第三十四話 ティエルナ凱旋 ~最後の後始末
パリスは警吏に引き渡され、無事刑務所送りとなった。
――パリスはボロクソにされたあの後、自分がやらかした事を洗いざらい喋った。
自分が勇者であること。
固有スキルは、視覚情報を自在に偽る事が出来る【擬装】。
この市の行方不明者の大半が、パリスの仕業であること。
「効果ばつぐん!」
レリアが香水の小瓶を振りながら、笑う。
パリスが何もかも喋ったのは、レリアのおかげである。
『素直になる』効果のある、魔法の香水をかけられたのだ。
それって自白剤じゃね?と思うものの、副作用もない安全なものだという。
例によって、エウねーさんのものを参考にしたらしい。
「またエウねーさんとこに戻るのが、だんだん怖くなってくるな」
「レリアの薬師の腕は確か。心配ない」
マティの言う通りとは思うけど、ねえ。
ま、とりあえず、古代魔法獲得の件をギルドへと伝えることにしますか。
そしてそのニュースは、たちまちカディア市じゅうを駆け巡った。
「ティエルナ、万歳!」
「ありがとう! これで、怯えながら生活しなくてすむよ!」
「そしておめでとう! 二つ目の古代魔法獲得!」
血を目的とした誘拐事件がこれで終わるだろうという事と、ティエルナの偉業達成。
市民は、二重の意味で大喜びしている。
「みんな、明るい顔になってるね!」
「初めて来たとき。怯えて暗い顔してた」
「私も喜ばしいです! あのような痛ましい事件がもう起きないと思うと」
ティエルナの皆も、ホッとしたようだ。
例によって、古代魔法の獲得をギルドへ報告したら、また上へ下への大騒ぎ。
ただ今回、ギルド長が古代魔法のオーブを預かり、王へ直接献上しに行くと申し出があった。
「ありゃ、おこぼれに預かろうって腹だろうなあ」
当然、断ったことを皆に伝えた。
「大人ってきたなーい」
「王都のギルド長はその点ちゃんとしてたな。ここはどうも、上の人間に問題が」
「市内で行方不明者が続出しても、本格的に防止策を講じようとはしませんでしたし」
エリーザも憤る。
カディア市の最高責任者である大公は、古代魔法獲得の栄誉と、市民の安全をはかりにかけ……
古代魔法を優先したのだ。
「ここに初めて来た時にマティを襲った男も、そう言ってたねー」
「大公とやらにも、一発かまさなきゃならない気がしてきた」
とか言ってたら、そいつが向こうからやってきた。
カディア市大公――コンサルボ公爵が直接、俺たちティエルナに会見に来たのだ。
冒険者ギルド、ギルド長室の隣の大広間。
「よ、ようこそいらっしゃいました。このような汚い場所にお通しし、心苦しいばかりで」
ギルド長が揉み手でもって、コンサルボ公爵を出迎える。
それへ尊大に手を振って、公爵が応えた。
公爵は小太りでいかにも権力欲の強そうな、印象の悪い男だった。
「君たちがティエルナだね。実に素晴らしい功績だ」
「おめにかかれてこうえいです」
適当に愛想笑いしておく。
「ぜひとも、わたしの屋敷においでいただきたい。
明日、屋敷の庭に市民を集めて、ティエルナの偉業をたたえる演説をするのだ。
最重要ゲストとしてぜひ、列席願う」
この男も見え透いている。
結局、ティエルナの功績に『いっちょかみ』したいのだ。
「わかりました」
と俺は答えた。
素直に受け入れた俺に、少し驚いたようなティエルナの面々。
約束を取り付けたコンサルボ公爵は、ほくほく顔で帰っていった。
「いいの? おにいちゃん」
「あの男、私は許しがたいです! 今回、自分を抑えるので全気力を使い果たした気分です!」
エリーザは、ほっといたら公爵の所へすっ飛んでいって一発ぶん殴りそうな勢いだ。
「お、お疲れ。まあ、考えがあるんだ。レリア、頼めるかな……?」
