第五十三話 不穏な動き ~ねーさんと再会
「竜人都市、楽しかったね!」
「私としては、メイド服姿のシルヴィアさまが尊すぎて胸いっぱいでした!」
「同意。また着て。おねえちゃん」
「なぜにー!?」
……竜人都市から地上へ戻り、エウねーさんの家への途中。
俺たちは、そんな会話をしながら馬車を進めていた。
ちなみにメイド服一式は、女王から持って帰って良し!と許可をもらっている。
メイド服からは、竜人都市への手掛かりにはならないだろう、という事で。そりゃそうだ。
「も、もういいだろう。結構恥ずかしいし、あれ」
「おねえちゃんノリノリだった。観客の声に答えようと。スカートたくし上げようとしてた」
わーー!
忘れてくれ!あれはほんとに気の迷いなんだ!
「わ、私もあれは正直、ちょっと変態じみた所業かと!
し、しかし! 恥じらいながらスカートを持ち上げる、その表情は実に、実に!
あと少しで見えましたし!」
ガタンと馬車が揺れた。
おいおいエリーザさん、ちゃんと運転してくれよ!?
そんなこんなで、俺たちはまたテリブリアの村までやってきた、のだが。
「なんか、村の雰囲気が妙な感じがする」
「そうだねー、なんか変に静かな気もするし、慌ててる人もいるね?」
村人の何人かが集まって、ひそひそと辺りをうかがいながら、ささやきあったり。
引っ越す準備でもするのか、荷物を抱えて足早に家と馬車を往復する者がいたり。
「何かあったのかな」
「エリーザ、すまないけどちょっと話を聞いて来てくれないか。
私たちは森の入り口で待ってるから」
「わかりました! お任せを!」
俺とマティは村人に良い印象がないし、あまり関わり合いになりたくない。
なのでエリーザに情報収集を頼んだ。
そして森の入り口で待つこと数刻。
戻ってきたエリーザが報告した。
「……戦争が始まる!?」
「ええ、そのようです。なんでも、この国の研究機関が古代魔法のオーブを一部解析。
その力をもって、他国に攻め入ろうと準備を進めているとか……
この村にも、少し前に国軍の小隊が来たと。
深夜だったようで、村人の一人がそれに気づいたものの……
何をしていたのかは分からないとのことです」
おいおい。
俺たち冒険者に、古代魔法を集めさせたのは、それが目的だと言うのか。
王からは、古代シュイロークァの優れた魔法文明に追いつくため、と聞いていたが。
文明を進め、豊かな国づくりに生かす、という話も。
「オーブのちから、そんな風に使うんだね……」
レリアも悲しそうだ。
「確かに、古代魔法発見の報酬額は破格だった。
それだけ、国の発展のためを考えてると思ってたけど……
好意的に受け取り過ぎてしまったかな……」
うーむ、そうなるとこの三つ目のオーブを王に渡す、というのが正しいのかどうか分からなくなってくる。
なんだか、きなくさい話になってきたな……
「とりあえず……エウねーさんのところへ行こう。
村人より、もっと詳しい情報を知っているはずだ」
「そうだね。行ってみよう」
そうして、俺たちは魔女の小屋があるはずの場所までやって来たのだが。
「ど、どうしちゃったんだろ?」
レリアが慌てた声を出した。
「魔女さん。引っ越し?」
「戦争が始まるらしいとのことで、避難なされたのでしょうか?」
エウねーさんとニーナさんが住んでいたはずの、魔女の小屋。
それが建っていた場所には、何もなかった。
「……まさか」
国の古代魔法研究機関に、生命のオーブを違法コピーしたのがバレたか……?
村に来た国軍の小隊というのは、エウねーさんを捕らえるため……?
「【広く、可愛く、幅広く】! 『探知』!」
超広範囲の探知魔法で、エウねーさんを探そうとしたが。
「おっとっと。その必要はないよ!」
木の上から、声が降って来た。
声の主は、一匹のハトだ。
「ハトが、しゃべったー!?」
「ん? ねーさんの使い魔なのか?」
「そうだよ。ついてきな!」
ハトはねーさんの声でそう言って、パタパタと飛び立ち、森のさらに奥の方へと向かって行った。
それを追っていくと、ひときわ大きな木がそびえ立っており、ハトはその木の裏側へ回り込む。
木の裏側には、大きなうろが空いており、ハトはその中に入って行った。
俺たちもそのうろの中に入る。
「あれっ!?」
レリアが真っ先に驚きの声を上げた。
「私たち、いつの間にか、小屋の中に!?」
エリーザも戸惑っている。
そういえば、エウねーさんは言ってた。
小屋の中の空間を、自在に持ち運び出来ると。
その空間を展開するのに場所は選ぶ必要はなく、洞窟の中でも、木のうろの中でも問題ないと。
「ほんとに、木のうろの中に展開したんだな。入り口が変わってるだけで、他は何も変わりない」
以前ちょくちょく訪れた、あの小屋のままだ。
その奥から、ぱたぱたと足音建ててニーナさんがやってきた。
「おかえり! レリア、みなさん!」
「おかーさん! よかった、無事で!」
がばっとニーナさんに抱き着くレリア。
「あんな国軍に捕まるアタシでないよ。さっさとトンズラこいたってね」
エウねーさんも、やってきてニヤリと笑う。
とりあえず、皆大丈夫みたいだな。ほっとした。
「……でも、結局バレてるんじゃないか。例のアレの件」
俺はねーさんに近づき、ぼそりと小声でささやく。
「言うな、さすがに王立のご立派な研究所、ってとこだわな」
ねーさんは片目をつむって、誤魔化した。
「それより、オマエたち、ずいぶんと今回は長くかかったみたいじゃないか。
第三の古代魔法、手に入れられたのかい?」
「それがねー!」
レリアがうれしそうに、手を上げる。
そしてしばらく時間をかけて、竜人都市での出来事を事細かにねーさんに語って聞かせるのだった。
「見たい」
語り終わって、ねーさんが発したのはまずその一言だった。
「竜人都市を? 確かにあれは壮大だtt」
「シルヴィアのメイド服姿。アタシも、見たーい!」
やっぱり、そう来たか……
「そ、それよりも。戦争が始まるとかいう、話を聞きたいな?」
しかし、嬉しそうに【空間収納】からメイド服一式を取り出すマティ。
エリーザの鼻息も荒くなってきた。
「拒否権は、なさそうだな……」
俺らが集めたオーブが原因で、戦争がはじまりそうなのに、ちょっとのんき過ぎない?
「それについては、オマエのメイド服姿を拝んでからだ。詳しく話してやるよ。
戦争が始まるにしても、まだまだ先だし。
まずメイド服だ! 早く見せな! パンツも見せな! 投げ銭やるから!」
その話は勘弁してくれ!
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