第四十五話 幕間 ~髪型いじり
「ふう」
ここは、客室に備え付けられている風呂だ。
エウねーさんとこの魔女の大浴場ほどではないが、それでも結構な広さと設備が整っている。
浴槽に肩までつかりながら、今日の練習試合の事を思い出す。
「アデリーナの仕上がりは上々だった……
どうやら、優勝候補の一角として活躍できそうな手ごたえだ。
ブラスコの奥の手だけが気になるが……」
風呂の奥の方で、レリアとマティがアデリーナの背中を流していた。
彼女らはアデリーナの特訓後、アデリーナに積極的に話しかけたりかまったりしている。
レリアが言うには、
「アデリーナちゃん、せっかく人間らしくなったんだし!
会話も、そのかたっ苦しい? みたいのじゃなく、もっと友達同士みたいな会話ができると、良いなって!」
とのことだ。
なので、アデリーナが「いえ、ご主人様のご友人がたにそんな事をさせるわけには」「ワタシなどにはもったいなく」
などと断ろうとするのを押し切って、ああやって背中を流したりしているのだ。
俺も加わって流してやろうとしたが、
「あ、あたしたちだけでやるの! シルヴィアちゃんは、あっちいって! はずかしい!」
と顔を赤くして拒否された。悲しい。
なんか風呂では、距離を取られてる気がする。なんなんだろう。
風呂以外だと、対応はあまり変わりない気がするんだけど……
そのことでマティに聞くと、
「意識しちゃってるのかも。ふふ」
と、微妙にニヤニヤしてるような顔でそう言われた。
なにをだ?と聞こうとしたが、
「でも。おにいちゃんの妹はわたしだけだもん」
と抱き着かれ、頭を撫でろの仕草をしてきたので、撫でてやる。
そしてしばらくして、妹は寝てしまったので、その時は結局聞けずじまいに終わった。
「今日の試合、お疲れ様! 勝って良かった! 相手の降参で、少しスッキリしないけどね!」
「スッキリ。とは、どういうことですか?」
「消化不良。モヤモヤする。とか」
「アデリーナちゃん、モヤモヤする時はこう! 眉毛をさげて、うーん? って」
レリアが、自分の顔を使って感情表現のレッスンをしているようだ。
「なるほど。こう、ですか」
アデリーナがレリアの顔の真似をする。
「そうそう! そして楽しい時は、口をこうやって、わーい! にこー、って!」
「わーい。こう、ですか。にこー」
「うんうん。可愛い」
レリアとマティが寄ってたかって、アデリーナに表情を付けようとしている。
まだまだぎこちないが、ちゃんと感情表現ができるようになると、また一歩人間に近づくな。
「手も使おう! 腕を広げて、こーやって! わーい! やった!」
「わーい。やった。こう、ですか」
実にほのぼのしている。
その様子を温かい目で見ていたら、
「じろじろ見ないで! えっち!」
とレリアが叫んで洗面器が飛んできた。なんでだー。
確かに中身は男だけど、今までそんな反応なかったのにー。
風呂から上がって。
窓から外を眺めると、高層建築物の窓の光が、あちらこちらに灯っている。
「まるで、星だな」
ここは閉じられた空間なので、空はないけど、こういう横から見る星空も悪くない。
「できた! ポニーテール!」
「かわいい。似合う」
「ありがとう、ございます。にこー」
レリアとマティの、アデリーナをかまいまくる作戦は続く。
アデリーナの髪型をいろいろいじっている。
ロングヘアなので、色々髪型アレンジのバリエーションが多そうだ。
三つ編み、ツインテ、おさげ……
なるほど。なるほど……
「あのー。僭越ながら。私がシルヴィアさまの、髪をアレンジして差し上げましょうか……?」
エリーザが、おそるおそるそんな事を言ってきた。
なんだ!?
俺、そんなにうらやましそうな目で見てた!?
いや俺もロングヘアだけどさ!
えーと。うん。
「……お願い、しようかな」
「承知いたしました!」
脳筋パワータイプの格闘家エリーザに、そんな器用な真似ができるのかと心配だったが。
案外、うまくセットしてくれている。失礼な印象でした。
そして出来上がったのが、
「わー。ツインテ! 新鮮で、……可愛いな」
姿見で自分の姿を確かめ、思わずつぶやいてしまう。
するとまた、ファニーの『照れの波動』が伝わって来た。
口に出して言おうが頭で思おうが、筒抜けだからもう開き直るしかない。
「シルヴィアちゃんも可愛い!」
「おねえちゃん。あざとかわいい」
「かわいい、です。ご主人様」
皆もめちゃ褒めてくる。
アデリーナにも言われるとは思わなかった。
いやー、いいな、髪型チェンジ。
新鮮だし、なんか楽しい。
「雰囲気変わるもんだね……うーむ。ほうほう」
ツインテを掴んでみたり、後ろにふわさっと流してみたり。
角度を変えながら、姿見であれこれ眺めて見たり。
ツインテの結び目、リボンをつけてみるのも良さそうだ。
「良いですね! 似合うと思います! ツインテシルヴィアさまも……尊い……」
またエリーザが床に転がった。
変な癖がついちゃったな。
髪型をセットしてもらってる時も、後ろから鼻息がハスハスかかってきたし。
「自分でも、三つ編みとか出来るようになった方が良いかな……?」
……はっ。
そ、そんな技術を会得しても、男に戻ったら意味無いし!
「あぶねえ。なんか楽しくて、新たな世界に入って戻ってこれなくなってた……!」
何のために、メイドバトリング大会に出るのだ?
それは『古代魔法のオーブ』を手に入れるためだ!
そしてそれは、『俺の体を取り戻す』ことに繋がるかもしれない、という理由からだ!
わ、忘れてないぞ!
ああ、バトリング本番が楽しみだ!
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