次の日、コンサルボ公爵邸。
その巨大な庭には、カディア市民が大勢集まっている。
公爵邸三階、バルコニーのある部屋で、公爵は演説の準備をしていた。
俺たちも、同じ部屋で待機中。
「……では、ティエルナの方々。わたしの後に、ついて来てください」
公爵が準備を終えたようで、バルコニーへの扉に手をかけた。
「あ、その前に。公爵さま。声の通りを良くする、喉ケアスプレーです」
レリアが公爵の前に進みでて、霧吹き型の小瓶を差し出した。
「ありがたい。気の利く、お嬢さんだ」
シュっと口の中にひと吹き。
公爵は「ふむ」とうなずき、扉を開き、バルコニーへと出た。
市民たちからは、そこそこの歓声で公爵は迎えられた。
元々、あまり評判はよろしくないようだ。
俺たちティエルナが出ていった時には、
「うおおおおおお!」
と割れんばかりの歓声がとどろき、公爵が苦い顔になってしまった。
ようやく歓声が収まったのを見て、公爵がバルコニーの手すり前まで進み出た。
「ごほん……カディア市の皆さん!」
と庭の群衆に語りだす公爵。
「面倒な前置きはいいでしょう。皆さんもご承知の通り!
難攻不落であったミンタカのダンジョンがついに制覇され……
古代魔法が我が市に持ち帰られたのです!」
周知の事実ではあったが、おおっ、と群衆から歓声がもれる。
しかしこの後は、公爵がいかにこの件に関わっていたかについて、ある事ない事語られるのではないか。
大方の予想はそういうものだった。
だが、次に大公の口から出た言葉に、カディア市民は唖然となる。
「これで国から莫大な報酬が支払われることになります。それが我が手の元へ届くのです……!
そして、この市の名声もバカ上がり! そうなれば、人、そして商人たちの行き来も増大!
彼らに課す通行税だけでうっはうは!」
欲望だだ漏れ。
カディア市民は開いた口が塞がらない。
「笑いが止まらないとはこのこと! 市内の行方不明者を放置しただけの事はありました!」
公爵のとんでもない発言。
今度はカディア市民たちの顔は青くなり、そして徐々に怒りで赤くなっていく。
「ティエルナの面々は、行方不明者の提供した血で半分以上攻略されていたダンジョンに、
途中から参戦しただけ! 美味しい所をかっさらって行ったようなもの!
あんな子供に何が出来ますか! 彼女らはただ幸運だったのです!」
お? こちらにも流れ弾が飛んできたぞ。
つくづく、ろくでもない公爵のようだ。
「そしてその幸運は、結局はカディア市の幸運! わたしの幸運です!
ダンジョン素材の横流しではもう稼げませんが、そんなしみったれた稼ぎなどもう必要ない!
カディア市万歳を叫べ市民ども! コンサルボの名前をたたえろ市民ども! ははははは!」
失言どころではない、放言、暴言、爆弾発言。
「あーあ。言いたい放題だな」
公爵の後ろでそれを聞きながら、俺は肩をすくめた。
喉ケアスプレーと言って大公に渡したものは、当然、レリアが作った魔法の香水であった。
その効果は、本人が考えている事を喋るが、本人はそれには気づかない。
本人は建前のみを喋っているかのように、錯覚するのだ。
今回はそのように調整されている。
「……! ……!」
公爵の衝撃発言はまだ続いていた。
怒りの市民が、コンサルボ邸に詰めかけるまで大した時間はかからなかった。
その後……カディア市議会はコンサルボ公爵に対し、辞職勧告を決議することになる。
さらに、発言内容から発覚した『ダンジョン素材の横流し』に、ギルド長も関わっていた事が判明。
二人はめでたく、犯罪者としての地位を確立したのあった。
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