第五十二話 宴 ~元の世界へ
頂上決戦メイドバトリング大会が三日目を待たずに終わり……
さらに一日目の優勝者がルール違反で失格、繰り上がりで準優勝者が優勝者へ。
そのようなハプニングが起きたものの……
勝利者をたたえる宴の準備が急ピッチで進められ、なんとか夜には準備が整い、無事開かれることとなった。
「メイドゴーレム部門優勝、MGアデリーナに乾杯!」
「生身部門、統一部門の優勝者、シルヴィアに乾杯!」
竜人都市のあちこちにある、酒場や食事処で。
広場という広場に、ひしめき合っている屋台で。
その全てでアデリーナとシルヴィアの名前が連呼され、乾杯がかわされている。
「肉だ肉だ!」
「酒、もってこーい!」
「ララ~素晴らしき~シルヴィアのメイド服すがた~」
都市じゅうの竜人たちが大声で騒ぎ、踊り、歌っていた。
「街でも、大騒ぎのようじゃの。今日は無礼講じゃ。
好きなだけ、飲め! 食え! 騒げ!」
「いや、私ら未成年なんで酒は……」
俺たちは女王の宮殿にて、女王と食事を同席していた。
目の前には豪華な食事がずらりと並んでいる。
二回、古代魔法の獲得で、こういう晩さん会に招待されて飲み食いした事あるけど。
三回目は竜人の王宮でとは、想像もしてなかったな。
「果物ジュース、いただきます!」
「美味しい。竜人の食事も。人と変わらない」
「私はギリ成人しておりますので、失礼してお酒を」
一口飲んで、バターン!と机に突っ伏すエリーザ。
そこまで弱いのか……
男のほうの身体は一応成人してはいるが、この身体は未成年なんで飲みたくても我慢である。
「いや、めでたい! さすがわしが目を付けたものたちじゃ!
外からの来訪者ということで、何か刺激になることを期待しての強制参加じゃったが。
こうまで見事な結果を残すとは、想像以上なのじゃ!」
「お褒めにあずかり、光栄です。
で、約束のあれは……」
「覚えておるとも。ほれ」
女王はあっさりうなずき、適当にオーブを放り投げてよこした。
「おっとっと!」
あやうく取り落としそうになる。
しかし、ついに三つ目の古代魔法のオーブ、獲得だ!
「きっちり、わしの催しに付き合ってもらったからの。
好きにするとよい。そんなものが存在すると、また悪用しようと企むやつが出てこんとも限らん」
懲役、百五十年をくらったブラスコ改めブラキカムは、独居房で大人しくしている。
MGクラウディアの希望により、彼女も一緒に居る事を許されたので、孤独ではないようだ。
「彼女が支えになって、改心してくれることを望むよ」
「腕は確かじゃからな」
「あのー、竜人の寿命ってどのくらいなんですか?」
レリアが手を挙げて、女王に聞いた。
「平均は三百五十年ほどじゃな」
「じゃ、エルフとおなじくらいなんですね!」
ここでレリアがちらっと、こちらを見てきた。なんだろ?
レリアはハーフエルフだが、寿命はエルフと同等と聞く。
となると……ティエルナで一番最後に残るのはレリアになるのか。
うーん、それも寂しい話だ。長命種と短命種の問題はいつも尽きない。
「『時空のオーブ』の秘術で、その辺なんとかなったりしないかな……」
独り言をつぶやき、もしそれで解決するなら……
時空のオーブも違法コピーするべきだったかな、とつい考えてしまうのだった。
そして、宴も終わり。
竜人都市の滞在も一週間ほどを経過して……
「そろそろ、地上へ戻ろうか」
ということになった。
古代魔法を獲得した冒険者は、可能な限り早く、王に献上する義務がある。
「アデリーナとも、いったんお別れ、だね……」
レリアが寂しそうな声でつぶやく。
俺たちが、地上への帰還をつい先延ばしにしていたのは、その件あってのことだ。
「残念じゃが、ニンゲン世界へメイドゴーレムを連れ出してもらうわけにはいかん。
我々は地上と関わりを絶ち、これからも静かにこの都市で暮らしていきたい。
そのためにはニンゲンに我々が存在していることを、少しでも察知されるような真似は出来ぬ」
と女王は告げた。
地上に竜人が落ちてきた事があったけど、あれは痛恨の事故のようだ。
慌てて回収したらしいけど。
まあ人間一人に目撃された程度なので、生きている竜人というのは今ではもう都市伝説となっている。
「本来なら、おぬしらの記憶も、いじらせてもらうつもりじゃったが……
おぬしらは信頼できるとふんで、そういうことはせん」
もちろん、秘密というなら俺たちの誰もがそれを守るだろう。
しかし、アデリーナとの別れは、なかなか寂しいものがある。
「まあ、おぬしらならこの都市へはフリーパスじゃ。
何度でも、遊びにくるがよい」
「また、来ようじゃないか。アデリーナに会いに」
ティエルナの面々を見回し、俺はつとめて明るく言った。
「うん、うん! 近いうち、ぜーったい!」
「決して。永遠のお別れじゃない」
「もちろんです! 次来る時は私が大会に出たいです!」
「それじゃ、四年後だよー!」
皆が笑い、ようやく明るい雰囲気に戻って来た。
そして出立の日。
地上へと繋がる出口を女王に特別に作ってもらい、俺たちはそこでアデリーナと別れの挨拶をしていた。
「また、来るからね! さみしいけど! それまで元気でね!」
「絶対。約束する」
「まだまだ、私の技術も伝えきれてませんし!」
一人ひとり、握手したりハグしたり。
アデリーナも、心なしか寂しそうにしている。
「ワタシは、女王専属の、メイドゴーレムとなりました。
みなさんと、過ごした日々、は決して忘れません。
ありがとうございました。にこー」
頭を下げ、ぎこちない笑顔を見せてくれた。
しかし、その目には涙のようなものも光っていた。
俺は最後にアデリーナと握手をかわす。
「また来るよ。元気で」
「お元気でご主人様。かたきをとっていただき、実に嬉しかった、です」
「俺の決め台詞、取っちゃうくらいだからなあ。……それじゃ、また」
そして、俺たちは名残おしさを振り切り。
出口へと進んで、アデリーナと竜人都市に別れを告げたのだった……
「ここは……グロッセート平原か」
出口をくぐると光に包まれ、その光が消えた時。
俺たちは、かつての平原に立っていることに気づいた。
空を見上げるが、竜人都市への入り口だった穴はもう無い。
女王に頼んで、平原に影響を及ぼさないよう、都市自体の位置を動かしてもらっている。
今度はもっと高い場所に入り口が開けるはずだ。
「それじゃ、帰るか、王都に。その前に、例によってエウねーさんとこへ寄るけど」
「エウフェーミアさんに、たっぷりお土産話が出来たね!」
「うん。たくさん話そう」
「ですね!」
そしてマティの【空間収納】に入れておいた、馬車を引っ張り出し……
俺たちは、まずエウねーさんの家へと向かうのだった。
――しかし。
俺たちはエウねーさんと再会することは出来なかった。
魔女の小屋が建っていた場所には、何もない、ただの地面が広がってるだけだった……
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