第四十四話 互角 ~練習試合、決着?
カシーン!
試合は、まず武器のつばぜり合いから始まった。
アデリーナの武器は、ロングソード。マティの仕込みが活かされる武器だ。
MGクラウディアは、カタナという、刀身が微妙に曲がった剣を装備している。
カシン、カシンとお互いの武器を打ち合わせる。
徐々に、そのスピードが上がっていく。
「今のところ、互角だねー! がんばれー!」
「良い勝負。アデリーナしっかり動けてる」
「我々の仕込みですから! それを活かしきれば、誰にも負けませんよ! よし、良いぞ!」
ティエルナの面々の応援にも力が入る。
「すごいぞ! あの紙袋、ブラスコのMGと互角に渡り合っている!」
「こいつはとんだダークホースだな! 今大会の優勝候補、二人目だ!」
「MGクラウディアのスピードについて行けるとは……!
一体、何者なんだ、あの紙袋のマスターは!」
観客の竜人たちも、意外な展開にざわめき、盛り上がっているようだ。
そしてどうやら、MGクラウディアの持ち味はスピードらしい。
確かに、凄まじい速度でカタナを繰り出し始めているが、アデリーナはついて行っている。
「ばかな。MGクラウディア、もういい、本気を出せ!」
ブラスコが焦った声で、リング状のメイドゴーレムに怒鳴った。
「既に本気です。いたぶる真似をしたらこちらがやられます」
武器を打ち合わせながら、MGクラウディアが答える。
「なんだぁ、あの紙袋! 確実にポンコツだったはず!
い、いや違う。よく見れば手足も角ばってない……
そうか、やっぱりアドバンスドモデルにしたのか!
そりゃそうだ、あんなポンコツ買うはずがない。こいつは騙されたなぁ!」
ブラスコが一人で納得したようだが、まるっきり的外れだ。
正真正銘、あんたがバカにした、初期型だよ。
「い、いや、MGクラウディアと同等のスピードに目が行くが……
あの紙袋が、並みのMGと決定的に違うところがある」
「ああ、俺も気づいた。紙袋の動き……まるで、生き物だ」
「確かに、動きが滑らかすぎる。
あれに比べたら、MGクラウディアの動きがぎこちなく見えるほどだ」
だんだん、周囲の竜人たちも気づいたようだ。
アデリーナの動く様はまさに人。
メイドゴーレムはどれだけ人に近いといっても、動きにはぎこちなさがやや残る。
女王お付きのメイドゴーレムですら、そうだった。
ブラスコも気づいたようだ。
「最新式のアドバンスドなら、自分のとほぼ同じのはず……!
なんなんだ、どうしたらあんな動きが出来るよう、カスタマイズできるんだぁ!?」
メイドゴーレムは、内臓の魔力炉が出力する魔力をどこにどう振り分けるかに、カスタマイズの自由がある。
そしてその後は、ゴーレム自身にどれだけ経験をさせるかで、戦力の向上が図れる。
「ブラスコはスピードに多く魔力を振り分けている。残りを処理能力、パワーの順に。
足りないパワーを、切れ味に優れるカタナを高速で扱わせることで補っている。
処理能力は、大体をカタナの扱いに使い、動きそのものにはさほど使われてない」
「だから、ぎこちなさがどうしても残る」
「だが、あの紙袋はMGクラウディアの動きについて行くスピードを持ち、パワーも互角に見える。
そして動き自体もなめらかだ。そのぶんの処理能力はどこから来ている!?」
観客の竜人たちが、不可解だと叫ぶ。
「答えは、処理能力にほぼ全振りなんだな。そして、ティエルナの動きを覚えさせた経験」
俺はにやりと笑った。
処理能力にほぼ全振りならば、相手の動きを見極め、最短最速最適の反応が出来る。
そこにSクラス冒険者レベルのマティの剣技、Aクラス冒険者レベルのエリーザの格闘術が合わされば。
どんなスピードにもパワーにも、ついて行ける。
「MGクラウディア、ソードブレイカーだ!」
MGクラウディアがブラスコの言葉に反応し、カタナをふるってアデリーナのロングソードを真ん中からぶった切った。
カラン、とロングソードの刀身がリングを転がる。
「うお、あのカタナの切れ味は想像以上だな」
思わず感心してしまった。
ロングソードはこの都市の武器屋で調達したものだが、マティの同様に強化処理している。
ブラスコ、どこからか知らないが伝説級のカタナを調達していたらしい。
「今だ! やれ、MGクラウディア! 真っ二つにしろおぉ!」
ブラスコが叫ぶ。
MGクラウディアが真上にカタナを振りかざし、アデリーナに向かって振り下ろした。
しかし、アデリーナが真っ二つになることは無かった。
アデリーナはカタナを両手で挟み、受け止めていたのだ。
「真剣白刃取り、練習通り!」
「エリーザの技。ちゃんと活きた」
「はは、優秀な教え子です!」
ティエルナが盛り上がる。
バキィン!
