第三十五話 王都へ出発 ~魔女の大浴場2
公爵がらみのゴタゴタのあと。
俺たちはカディア市民に盛大に見送られながら、馬車で王都へと出発した。
「これで、カディア市もまともになればいいけど」
馬車に揺られながら、ふと俺はつぶやいた。
「ちゃんとした人が、後を引き継ぐといいねー」
「政治のことはわかりませんが……
少なくとも、もう血なまぐさい犯罪は起こらなくなったという事です。
これも、ファニーと皆様のおかげ! 私も鼻が高いと言うものです!」
御者席で、エリーゼが誇らしげにしている。
エリーゼが馬車を扱う技術を持っていたので、人を雇ったりする必要がなくなったのはありがたい。
カディア市の人たちも冒険者たちも、何かに怯える日常から解放された。
徐々に、普通の生活に戻っていくだろう。
「ミンタカのダンジョン、モンスターが落とす素材は質が高いから、冒険者たちも潤うだろうな」
「吸血扉も。ないから安心だね」
守護の竜を倒したせいなのか、ダンジョンには例の扉が出現しなくなったらしい。
これで、多少柔らかいのが特徴の、普通のダンジョンに戻ったわけだ。
「素材横流しギルド長も、居なくなったし」
「そういえば、エウフェーミアさんから頼まれた、なんとか石って素材。取ったっけ?」
レリアの言葉に、顔を見合わせる俺たち。
「……」
「……」
いったん馬車を止め、ポータルを作る。
そしてミンタカのダンジョン最下層まで戻り、少し素材探しに時間をかけるハメに……
ポータル出入口、残しててよかった!
またカディア市に戻ったら、「あれ?」みたいな顔で迎えられたぞ、絶対!
「おう、お帰り。バビビ石は持ってきたかい?」
エウねーさんの小屋、入口。
開口一番、エウねーさんがびっ!っと手を出してくる。
「と、当然。忘れてないよ、うん」
そう言ってバビビ石を手渡した。
後ろで、レリアやマティがくすくす笑っているのが聞こえた。
「ふーん? 確かにバビビ石だね。お疲れ、入って休んでくかい?」
「ああ、助かる」
カディア市から王都までは、馬車でも三日はかかる。
途中、落ち着ける場所があるのはありがたい。金には別に困ってはいないが……
なにより、あの大浴場は素晴らしいものがあるしな。
他じゃ味わえない、格別さがある。
「あなたが話に聞いた、魔女エウフェーミアどのですか。
私はファニー様の親衛隊長、エリーザという者です。
お見知りおきを。今回、お世話になります」
とエリーザが頭を下げた。
「おや新顔だね。丁寧なお人だねえ、よろしく。さ、入った入った」
「あら、レリア! と、皆さんも」
「ただいまおかーさん!」
ニーナさんも出迎えてくれた。
エリーザさんがまた丁寧なあいさつをして、ニーナさんとお互い頭を下げ合っている。
「ここも、相変わらずだな」
懐かしさのある、独特の雰囲気の魔女の小屋。散らかった部屋。
入ってみると外側から想像もできない広さに、エリーザが驚いている。
「ところで、オマエの体なんだが」
「おっと、そのことでちょっと……」
ぼそぼそ。
「……そうか、エリーザさんにはオマエの体と魂の事は秘密なんだな」
なにせ直情的な親衛隊長。
このことを知ったら、ネクロマンサーのニーナさんをも巻き込んで、ひと騒動ありそうだしな。
「じゃ、例の体とでも言っとくか。見るか、ちょっとした進展があったんだ」
まさか、死んだ体に魂を戻せる算段が!?
「体を入れる容器を、大型カプセルに新調したんだ。
これでより安定して長期保存できる。見るか? 見るか?」
……さすがに望みすぎたか。
見せたくてうずうずしてるようなので、仕方なくついていく。
「うわー!」
部屋の真ん中に、でかいカプセル状のものが立っている。
その中には緑色の液体が満たされ、俺の体がぷかぷか浮いている。……全裸で。
「ほんと良い体してるよな! ニーナさんと一緒に毎朝拝んでるぞ」
なんでだよ!
「わたしも。おにいちゃん拝む」
何の宗教!?
ふと気づくと、エリーザが顔を真っ赤にして横を向いている。
この人は紳士的だな……いや騎士的?
とりあえず、常識的だ。
「おう、エリーザさんよ。別に金とりゃしないから、好きに見ていいんだよ?」
やめろって!
つか、金取れる立場なの、俺では!?
「い、いえ! その男性の体、誰かは存じませんが、そのような事!
……しかし、そこまで言われては……仕方ない、仕方ありませんね!」
うわー!エリーザさんも陥落した!騎士の名が泣くよ!
「どうだい? もしかして、初めてかい? エリーザさんよ」
「え、ええ。初めて、です……」
ほんと、なんだこれ。
しかしこんなに人にじろじろ見られて、もう俺……お嫁にいけない!
いや、婿だっけ……
そういやレリアは?と思って探すと、顔を赤らめてあらぬ方向を向いていた。
あれ?以前なら、マティと一緒に拝みに行きそうなものだが。
▽
かぽーん。
謎の音が鳴る、魔女の大浴場。
「ふいー……」
ここはほんと癒される空間なんだよなあ。最高に。
エウねーさんの料理も美味いんだけども。
早く魂の秘術を見つけて元に戻らなければ。俺の本体がえらい目にあう。
しかし二つ目のダンジョンも、目的の秘術ではなかった。
「そして問題は、三つ目のダンジョンがどこにあるのか不明なことだな……」
現在、古代魔法があるとされるダンジョンは、二つしか見つかっていない。
しかし文献によればそこにあるはず、という場所はある。
「グロッセート平原……」
見渡す限りの平原で、他に何もない土地らしい。
だが、ダンジョンの入口を発見した者は誰もいない。
今では文献のほうが疑われている始末だ。
「どうした深刻な顔して。おねーさんが背中流してやろうか?」
エウねーさんがからんできた。
浴槽のすぐ横では、レリアがマティの背中を流している。
ああいうのは、ほのぼのして良いんだけど。ニーナさんもニコニコ眺めている。
「これ以上『俺』の体も、『私』の体も、ねーさんの好きにさせたくない」
「だっはっは! 勘弁しろ!
アタシもニーナさんに学んで、魂をどうにかする方法、探ってるんだからさ!」
それが成果を上げれば、まあ、さっきのは許されなくもなくもない……?
「そいや、二つ目のダンジョンから持ち帰った『生命のオーブ』。
後で、もう一度見せてくれな。二人きりで見たい」
「?……悪用するなよ」
情報は古代文字で書かれてるし、悪用もなにもないか。
でも、魔女だしなあ。文字の解析もやれそうな気がする。
「おお! 素晴らしい作り! こんな浴場、見た事ありません!」
さっきから、感心したようにあちこち観察しているエリーザ。
歩き回るもんだから、バルンバルンと胸の凶悪なものが揺れまくる。
「おおっと!」
巻いたバスタオルが、ついに限界とばかりにはらりと落ちた。
エリーザだけ、俺の正体は知らされてないので、慌てずゆっくりバスタオルを巻きなおす。
「見んじゃないよ」
すかさずエウねーさんが、俺の頭を掴んで湯船に沈める。
だが俺はばっちり見てしまった……
しかしこれで、さっきの辱めの貸し借りはなし、ということで……良いよな?
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