第三十九話 女王と謁見 ~謎の大会
「観光? だと?」
竜人の警備兵たちが警戒もあらわに、こちらをじろじろと観察する。
いきなり「古代魔法を探しに来た!」とか言ってしまうのは、まずいかなと。
彼らが古代魔法をどう扱っているか次第で、敵対行動になってしまうかもしれない。
竜人と戦いに来たつもりは全く無いし。
「うーん。警戒。解かないね」
「仲良くなれる薬、開発してくればよかったかなー?」
レリア、それは半分、洗脳みたいなもんだから……
「しかし、ニンゲンがどうやってここまで来た?」
「また、結界が不安定になったのかもしれん。
大昔に、結界の割れ目から一人、ニンゲンの世界に落ちたやつが居たからな」
ふむ。
警備兵たちの話からすると、平原で目撃された竜人ってのはそういうことか。
謎の飛行物体というのも、空に割れ目が出来たのを、何か飛んでるのと誤認したということだ。
「とりあえず、ニンゲンはどう扱う?」
「不法入国? いやしかし、女王都市国家アンニザーム始まって以来、外から入って来る者など。
ありえないものを取り締まる法律もないしなあ」
……なんか、俺たちの扱いに困ってるな。
周りの竜人たちも、ざわざわしながら遠巻きに俺たちを眺めている。
と、その時。
天から、声が降って来た。
「……その者たちは、わしの所へ連れてくるがよい……
初めての客人、わしが直々にもてなすのじゃ……」
ちょっと幼い感じの、女の声だ。
その声を聞いた途端に、片膝をついて頭を下げる二人の警備兵。
「ははっ! 仰せのままに! ロレーナ女王!」
「おいそこのニンゲン! 女王が直々の拝謁を許された! 我々について来い。
くれぐれも、無礼のないようにな!」
警備兵がくいくい、と指を使ってついてこいの合図を送って来た。
とりあえず、逮捕されたりとかの可能性はなくなったみたいだ。
「それじゃ、ついて行ってみようか」
「はっ。この迷宮……いや都市は、女王という存在が君臨しているようですね」
「すっごい建物! 首が痛くなるよ!」
ここは上の方がかすんで見えなくなるくらい、高い建物が並んでいる。
建物は全て、四角い石の柱のように見える。とてつもなく巨大な柱だ。
その建物同士を、渡り廊下のようなものが多数、縦横無尽に伸びて繋いでいた。
「全部、石造りか……すごい巨石文明なんだな、竜人文明てのは」
古代シュイロークァ文明ほどではないが、竜人も進んだ文明を築いているんだな……
▽
「よー来たのじゃ。ニンゲンたち」
この都市の中心と思われる、他よりさらに太い石の柱の建物の中。
ぐるぐるといくつかの階段を登った先、通されたのは玉座の間のようだった。
玉座のほうへ伸びる、赤いじゅうたん。
そこを歩いて、女王の前で俺たちは片膝をついて礼をした。
「まー気楽にしてよいぞ。なにせこの都市始まって以来、初めての客人じゃからな。
頭が高いとか控えおろうとか、言わぬから安心せい」
そう言って笑うのは、やはり耳の後ろから角を伸ばした、尻尾の生えた竜人の女性。
見た目はそうとう若そうだ。長い銀髪を頭の両サイドでくくっている。
ちょこんと頭に乗っかっている小さい帽子のような王冠が、女王のあかしか。
女王の左右には、メイド服を着た女性が二人、控えている。
なんか、体や顔が銀色に光ってるんだけど……
「あのメイドさん。ゴーレムだよおにいちゃん」
マティが、ひそひそささやいて教えてくれた。
ゴーレムと言ったら、石で出来たごつい巨人型のモンスターというのがセオリー。
しかしここのゴーレムは、銀色ボディとはいえ、普通の人の形をしている。人つか竜人。
おそるべし、竜人文明……
ともかく、とりあえずまずは挨拶を。
「えーと。はじめまして。私はシルヴィア、という者で……」
俺たちはそれぞれ、自己紹介をした。
「ふーむ、んで皆揃ってティエルナ、と。
わしはロレーナ・ドラゴネッティ。この都市国家アンニザームの、女王じゃ」
都市国家アンニザーム。
古代魔法のダンジョンが、独立国家になってしまった?
「……ここは、古代魔法が封じられているダンジョンだったはずでは?」
女王に尋ねてみる。
側近の一人が、「貴様!女王に向かってその言葉遣いは何事か」などと言ってきたが、女王は手を振って止めた。
「よいよい。多少の無礼など気にならんほど、わしは今楽しんでおる。
何せ閉じられた国家じゃからな、刺激に飢えておるでのー」
ここは一切、外部との接触がないようだ。
「数百年の昔、竜人族が今ニンゲンの住まう土地で栄えとったころ。
突然、空から燃える岩が降ってきてのう。
地上は寒冷化し、竜人が生きづらい世界になったのじゃ」
なんか、昔話が始まった。
そういえば、ここは妙にあたたかい。
「んで、我々はたまたまじゃが、アンニザームの隠された迷宮を発見し、そこへ避難。
そこに居たエンシェントドラゴンを倒し、わしのスキル【構造変化】でダンジョンを改造。
竜人族が住めるようにした、というわけじゃな」
「【構造変化】、物質を自在に作り替えたりできるスキルでしょうか……」
エリーザが声を潜めてささやく。
「おそらくね……
そうやって古代魔法のダンジョンは、都市国家アンニザームに生まれ変わった……」
って、あの守護竜を倒したのなら、古代魔法は女王が持っている……?
思わず女王を直視する。
「おぬしの考えてる事はわかるぞ。これじゃろ」
と、腰に下げた袋から取り出したのは、古代魔法のオーブ!
「おぬしらはこれを求めてここにやってきた、というわけじゃな」
「そ、そうです! それ、ください!」
思わず言ってしまった、とレリアが口を両手で抑える。
だがロレーナ女王は、
「なっはっは! 素直なハーフエルフの子よな。まあ、あげても良いのじゃが」
まじで!?
「わしはこの中身を極めたからのー。なくても別に困らん」
中身を極めた、って……
オーブ無しでその秘術を自由自在に使えるようになったってことか。
中身は一体、なんの秘術なんだ。
それを聞こうとしたが、女王が先に口を開いた。
「じゃが、タダでやるわけにもいかん。
なのでしばらく、おぬしらにはわしの催しに、付き合ってもらうぞ」
「催し?」
「ああ。第九百九十七回……頂上決戦メイドバトリング大会におぬしらも参加するのじゃ!」
ロレーナはなんか訳の分からないことを宣言し、俺らをびしっ!と指さしたのだった。
いやほんとわからない。
お読みいただきありがとうございます!
「面白かった」「続きが気になる」「興味ある」と思ってくださった方、
下のほうにある☆☆☆☆☆に評価をお願いいたします。
☆一つからでも構いませんのでどうぞ採点してやってください。
ブックマークもいただけたなら、さらなるやる気に繋がります!
何卒よろしくお願いいたします。




