第四十二話 おめかしの時間 ~俺、メイドになる
とりあえず、俺たちは女王にあてがわれた客室に腰をおちつけた。
「で、どうするの? この子」
「おねえちゃんのスキルで。強くするって」
そう。
俺のスキルの、『可愛く』が真価を発揮する時が来たのだ!
魔法でも薬瓶でも、理不尽なくらい可愛く変化させてしまうこのスキル。
ある意味、可愛さに特化した【構造変化】とも言える。
つまり、これをメイドゴーレムに使うと!?
「【ゆるく、可愛く、大人しく】! 『強化』!」
アデリーナに向かってブースト魔法をかける。
すると、カクカクだった体はみるみるうちに柔らかい曲線を描きだし、銀色ボディは普通の肌色に変化。
ガチガチだった髪の毛も、サラッサラな桃色のロングヘア―に。
そこには何ら人間と変わりない、ゆるふわ系の美少女が立っていた。成功だ!
「わわ! すっごい! でも、裸だよー!」
元々素体が裸だったため、美少女アデリーナも普通に裸のままだ。
銀色ボディだった時にはつるつるだった胸部分も、人間らしく……下も……
そこまで再現するのは想定外!
アデリーナ、微動だにしないし!羞恥心もないかー。
しかし、竜人も人間も、角としっぽ以外は全く変わらないんだな。
「服。貰ってこなきゃ。メイド服」
「わたしも行くー! じろじろ見ちゃダメだよ!」
そういえば、メイド服も女王持ちで貰える事になってたんだった。
慌てて客室を飛び出していくマティとレリア。
た、確かになんか直視できない事になってしまったが……
「せめて下着を着けてあげましょう。ちょうど、シルヴィアさまと同じくらいのサイズかと」
……え? もしかして。
「私が着けるの? 下着を? 女の子に?」
「? 私がシルヴィアさまの下着を、その、扱うのは……不敬かと」
ファニーのだと思ってるからなあ。
しかし、俺が着けるって絵的にまずくない?
いや、女の子同士だった。
し、しかし着けてあげるとなると、色々直視しなきゃ……
相手はゴーレム、ゴーレムなんだ!
決してドキドキなどしていない!
(へんたい……)
ファニーのつぶやきが聞こえてきた。
違う、違うぞファニー!
違うんだあああ!
「……ふう」
な、なんとか下着を着けてあげることに成功。
いつぞやの店員ほど、胸の谷間を作る事は出来なかったが。
(へんたい!)
またファニーになじられた。
ちょっとやってみたかっただけ!そしてわざわざその一言のために昼の時間を使わんでも……
「寒くない?」
と下着姿のアデリーナに声をかける。
「問題ありません。外気温はワタシの調子に影響を及ぼすほど、ではありません」
まあ、ゴーレムにそういう感覚はないのかもしれないけど。
見た目完全に人間……もちろん角しっぽのある竜人だが……になってしまったから、つい聞いてしまった。
うーん、裸ではなくなったけど下着姿ってのも、目に毒というか目のやり場がないというか。
メイド服の到着はまだか。
「おお……ものすごい眺めですね」
エリーザが窓の外を見て、感嘆のつぶやきをもらしている。
なので俺も、外の方を見る事にした。
外には四角い石の建造物が乱立している。
ここと同様、いくつかの窓があちこちについているのが見えた。
この部屋は地上20階……俺たちの国では、こんな高さの城だってない。
「見下ろすとこっわ……下を歩いてる人が、アリのよう」
「ここから見上げても、まだまだ上があります。とんでもない都市ですね」
古代魔法のダンジョンは、アルニタクもミンタカも10階の構造だった。
ここは明らかにそれ以上の広さ、高さがある。
「女王のスキルによる改造でここまで……
拡張しすぎて、グロッセート平原の異常現象を引き起こすようになったのかも」
なるほど、とエリーザがうなずいた。
ほんとにそうなら、女王に都市の位置をもう少し全体的な位置をずらすよう、進言したほうが良いかな?
隠された空間にありながら、外の世界に影響を与えてるんだもんな。
「ただいま! メイド服貰って来たよ!」
「たくさん。持ってきた」
レリアとマティが戻って来た。
ほんとに大量のメイド服を抱えている。
「さあ、おめかしの時間だよ! シルヴィアちゃんも、服を脱いで!」
しまった、そうだった……
そんなわけで、俺はしばらくアデリーナと並んで下着姿となり……
多種多様なメイド服をあてがわれ、何度も試着を繰り返すことになるのだった。
「よし! かんりょう!」
「二人とも。似合ってる」
ようやく皆が納得するコーディネイトが完了した。
俺は、アデリーナとおそろいのメイド服を着る事になった。
これが、ティエルナ代表のメイド服ってことのようだ。
「むう……に、似合ってる?」
腕を広げ、ちょっとくるくると回ってみる。
「可愛いです! シルヴィアさま! 尊いお姿!」
エリーザが床に転がった。時々、この人は変な事を言うよな……
「どうなってるか、見る?」
レリアが持ってきた姿見に、自分を映してみた。
黒を基調としたワンピース。胸元が割とぱっくりと開いていて、スカート丈は結構短めだ。
その上に、真っ白のエプロン。その肩やすそには当然、たっぷりのフリルがついている。
そして頭には、カチューシャタイプのヘッドドレス。足には白のニーハイ。
「結構な趣味のメイド服だなあ……でも、うん、可愛い!」
思わずつぶやいてしまった。
ま、まあ素材はあれだ。ファニーのものだしな!そりゃ可愛くて当然だな!
(……!)
ファニーが照れたような波動のようなものが伝わって来た。
そしてアデリーナも可愛い。
「ありがとう、ございます」
無表情でカクンと頭を下げる。
「で、可愛くなったはいいけど……どうやってアデリーナは戦えばいいの?」
「ただ出力が高いだけで、いまいちな性能ということでしたが」
当然の疑問。
しかし俺には考えがある。
「それは、アデリーナのスキルを使うんだ」
「誰かの固有スキルを、コピーして一秒だけ使えるやつ?」
「そう。そのスキルを使って、マティの【高速成長】をコピーしてもらう」
「一秒しか持たないんだよね?」
大丈夫かなー?といった表情のレリア。
「その一秒をひたすら繰り返してもらうんだ。
マティのスキルなら一秒でも成長を積み重ねていける。
剣の一振り一振りで、マティが少しずつ剣の扱いを最適化、上達させていったように。
バトリング大会の開催まで、あと十日。その間にアデリーナを成長させよう」
「なるほど。それだけあれば。結構いけるかも」
マティがうなずいた。
「それでマティの剣技、エリーザの格闘術も覚えてもらう」
「双剣術より格闘術ですか?」
「……同じ剣の技術より、他の技術を覚えたほうが応用も効くかなと」
わりとガチで、エリーザが双剣使いなの忘れてた。
まあじっさい格闘術もちゃんと習得してるみたいだし、格闘術は体幹を鍛える事にもつながる。
覚えて損はないはずだ。
「あたしに出来る事はー?」
レリアが手を挙げて聞いてきた。
「もちろん、レリアの薬もアデリーナに装備してもらおう。
あらゆる武器、防具、道具、魔法が許されたカスタマイズルールだからね。
薬の知識は、装備させた分を教えるだけで済むだろうから、簡単だ」
レリアも大きくうなずいた。
「ティエルナの皆の技術をアデリーナに集めて、戦ってもらうんだ」
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