第四十八話 シルヴィア出場 ~投げ銭、飛ぶ
次の日。
ふたたび中央コロシアムにて。
頂上決戦メイドバトリング大会の二日目、生身部門の試合が開始された。
「今日はおぬしが出るのじゃな。
昨日のMGアデリーナは惜しかったが、素晴らしいものを見せてもらった。
おぬしにも、大いに期待しておるぞ」
俺はメイド服に着替え、特別閲覧席で女王ロレーナと試合前に言葉を交わしていた。
「必ず、優勝してみせますよ」
うむうむ、とうなずく女王。
「がんばって! アデリーナのかたきをうつまで負けないで!」
「ブラスコ。許されない」
「シルヴィアさま、くれぐれも、お気をつけて……!」
ティエルナの面々の激励をうけ、俺は選手控え室へと向かった。
「生身部門、第二試合。シルヴィア! 対、ジャンカルロ!」
俺はゲートから出て、グラウンド中央まで進み出た。
とたんに、観客の盛大な、いや異常に大きい歓声に包まれた。
「うおおおおおおおおおおお!」
「女だ! 女だ! ああああああああ!」
「かわいい! めちゃくちゃかわいい! いいぞおおおおおおおおお!」
な、なんだ。この盛り上がりは一体?
その疑問は、今回の相手を見て氷解した。
思い切り筋肉を盛り上がらせて、マッチョなポージングをする『男の』メイドがそこに居たのだ。
「……これが生身部門の唯一の問題というか。
わざわざ戦いの場に出ていく者に、女性は極端に少ないのじゃ。
まあ、観客も男率が非常に高いがの」
女王ロレーナが、特別席でため息をついた。
「あ、相手は男性じゃないですか? 良いんですか?」
レリアのもっともな疑問。
あまりの対格差に、心配そうなまなざしだ。
「この大会、女性しか参加は認めぬ、というルールはないぞ。
メイド服を着てもらう、という事だけ守れば、男女の区別はなしじゃ」
「女性の戦士。存在しないんですか?」
「いや、普通に居る。
じゃが、好き好んでこういう大会に出たがる者はそうおらん、ということじゃ。
男同士の戦いも、盛り上がる事は盛り上がるんじゃが……あの姿がな……
自分でルールを設定しておいてなんじゃが。あまり美しくない」
「ですよね。可愛くもない」
マティも忖度なく、女王に言葉を返した。
「素晴らしいデザインのメイド服を着たメイドが、華麗に美しく、躍動して技を競い合い、戦う。
それがこの大会のコンセプトだったのじゃが……」
「わかります。男なら執事の格好のほうが良いですよね!」
エリーザが親指を立てながら女王にそう言ったが、
「そういう問題ではない」
「あれっ!?」
女王に一言で切って捨てられたのだった。
シュッシュッ、とジャンカルロと呼ばれた男メイドは拳で素振りを始めている。
「拳闘家か、あのゴツさはまさに超重量級だな」
こちらとの体重差、3倍はありそうだ。
あの素手のパンチをまともに食らえば、こんなか弱い体の命なんて、消し飛んでしまうだろう。
「良いですね? すぐに試合開始、ですよ?」
なんか、審判すらこちらを心配している様子だ。
俺がうなずくと、ときどき振り返りながらも審判席へと戻っていった。
「ジャンカルロ! 手加減しろよ!」
「あんなかわいい子、やっちまったら許さねえからな!」
「軽く、丁重に扱って、無事に家に帰してやってくれ!」
観客の妙な応援が届く。
「おう、嬢ちゃん。悪いこた言わねえ。今すぐ、降参したほうが身のためだぜ」
ジャンカルロが、メイド服に包まれた筋肉を揺らしながら、ごっつい低音でぼそぼそと話しかけてきた。
ぴちぴちのメイド服が、今にもはち切れそうだ。
よくこんなサイズがあったなとも思うが。
「その言葉、そっくり返すよ、おじさん」
と俺はにまっ、と笑いながら答える。
「ほう。言うじゃねえか。遠慮、しねえからな。鐘が鳴ったら、俺は知らねえからな。
この大会、生身部門じゃたまーに死者が出るんだ。
だがそれで中止にもならず、大会は開催され続けている。その意味、分かるだろうな?」
「はいはい。分かってるって。
最初から、全力で来てくれよ。観客の声に耳なんか貸さずに」
適当に手をひらひらさせる。
俺の態度に、ジャンカルロは「後悔すんなよ……!?」と吐き捨て、筋肉を盛り上がらせて威嚇してきた。
そして、ゴワーン、と開始の合図である鐘が打ち鳴らされた……!
「オオオアアアー!」
ジャンカルロは、鐘が鳴ると同時に猛然とダッシュ。
大きく振りかぶった右こぶしを、思い切りこちらへ突き出す。
だが、突き出された拳は空を切った。
俺は既に、【早く、可愛く、変わりなく】でブーストした『俊敏』を自分にかけていた。
「おそいよ」
ジャンカルロの背後から声をかける。
「!? うるぁ!」
意表をつかれたジャンカルロは、むやみやたらと拳を振り回し、めったやたらな攻撃を仕掛けてくる。
だが一発として当たらない。
「ば、ばかな!? このガキ、ちょこまかと! この! ぶっ飛べ!」
「はあ、さっさと終わらせるよ。【上手く、可愛く、たくましく】。『強化』」
スキルで強化された俺の『素手の』攻撃がジャンカルロのボディに炸裂。
的確に叩き込まれた数十発のパンチが、ジャンカルロを吹っ飛ばした。
そしてそのまま、動かなくなる。
観客も、言葉を失った。
「抑え込むまでもないよね。そして十カウントも聞こえないよね?」
実際、審判が十カウント終えるまで、ジャンカルロはピクリともしなかった。
「しょ、勝者! シルヴィア! ……まじか」
思わず本音を混ぜてしまう審判。
その宣言の数秒後、スタジアムが爆発したように湧いた。
「うおおおお! すげえええええ!」
「な、なんだあの嬢ちゃんは! あの巨体を吹っ飛ばしやがった!」
「いいぞおおお! シルヴィア! かわいいいいい!」
そして、何やら紙に包まれたものが大量にグラウンドに投げ込まれてきた。
「なんだこれ?」
拾って開いてみると、竜人都市で使われる通貨だった。価値は分からないが……
「おお、大会始まって以来! 初めて投げ銭システムが機能しておる!」
女王がガタっと席を立ち、興奮していた。
「投げ銭システム……ですか?」
「生身部門に限ってのことじゃが。
観客は自分の推すメイドに対して、投げ銭で応援が出来るのじゃ。
そういう要素がある事も、この大会の売りだったはずじゃが、今まで誰も利用することなく……」
女王はやや悲し気な表情になったが、すぐ明るさを取り戻し、
「今! ようやく、そのシステムが機能しておる! 感動じゃ!
そしてそれだけ、シルヴィアの活躍とメイド服姿が素晴らしいということじゃー!
わしも投げるのじゃあああ!」
どうも選手に対して、投げ銭を贈って良いことになってるみたいだ。
そして審判に謎の袋を手渡されたと思ったら、その投げ銭が自動的にその袋に吸い込まれていく。
魔法による回収システムが構築されているらしい。
「や、どもども。ありがとねー」
と観客に手を振ってみる。
ふたたび大きい歓声が沸き上がり、「シルヴィア! シルヴィア!」と名前が連呼された。
こうして、俺のメイドとしての初戦は、勝利で飾られたのだった。
だが、まだ序の口だ。
このまま、一直線に優勝まで駆け上がる!
★次回、決勝戦~統一決戦開始まで。
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