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第三十七話 グロッセート平原へ ~幽霊の大群

 グロッセート平原。

 第三の古代魔法が眠るとされる、『アンニザームのダンジョン』があるはずの場所。


 俺たちは馬車で数日かけ、そこにたどり着いた。


「ひっろーい! 地平線見えそう!」


 レリアの言う通り、どこまでも平原が広がっている。

 むかし牧場などがあった名残として、木の柵や崩れた住居跡がちらほらと。


 そしてただ、それだけの土地にしか見えない。


「おっと? さっそくお出ましだ」


 たたたっと足音を立ててこちらに向かって来る、黒い犬のようなものが三匹。


 だが普通の犬ではなく、体のあちこちから角が数本伸びていた。

 そして、明らかにこちらへ攻撃の意図を見せている。


「あんなモンスター、ダンジョンで見かけた事ないな……」


「ここは私におまかせを、ファ……シルヴィアさま」 

 

 さまは要らないって。


「つあっ!」


 エリーザが双剣を抜いて突出。

 一瞬のうちに、謎の犬を一匹残らずぶった切ってしまった。


「さすが親衛隊長、見事な剣さばき」


 俺の言葉に、エリーザも得意顔でふんすと鼻息を荒くする。

 

「おほめに預かり、光栄であります!

 

 大したモンスターではありませんが、武器を持たない一般の方だとひとたまりもありませんね」


「【鑑定】したけど。『突然変異の犬』だって」


「あと、ダンジョン以外にモンスターって出ないはずだよねー?」


 地上では、竜種という例外を除いてモンスターは出現しない。

 の、はずだったが。


「変わった土地というのは確かみたいだね」


「しかし……手分けしてダンジョン入口を探そうにも、ここは広大過ぎます」


 そこは俺のスキルの出番かな。


「【広く、可愛く、奥深く】! 『探知』!」


 超広範囲の探知魔法だ。

 目標を、地上と地中の人工物に設定してある。


 『可愛く』の効果で、たくさんの妖精さんが「わー!」と言いながら周囲に散っていった。

 

 そしてしばらくして、しょんぼりした妖精さんが一体戻って来て「見つかりませんでしたぁ……」と報告。

 そのまま消えてしまった。ありゃ。


「じゃあ、やっぱりここにはダンジョン、ないってことー?」


「がっくり」

 

 レリアとマティも残念そうだ。

 古代魔法ダンジョンに関する文献が間違ってる説も出るくらいだもんな……


「じゃあ、空とか」


 見上げるが、今日は雲一つない晴天。

 どこまでも青が広がるだけだ。


「なんか、謎の飛行物体の話も聞いたけど……そういうのもないな」


 念のため空にも探知魔法を飛ばすが、成果なし。


「いったんキャンプして様子見かな。


 ここで起きる奇妙な現象とやらに、何か手がかりがあるかも」

 

「えっ!? し、しかし。ゆゆゆ幽霊が出ると言う、話では?」


「信じてないんじゃ?」


 また細かい振動を始めたエリーザに、ちょっと意地悪してしまった。


「もろちん信じてはおりりませんとも! ビビビってなども!」


 言葉遣いが怪しい。


「おばけ、あたしは怖くないな! むしろ会ってみたーい!」


「わたしも。おにいちゃんと昔。よくきもだめしした」


 レリアとマティは幽霊、問題なしらしい。俺も怖いものは昔から興味の対象だ。

 しかしエリーザは今にも帰りたいそぶりと、振動が止まらない。


「私は、た、ただ……物理攻撃が通らないものは、ちょーっとだけ、苦手なだけであります! 


