第四十七話 決勝戦 ~疑惑の決着
「第十三試合の勝者! MGアデリーナ!」
「勝った! また勝った!」
「これで、決勝戦進出だ!」
アデリーナは順調に勝ち進み、次に勝てばメイドゴーレム部門優勝、というところまで来た。
「相手は、前大会優勝MGを破った、ブラスコのMGクラウディアだ!」
そして、決勝戦の相手も決まった。練習試合で、逃亡したブラスコだ。
だがMGクラウディアも勝ち上がり、MGエルヴィーラを本番でも破って決勝進出。
「なんか、いんねんの対決? だね!」
選手控え室で、戻って来たマティとアデリーナを迎える。
「アデリーナも練習試合の時から、さらにレベルアップしました。
一試合一試合、成長しています。これは行けるでしょう!」
「アデリーナ、良い調子だ! マティも代理マスターお疲れ」
マティは【高速成長】のスキルで相手の動きを観察、その都度に的確なアドバイスをアデリーナに送っている。
良いコンビだ、俺より良いアシストが出来てるし。
頭を撫でてやる。
マティが気持ちよさそうにしている様子を見て、アデリーナも頭を差し出してきた。
「お、おう。レリアたちのおかげか、どんどん人間らしくなってきているな?」
撫でてやると、ぎこちないながらも目をつぶって、気持ちいいを表しているようだ。
「次の相手は今まで通りにはいかない。何か奥の手を用意しているはず、油断しないで」
「わかってる。おにいちゃん」
「了解です、ご主人様」
「頂上決戦メイドバトリング大会! メイドゴーレム部門! 決勝戦!
MGクラウディア!対、MGアデリーナ!」
うおおおおお、と観客は最大の盛り上がりを見せる。
二人のMGはグラウンド中央へと進み、一礼。
MGクラウディアの後ろには、ブラスコが控えている。
その様子は、いたって冷静、余裕すら見せていた。
「アデリーナ。奥の手を使われる前に。速攻」
「了解、しました。マティ様」
マティがアデリーナに耳打ちする。
アデリーナがうなずき、戦闘態勢に入った。
「前大会の優勝者を破った者と、今大会のダークホース。どちらも新顔じゃ。
素晴らしいナイスファイトを期待するのじゃ!」
特別観覧席で、女王が檄を飛ばす。
そして、鐘が鳴らされ……メイドゴーレム部門、決勝戦が始まった!
「!」
アデリーナが助言通り、開始早々にダッシュ。
一瞬で間合いを詰め、ロングソードを斜め上から振り下ろした。
カタナでそれを受け止めるMGクラウディア。
「ブラスコ、まだカタナを持っていたか。また剣を斬られないよう、注意しろよ」
当然、マティもアデリーナも分かっているはず。
今のところは、こちらが攻めの圧をかけて、相手をコロシアムの壁に押しやりつつある。
「アデリーナ、そっこー!」
「奥の手を使わせないように、でしょう」
マティは使われる前に仕留める作戦に出たようだ。
そして実際、ブラスコは焦りを見せていた。
「MGクラウディア! 押し返せないのか!?」
「無理です。防ぐので手一杯です」
「くそぉ!」
MGクラウディアはバックステップを繰り返し、間合いを取ろうとしていた。
それをさせまいと、アデリーナは前に出ていく。
剣を振る間にも、エプロンのポケットから取り出したレリアの薬で相手の逃げ場をふさぐ。
そしてついにアデリーナの攻撃で、カタナは飛ばされ、グラウンドに突き立った。
「ちっ!」
ブラスコがMGクラウディアに駆け寄ろうとした。
――ルール上、マスターが直接MGをサポートすることは禁止されている。
そして、MGが相手のマスターに直接攻撃をすることも禁止されている。
「間に入って、攻撃を止めるつもりか!?」
それは減点対象になる行為になるはず……
しかし、ブラスコはMGクラウディアから少し離れた位置で止まり、アデリーナを見ただけだった。
「?」
そしてアデリーナが剣の一撃を加えようとした、その時。
突然、アデリーナの動きが止まった。
「どうした?」
思わず腰を浮かせる。
