第五十話 ブラスコの奥の手 ~決着
「はっ!」
先手を取り、猛ダッシュでMGクラウディアに迫った。
カタナを右手に持って前に構えたまま、やや意表をつかれた感じのMGクラウディア。
そのカタナを、いきなり俺は両手で挟み込んだ。
「斬られる前の、真剣白刃取りだ」
そのまま折り取ろうとする寸前、MGクラウディアが左手で俺の右手を下から叩いた。
俺の右手が宙に跳ね上がる。
「おっ?」
その瞬間、MGクラウディアは右手をカタナの柄から離し、左手で刀身を横にトンと押す。
するとカタナはMGクラウディアの右手を軸にして回転。
回りながら落ちてくるカタナの柄を左手でつかみ、俺の足元を狙ってなぎ払う。
それを俺はバックステップでかわした。
「やるね」
アデリーナには及ばないものの、良いカスタマイズをしている。
ブラスコも、普通に精進すれば名マスターとして受け入れられたろうに……
「なぜ、卑怯な手を使ってでも優勝したいのか。名誉か?」
「はっ、俺は先を見すえていると言ったろう! そのために、女王を超えるのさぁ!」
「女王を超える?」
「……」
言いすぎた、という風に黙り込むブラスコ。
女王に、何かこだわりがあるのか?
「っと」
MGクラウディアの執拗に足を狙った攻撃を、軸足を入れ替えるステップでかわす。
「とりあえず、お前の奥の手を引きずり出させてもらう。
そのために、少しだけ本気でいくかな!」
ふたたび猛ダッシュでMGクラウディアに詰め寄った。
相手は真っ向からカタナを振り下ろしてくる。
そこへ横薙ぎの手刀!
バキン、とカタナを横からへし折る。
折れた刀身はグラウンドを回転しながら滑っていった。
「くそぉ! 俺のコレクション、二本目が! 一本いくらすると思ってんだ!」
知らんわ。
悔しがるブラスコを尻目に、俺は武器を失ったMGクラウディアに格闘戦をしかけた。
突きのラッシュに、たちまち防戦一方になるMGクラウディア。
「対処、不能。マスター、このまま、では」
「耐えろ、今行く!」
MGクラウディアの言葉に、ブラスコが走り寄って来た。
その前に、俺はMGクラウディアのガードを崩して地面に押し倒し、馬乗りになる。
このまま十秒経てば……
▼
「今行く!」
ブラスコがMGクラウディアの元に駆け寄る。
その目の前で、MGクラウディアは押し倒された。
「だが!」
間に合った。
馬乗り状態のシルヴィアの前に立ち、ブラスコは勝利を確信した。
【精神介入】。
女王のオーブから盗み取った『知性の秘術』の情報の一部を解析、スキルにまで練り上げた、奥の手だ。
「これで、お前の精神活動を一時停止する!」
発動も効果も目には見えないため、バレることはない。
これで、このスキルを使うのは四度目だ。
練習試合のMGエルヴィーラ戦で一回、本番でまた戦った時に一回、MGアデリーナ戦で一回。
そして今。
「これでシルヴィアは止まった! 起き上がって反撃しろ! MGクラウディア!」
だが。
MGクラウディアは起き上がれなかった。
シルヴィアにしっかり押さえられているからだ。
「……なんだと?」
ブラスコの言葉に、なぜか周囲にハートマークをまき散らしているシルヴィアが、にやりと笑った。
▽
「この時を待ってたよ」
俺はブラスコに笑いかける。
ブラスコのスキルは【精神介入】だ。それを使うには相手に近づく必要がある。
アデリーナの時もそうだった。
俺はこの時のため、MGクラウディアを抑えた瞬間、スキルを使用。
【はじく、可愛く、変わりなく】で『マジックシールド』をブーストし、自身にかけた。
これで、魔法やスキルによる精神への攻撃から、身を守る事が出来る。
それにより、ブラスコのスキルは無効化された。
「そして、お前がスキルを使う時、結界は無い」
クリスタルで発動する結界は、あらゆる攻撃・魔法・スキル効果を通さない。
ゆえに、ブラスコが何かを仕掛けてくるときは、それを解除しなければならない。
その隙を、俺はついた。
「【強く、可愛く、結びつく】。『共感』をブラスコと、MGクラウディアに」
共感魔法は、心を通じさせる魔法だ。
LV1だと、せいぜい動物と多少仲良くなれる程度の。
だが、俺のスキルによりブーストされたもので、二人が繋がると……?
「んっ? なんだぁ、この、腹にのしかかるような圧迫感は?」
ブラスコが腹をおさえ、よろけた。
俺がMGクラウディアに馬乗りになって、かけている体重がそのままブラスコに伝わっているのだ。
軽くブーストした重力魔法で、通常より少し重くなっている。
このまま十カウントを待っても勝利になるが、俺は立ち上がり、MGクラウディアを解放した。
「!? なんのつもりだ……?」
「こういうこと」
俺はMGに近づき、軽く突きを繰り出す。
MGクラウディアは両腕でガード。
だが。
「うっ!? 腕に、痛みが!?」
ブラスコが腕をおさえるが、腕自体に異常はなにもない。
「ん……? なんだこれは?」
ブラスコの体から、細くて赤い糸が伸び、MGクラウディアに繋がっていた。
途中に、ハートマークが糸にくっついている。
俺はMGクラウディアに走り寄って抱えあげ、グラウンド中央へと放りなげた。
MGクラウディアは背中から落ちたが、大したダメージもなく立ち上がる。
「ぐえっ!」
しかし、MGクラウディアの受けた衝撃はしっかりとブラスコに伝わっている。
メイドゴーレムにはなんてことのない衝撃だが、生身であるブラスコには十分、痛みになっていた。
これがブーストした『共感』の効果だ。
「MGクラウディアと引き離しておかないと、私がお前にまで攻撃をしてるんじゃないか……
って思われるからな。あと、あまり動けないようにしとくか」
そう言って、ブラスコの足元の地面に結界クリスタルを埋め込んで起動。
ブラスコの周囲に、結界が発生した。
「これで、安心だ」
そう言い残し、MGクラウディアのところまで駆け出した。
「ま、待て! 何をしやがった! ま、まさか」
「そのまさかだよ」
そしてMGクラウディアに、また突きのラッシュを繰り出した。
三分の一ぐらいはガードされたが、それ以外は顔や体にヒットしまくっている。
それでも戦闘不能になるほどのダメージは無い。
「ぐあっ! ごほぉ! い、痛ぇっ! があぁ! ぐっ!」
だが生身のブラスコは違う。
ガードでも十分な痛みとして伝わるのに、ヒットすればなおさら強い痛みになるだろう。
ブラスコが本格的に苦しみだした。
結界を解除して逃げ出そうにも、念入りに地面に埋め込んでおいたので取り出すことも出来ない。
「十分に味わってくれ、これが、卑怯な手で負かされたアデリーナの悔しさのぶん。
私たちの怒りのぶんだ!」
「いでえ! や、やめろぉ! ぐおっ!」
そして俺は最終的に、MGクラウディアを背負い投げで地面に叩きつけ、上から抑え込むことでダウンを取る。
そして十秒……
「第九百九十七回……頂上決戦メイドバトリング大会、統一優勝者は、シルヴィア!」
審判の、声が響き渡った。
コロシアムは、今度こそ崩壊せんばかりの地響きのような歓声に包まれた。
「ふう……痛みのショックで死なないように、手加減するのが難しかったよ」
ブラスコは、結界の中で気絶していた。
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