 まったく怖くはないのですががが!」


 振動が激しくなってきた。

 このままだと、地面に穴を掘って沈んでいきそうだ。


「んじゃ、これ渡しとく」


 マティに空間収納を開けてもらって、小瓶を取り出し、エリーザに渡した。


「これは……?」


「ただの水」


「!?」


「でも、【清く、可愛く、つつがなく】! 『強化』!」


 これで、ただの水は聖水に変わった。

 中の液体がぼんやり、青白く光っている。


「幽霊が出た時はそれ、使って。効果ばつぐんのはず」


「あ、ありがとうございます! ふぁ、シルヴィアさま!」


 そろそろファニーと言いかけるのと、さまを付けるのをやめて欲しいところだが。

 まだ冷静じゃなさそうだし……とりあえず、キャンプの準備でもしよう。



 そして夜。


「まんてんの星空! きれーい!」


 焚き火をかこみ、持ってきた肉を焼いたり、あっためたスープを飲んだり。

 超常現象が起きる土地で、ゆるくキャンプを満喫中。


「おにいちゃんとキャンプ。これも久々。楽しい」


 マティが俺の隣に座り、身を寄せてきた。

 頭を撫でると、目を細めて満足そうだ。


 と、それをじっと見ていたレリアが、すすっと近づいて来る。

 妹と反対側に座り、身を寄せてきた。なんだなんだ。


 同じように撫でてみると、目をぎゅっとつむってニコリと笑った。やや顔が赤い。


「よよよ余裕ありますね皆さん……でもその仲睦まじい様子、尊いです……」


 あたりが暗くなるにしたがって、エリーザがどんどん不安定になっていってる?


 こっちは出るなら早く出ろと思ってるけど、あっちは絶対出るなと思ってるんだろうな……

 そしてその思いは、叶わなかったようだ。


「で、でっででっででーでで、でででで出ましたーーーん!」

 

 エリーザが超青くなった表情で指さした先に、白くぼんやりとした人影が、一体、二体……

 いやどんどん増えていく。出すぎだろ。


 幽霊モンスターは地下霊園系ダンジョンで出ると聞くが、地上でこんな数を拝めるとは。


「【鑑定】……『アンニザームのさまよう亡霊』。幽霊モンスター。意思の疎通は不可能。


 人の体温に引かれて憑りつく。憑りつかれた人は体温を失ってしぬ」


「いやあああ!」


 マティの解説に、頭を抱えてしゃがみ込んでしまったエリーザ。

 しかし、アンニザームだと?やっぱり、ここにそのダンジョンがあるって事じゃないのか?


「でも会話出来ないなら、手がかりをつかむのも無理そう。


 ……やるしかないか!」


「はっ!」


 マティが剣に魔力を流し込み、亡霊を斬っていく。

 勇者の魔力は、退魔の力を元々秘めている。


「とりゃー!」


 レリアは霧吹きで、香水のようなものをかけて回っている。

 虫よけならぬ、魔除けの効果を込めたものらしい。

 

 斬られたり香水をかけられた亡霊は、溶けるように消えていった。


「よし、私も、って重い!」


 エリーザが震えながらしがみついてきたのだ。


「ははは離れないでくださいいい!」

 

「聖水、渡したでしょ! 使って!」


「はっ、そうでした。こ、これさえあれば!」


 と蓋を開け、ぐいーっと一気飲みするエリーザ。

 待てーい!聖水はかけるものであって、飲むものじゃないー! 


 だが、エリーザの体からオーラのようなものが立ち昇り、拳が輝きだした。


「おお……これなら行けそうです! いくぞ幽霊ども!」


 そのまま亡霊の群れに飛び込み、両拳で霊体をぶん殴り始めた。

 パンチを食らった亡霊は、やはり溶けるように消えていく。


「想定外の効果だったが、効いてるなら良いか……」


 つか、この人、双剣より格闘が向いてるような?

 エリクサー使った時も思ったけど。


「ははは! 物理が通るなら、恐れるものはなにもない!


 おらおらおらー!」


 最後に出てきた巨大な亡霊に対し、拳の連撃を食らわせる。

 止めとばかりの大振りのパンチを食らった亡霊は、爆発するように散って消滅した。


「任務完了! よし! 唯一の苦手、克服しました!」


「次は聖水無しでよろしく」


「それは無理です! 絶対に!」


 ビシッと姿勢を正しながら、頼もしいんだかそうでないんだか良く分からないエリーザだった。

お読みいただきありがとうございます!


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