリアは俺の腰に掴まって歩く。
そういうやり方だと、小回りの利く少人数が良いだろうということで、エリーザはお留守番だ。
「ついた」
物陰から物陰へ。
早朝にもかかわらず、周囲にはかなりの人員が配置されていたが……
少しずつ移動しながらようやく、城内にある別棟の王立研究所へとたどり着くことが出来た。
そろそろ普通の人間が起きだして、朝ごはんの準備をするような時間帯になっている。
「あれっ?」
ところが、扉を抜けて研究所内に入ったとたん【空間収納】が解除され、俺たちは通常空間に出てしまった。
「うお、スキル封じの結界か!? さすがに警戒厳重ってことか」
「でも、それなら城内ぜんぶに結界あってもおかしくないー?」
レリアの言う通り、ここだけ結界が張られているのも妙な感じだ。
結界を張るのに、よほどコストがかかるようなシロモノなのかもしれないが……
「廊下の向こうから。人が来る」
マティが報告してきた通り、俺たちが今いる丁字路の右から足音が聞こえてきた。
早朝とはいえ、全く人が居ないわけではないか、さすがに。
しかし、荒っぽい手段はとりたくないな、顔も見られるわけには……
「まかせて!」
とレリアが、曲がり角にひっつき、いつものカバンから薬瓶を取り出した。
「!?」
廊下の先からやってきた男が、こちらに曲がろうとした瞬間、鼻先にシュっとひと吹き。
その男は瞬時に、くたっとくずおれて廊下に寝転がってしまった。
「し、死んだ……?」
「しんでないよ! 眠り香水だよー!」
レリアがぶーと頬をふくらませた。冗談だって。
白衣を着た、研究職員らしき男は、すやすやと寝息を立てている。
その男を目立たないよう、適当な無人の部屋に放り込み、俺たちは先を急いだ。
「かくれんぼ戦法が使えないと、この先はレリアの香水が頼りだな」
研究所内は結界により、スキルが使えない。
試した結果、魔法も使用不可だった。さすがに厳重警戒態勢がしかれている。
この状況下、使えるのはレリアの薬関係だけだ。
「えへへ! この匂いを嗅いだら、誰だってねむ……ふあ」
レリアが薬瓶を掲げたところ、残り香のせいかレリア自身もまぶたがとろんとなってきた。
くずおれかけたところを、あやうく抱きとめる。レリアの手から落ちてきた薬瓶もしっかりキャッチ。
「おいおい……しかし、私たちはマスクかなんか、しておいた方がよさそう?
もしもしレリアさん? 起きて?」
ぺしぺしと軽く頬をはたく。
吸い込んだ香水の量は少なかったようで、レリアはうーんと言って目を開けた。
「ん、ん……んー!? な、なんであたし、抱きしめられ……!」
慌てて身を起こしてこちらを突き放した。
そして顔を真っ赤にして、
「えっち! まだ早いよ!」
それは誤解です。てか、まだって?
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