第三十六話 エウねーさんの暗躍? ~第三のダンジョンを求めて
風呂を堪能した後。
エウねーさんがしつこく見せれ見せれ言うので、エウねーさんの個室へ、古代魔法のオーブを持ってきて机の上に置いた。
すると、エウねーさんは別のオーブをその隣に置く。
「何をするんだ……?」
ねーさんが持ってきたオーブには、魔法やら文字情報やらは何も入っていない。
ただの空のオーブだ。
「『複製』」
ねーさんが魔法を発動させた。
すると、古代魔法のオーブから光が放たれ、空のオーブに吸い込まれていく。
「ちょ、マジで何を!?」
「いやあ。古代魔法の情報をちょっとね。コピーさせてもらおうかと」
なんだって!?
古代魔法に関する情報は、国が厳重に管理する取り決めだ。
外部の人間が、おいそれと触れて良いものじゃない。
古代魔法の違法コピーとか、捕まったら確実に懲役100年レベルだぞ!?
「巻き込まないから安心しな。オマエは何も見なかった」
二人きりで見たいと言ったのは、こういう事か……
「おいおい……とんでもない事するなあ。
古代魔法のオーブって、複製防止機構って備わってないのかな」
「あったけど解除した。
机の上に、そういう効果のある呪文を彫ってある」
確かに、木の机には何か良く分からない模様が彫り刻まれている。
「とんでもない事をする魔女だとは思ってたけど、さすがに今回は行きすぎだろ……」
「……アタシはねえ。追いつきたいと思っていたんだ」
エウねーさんは椅子に座り、肘をついてオーブの光を見つめながら言った。
「追いつく? 何に?」
「古代シュイロークァ文明さ」
――古代シュイロークァ文明。
古代魔法を残した、先史文明だ。
今よりも、はるかに魔法技術が進んでいたという。
彼らは空に輝く星にすら行き来でき、生命と魂、時間すら自在に操った。
運命すらも、解析したという話だ。
「さすがに、その全部に追いつきたいとか思ってない。
だがせめて、生命の秘術くらいには、と思っていたんだが。
研究すれども、いっこうに差が縮められる気がしなくてなあ」
ため息。
エウねーさんは人間でありながらエルフなみの長い時間を生き、その大半を研究に費やしてきたらしいが。
「だから、古代魔法の違法コピーを?」
そりゃズルじゃん、と言いかけたが、
「その秘術に追いつければ……オマエの体も、元に戻せるんじゃないかと思ったんだ」
その言葉で、何も言えなくなった。
「この先、残りのダンジョンで魂の秘術が見つかる保証はないだろ。
だから、保険をかける意味でもな……
アタシが古代文字を解析出来て、生命の秘術を極められればの話だが。
その上、それを取っ掛かりにして、魂を操れるようにならないと」
「それって、とてつもなく大変なことなんじゃ?」
「勘違いするなよ? これはアタシの研究が、第一だからな?」
「エウねーさん……」
奔放で、自由極まりない人だと思っていたが。
まさか俺の事をそこまで考えてくれていたとは……
あと、案外、素直じゃないな?
「ずるいな。それじゃ、私はねーさんを非難出来ないよ」
「ずるいって? そりゃ、魔女だからね」
ニヤリと笑う、エウねーさんだった。
次の日。
エウねーさんの小屋を出発し、一日をかけて王都に到着した。
その後はまた一週間ほど、王都に足止め。
「また始まった……」
何せ、ここ一カ月ちょっとで、二つもの古代魔法を獲得してのけたのだ。
前代未聞の偉業過ぎて、国王もティエルナを褒めたたえる言葉に困るくらいだった。
オーブを献上したが、幸い、古代魔法をコピーした事を王都の研究家が気づく様子はなかった。
「足がつくようなヘマなんてしないよ」
とねーさんは言っていた。
「バレたら引っ越しゃいいのさ」
とも言ってたが。
あの小屋の中の空間を、エウねーさんは自在に持ち運び出来るという話だ。
その空間を展開するのに場所は選ぶ必要はなく、洞窟の中でも、木のうろの中でも問題ないらしい。
「ティエルナ! ティエルナ!」
「シルヴィアちゃーん! 最高!」
「マ・テ・ィ! レ・リ・ア!」
「あのカッコイイお姉さまはどなた?」
「知らないのか? 新しくティエルナに加わったエリーザって姉さんさ!
ああいうのもタイプだな!」
今日はパレード。
それ用の馬車に乗って城下町をあちらこちらへ。
大漁の紙吹雪が、収まらない歓声が俺たちを包み込んだ。
「すごい歓待っぷりですね! 私などが一緒に居て、良いのでしょうか?」
「もうエリーザもティエルナの一員だし、胸張って良いんだよ」
「はっ! ファニー様、いえシルヴィア、さ、さま」
とりあえず、エリーザにも俺の事は、『シルヴィア』と呼ぶようにしてもらった。
ファニーで通していると、レリアが俺を呼ぶときに困るし。
王やギルド長などが、俺の名前を呼ぶときにややこしくなるし。
なので、ギルドに冒険者登録する時に、シルヴィアという偽名を使った事にしたのだ。
理由は身元がバレると、騒ぎになるという事で。一応、王家の人間だし。
「さまは要らない、いいね」
「は、はい! シルヴィア、……!」
そして疲れる一週間が過ぎ、ようやくティエルナは解放された。
「これで、やっと自由だ……」
うーんと伸びをする。
「次のダンジョン。探しに行ける」
「でも、まだ場所は判明してないんだよねー?」
とりあえず、グロッセート平原。
そこに行けば、何か手がかりを掴めるかもしれない。
その平原は、自然豊かな美しい景色の場所だが、誰もそこに住もうとはしないらしい。
「これはエウねーさんに聞いた話だが……なにやら、おかしな土地だと。
かつては大勢の開拓民が、農場や牧場を作って生活していたんだけども。
不思議な現象が起こり続け、一人残らず逃げ出した……とか」
「不思議な現象?」
ビクっと、エリーザが反応した。
「牛が突然死したり、ただの犬がモンスターと化したり。
空に謎の飛行物体が見えたり、角の生えた竜人を見かけたり、とか」
「竜人? ってなーに?」
レリアが首をかしげて聞いてきた。
「ドラゴンの特徴を持った人間の種族らしい。
古代シュイロークァ文明のあとに栄えていたというけど」
しかしほとんど伝説上の存在だ。
遺跡はたまに見つかるらしいが、存在を証明できるかどうかは微妙なところのようだ。
「で。平原を調べるために送り込まれた調査隊も、幽霊に遭遇したりと、大変な目にあったとか。
そしてそれ以降……放置され、人の棲まない土地になった。
ダンジョンを求める冒険者たちすら、近寄らない始末だって」
「ゆ、ゆゆゆ幽霊ですか。ななななんとも信じられない話ですねっ!」
エリーザが微妙に振動している。
つか、震えてる?
まさか、この人。
怖い系の話、苦手……?
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