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第五十五話 王の真意 ~ティエルナの選択

 そして、俺たちは王都へとやってきた。


「……ここも、ざわざわしてるね」


 レリアの言う通り、城下町の人々もいつもの賑やかさ、活気のある様子がない。

 忙しく動き回ってはいるが、皆不安そうな顔をしていた。


「いきなり、戦争だからな。ここ数百年、なかったことだし」


 かなり前に周辺国との不可侵条約を結んでから、小競り合いすら起きた事がない。

 まだ、王は正式に宣戦布告などをしてはいないが、噂はもう王都中を駆け回っているようだ。


「おかえり、英雄ティエルナ!」


「久しぶりだね、景気はどうだい?」


 と人々は気さくに声をかけて来てくれはするが、どこかぎこちない感じがする。


「……とりあえず、ギルドを通じて古代魔法の獲得を知らせるか。


 そして、私たちティエルナが、直々に王に最後のオーブを手渡したい……との意思を伝えよう」


「それがかなえば、直接に王の意思を確かめられますね、私たちの意見も進言できるかと」


 オーブの秘術を、戦争に使う事に反対する。

 それが、ティエルナの一致した意見だが……


「……はたして、王がそれで止まってくれるかどうか」




「よく来た、我が英雄たち。ティエルナよ」


 王への直接謁見は、意外にもすぐかなった。

 なにせ、この国に既に二つもの古代魔法のオーブをもたらし、さらに最後のオーブすら確保したのだ。

 

 ギルド長によると、かなりとんとん拍子で俺たちの申し出は受け入れらたと言う。


 そして、今。

 俺たちはこの国の王、マウロ・ ニコロディ三世に直接、顔を合わせている。


「はっ。お久しぶりでございます。みたび、お目にかかれて光栄のいたり」


 俺たちは片膝をついて、頭を垂れて挨拶した。


 マウロ三世。


 二つのオーブを捧げた時に、すでに二度会っている……この国、バレルビアの王。

 以前の印象となんら変わりない、一見温厚な、おだやかな顔つき。


 最初から、戦争を目的としてオーブを集めさせていたのなら、大したタヌキである。


「おぬしらには、会うたびにオーブを献上してもらった。


 そして、ついに最後のオーブまでをも獲得したという。


 あまりにも偉業続きで、おぬしらには驚かされっぱなしだが、今度ばかりは耳を疑った。

 

 一つのパーティがすべてのオーブを集めきるなどと、誰が予想しえただろうか。


 まことであろうな?」


「オーブは、これに」


 と俺はオーブを取り出し、近寄って来た近衛兵に預ける。

 それを王宮魔術師が鑑定し、確かに古代魔法のオーブであることが証明された。


 既にギルドで一度鑑定済みなのだが、それでも念入りに確かめたかったようだ。


「はっはっは! いや、国の英雄を疑うわけではなかったが!


 前代未聞すぎることゆえ、さすがにな。許すがよい。


 おぬしらは、まさに歴史に残る英雄! また、国中が大騒ぎとなるであろう!」


「王よ」


 ここで、俺が少し進み出た。


「最近、私が小耳にはさんだ……周辺国に戦争を仕掛けるという、噂は本当でしょうか」


 前置きも飛ばして、いきなり核心の話。

 近衛兵たちが、ぴくりと反応し、やや警戒している様子を見せた。


「おぬしの耳にも入ったか。ああ……まことである」


 なんと王はあっさりと認めた。


「時空と生命のオーブの力が一部解明できてな。


 それだけでも、一国の軍隊を超える力を秘めている。


 予想通りよ。この力があれば、我が国は周辺国をことごとく支配下に置くことが出来る。


 全ての国を統一した国家を、作ることが出来るのだ」


「……オーブの力は。この国と、国民のため、平和のために使うのではなかったのですか?」


「むろん、平和のために使うとも。我が国が世界を統一すれば、永遠の平和が約束されるのだぞ」


 王は両手を広げ、低く笑った。

 

「そのために多くの血が流れても、ですか」


「血は流れぬよ? 生命のオーブで作り上げた、キマイラ軍団が兵士の代わりに戦うのだ。


 我が国の人間は、一滴の血も流すことはない。キマイラ軍団はまさに無敵。


 この世界のどの軍隊も、赤子の手をひねるがごとし、であろう。歯向かうだけ、無駄なのだ」


 確かに、エウねーさんが作り出したキマイラ程度の力があれば……

 ゴブリンの国をあっさり滅ぼしたように、他国も同じ運命をたどらせることが出来るだろう。


「降伏勧告を受け入れれば、余計な血も流れんですむ。


 勧告を無視した国は知らぬがな。その場合、流れる血は必要経費というものである」


 おいおい……

 この国の王、思ったよりヤバイやつだった。


「王は、最初から、そのつもりで」


「そうとも。だからこそ、古代魔法オーブ獲得には多額の報酬を出した。破格だったであろう?


 しかしオーブのダンジョンが、我が領土に揃っていたのは幸運であった。いや、幸運ではない。


 神が、全てのオーブを手中に納め、全ての国を統一せよ、との啓示を!


 我に与えてくださったのだ!」


 こりゃ駄目だ。

 早くなんとかしたいが、話を聞いて考えを改めるような類の人間とは思えない。


「これ以上は、一介の冒険者ふぜいが立ち入って良い話ではない。


 もう下がってよい。三つ目のオーブ獲得の祝賀会は、戦の準備もあるため、延期である。


 一つ目の国を落とした時、改めて祝勝会と合わせて行おうぞ」





「あんなこわい王様とは、思わなかった!」


 宿屋に部屋を取り、落ち着いたところでレリアが開口一番。

 ぷんすかと言う様子で、両こぶしを胸の前でぎゅっと握った。


「国のため。豊かな生活のため。ぜんぶ都合のいい嘘だった」


 マティも不機嫌顔だ。


「すっかりオーブの力に囚われてる様子でしたね。あれは、聞く耳持たないでしょう。


 大人しく引き下がって正解でした。何か進言したら、最悪私たちは捕らえられていたでしょう」


 俺もエリーザと同じ考えだったため、あの後は特に何も言わず、王の間を後にしたのだった。

 あの場で俺が何か言うたび、近衛兵の警戒度が上がっていってたからな。

 

「でも、最後のオーブまでわたしちゃったけど、良いの?」


「どうせ、オーブは全部、王立研究所に集められるんだ。


 場所が分かってれば、何の問題もない。すぐには解明も出来ないし」

 

 俺は窓の外を見やり、そして部屋の周りを探知魔法で調べた。

 王が放った間者かなにかが、俺たちについている様子はない事を確認。


「では……?」


 エリーザが少し声を潜めた。


「ああ。王が説得に応じなかった場合のプランに、移行しよう」


 俺もひそひそ声で、皆を見回し、にやりと笑う。


「オーブ奪還作戦、だね……!」


 レリアがちょっとわくわくしている様子で、ささやいた。

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