「アデリーナ。何か問題!?」
マティの声にも反応しない。
MGクラウディアが止まったアデリーナを両手で突き飛ばし、グラウンドに転ばせる。
そしてカタナを回収し、動かないままのアデリーナに攻撃を加え始めた。
「なぜ動かない、アデリーナ!」
「な、なにがあったの!?」
「れ、連続稼働時間の限界でしょうか?!」
確かにアデリーナほどの動きであれば、消費魔力も増えはする。
だが決勝戦で戦う分はあったはずだ。
「これが、奥の手か!?」
地面に転がるアデリーナに攻撃を続けるMGクラウディア。
「審判。ダウンでは」
声をかけても一向に起き上がらないアデリーナを見て、何かのトラブルと判断。
マティは、審判に問いかけた。
「だ、ダウン。カウントを」
審判は、あれだけ攻めていたアデリーナが突然止まったことで戸惑い、ダウンの判断が遅れた。
マティは試合を早く終わらせるべく、ダウンによる負けを選択したのだ。
「攻撃をやめろ。MGクラウディア」
ダウンカウントが始まったので、ブラスコはそう命令した。
ダウン中は攻撃を加えてはならないルールだ。
観客がざわつく中、カウントは進み……
「……十。勝負あり、決勝戦の勝者、MG、クラウディア!」
審判のコロシアムに響き、ブラスコが両手を掲げて勝利者のポーズを取った。
「おい、どうしたんだ?」
「返事をして。起きて」
「どうしちゃったの!? アデリーナちゃん!」
ティエルナの面々がグラウンドまで降り、アデリーナの元に駆け付ける。
動きが止まり、転がされた後も攻撃を食らい続けたので、メイド服はボロボロ。
体には斬撃のあとが残っている。
ミスリル製であるので、簡単に断ち切られたりはないが、それでもカタナの威力がありありと刻まれていた。
「……ワタシ、は」
控え室に運ばれ、ようやく意識を取り戻したアデリーナ。
「なにが。何があったの」
マティが問いかける。心底、心配している様子だ。
「いや、今は早く治療を」
「待って、ください。ご主人様。スキルの、発動を、感知しました」
何を言っているんだ?
「コピー、済みです。スキル名、告げます」
「こ、混乱しているのでしょうか?」
エリーゼが慌てたように言う、が。
「【精神介入】。ブラスコ、所持の、スキルです」
アデリーナの発言に、皆が驚く。
「ワタシの、精神に入り込み、意識を停止させました。なので、動きが。
知性のオーブの情報を、スキルに、昇華したもの。コピー時、解析しました」
「完全に、ルール違反じゃないか!」
試合のルールとして、あらゆる武器・魔法・スキルは使用可能である。
だが唯一、女王のもつ『知性のオーブ』由来の技術は禁止だ。
その技術は女王しか持たないため、そんな事態が起こることはないはずだったが。
「抗議しましょう!」
エリーザが憤る。
しかし、既に今日の大会は終了し、日も暮れた。
女王も自室で休んでいるだろう。
「それは明日に、だな」
「ご主人、様」
アデリーナが腕を伸ばし、俺の服を掴んで来た。
「ワタシ、は。くやしい、です。無念、です。かたきを、うって、ください」
そう言ったアデリーナの目から、なんと涙のようなものがこぼれてきた。
液体ミスリルの体に、そんな機能はないはず……
「アデリーナ。泣いてる」
「あたしも悔しいよ!」
マティとレリアの目にも、涙が浮かんできた。
俺はアデリーナの手を掴み、
「わかった。私がアデリーナのかたきをうつ。抗議したところで、失格程度で済むだろう。
それだけで終わらせない。
直接、ブラスコの身にアデリーナの、皆の悔しさを叩きこむよ」
メイドゴーレム部門の優勝者と、生身部門の優勝者は、大会最終日に統一決戦を行う。
そこで、最終的なメイドの頂点を決めることになっていた。
「私が生身部門で、優勝まで駆け上がる。そして。
統一決戦の場で、借りを返す!」
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