アデリーナはそのままカタナを捻るようにして折ってしまった。
それを見て顔面蒼白になるブラスコ。
これで、対等、いや格闘術の分、こちらが有利だ!
「アデリーナ! 正拳突きだ!」
「はい、ご主人様」
アデリーナが腰を落とし、MGクラウディアに対し拳を突き出そうとした。
「待ったーーーっ」
ここで、ブラスコが手を挙げて制止をかけた。
「ここまでだ。これ以上は、お互いのMGに、致命的な損傷が出かねない。
今回は、ここまでで良いだろう、なぁ?」
なんだ? 負けそうだからって、引き分け扱いにしようとでも言うのか?
「勝負を放棄するなら、そちらの負けとなります」
と審判がブラスコに声をかける。
「い、う……ぐぅ、いや……それでいい……いくぞ、MGクラウディア!」
意外なことに、ブラスコはあっさりと負けを受け入れ、この場を去っていった。
ただ去り際、こちらとすれ違うときに「引き分けだぞ、良いな!」と小声でささやいて行ったが。
観客の竜人たちも、想定外の幕切れに拍子抜けな感じもあったが、
「いや、紙袋すげえじゃねえか!」
「あいつの百連勝に、ストップをかけるとは!」
「MGアデリーナ! 俺は、試合であいつを応援するぜ!」
「俺もだ! 絶対、本番ではブラスコの優勝を阻止してくれよな!」
うおおおお、とだんだん盛り上がっていった。
「やったね! アデリーナちゃん! 勝った勝った!」
「相手は逃げた。けど勝利には違いない」
「よくやりました。私たちの技術、存分に使えていましたね」
ティエルナの面々が集まり、アデリーナを褒めたたえる。
ありがとうございます、と無表情で返すアデリーナ。
「良い仕上がりだったね。しかし、ブラスコのやつ。負け惜しみを言ってたけど……
奥の手、隠し持ってるんじゃないかな。本当に」
「そーなの!?」
レリアが驚きの声を上げる。
「そんな気がする。あいつも、油断ならない感じがする」
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「なんなんだぁ!? あのMGアデリーナとかいうやつ!
俺のMGクラウディアにあそこまで食らいつくとは!」
竜人都市、自室がある建物の階段を登りながら、ブラスコが喚きたてている。
「戦力的に、あちらが上回っているのは確かです」
MGクラウディアの言葉に、ブラスコは激昂し、クラウディアに蹴りを入れた。
クラウディアはよろけて階段から踊り場まで転げ落ちたが、すぐ立ち上がってブラスコに追いつく。
「うるせえ、認めてたまるかぁ! そんなこと……こっちには奥の手があるんだ。
優勝候補のMGエルヴィーラ戦でも少し使ったあの手、MGアデリーナ戦では全開で使う必要があった。
今、それをするわけにはいかない……」
ばしっと手のひらに拳を打ち付け、
「大会当日、必ずこの屈辱は晴らしてやるぞ……」
とブラスコはひとりごちるのだった。
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