第三十三話 パリスとの戦い ~スーパーエリーザ
「【強く、可愛く、切り開く】! グラビティブラスト!」
アイテムボックス空間に潜むパリスを引きずり出すべく、重力魔法をバラまくように放った。
そのうちの一つがヒットしたらしく、空間に穴が開いてバラバラと何かが落ちてきた。。
奪われた武器や道具だ。本体には当たらずか……
「回収しよう」
俺たちは移動し、床に落ちた各々の武器を取り戻す。
「戻って来た、あたしのカバン! 薬も全部入ってる、かな?」
「この双剣があれば! 心強い!」
だが。
「……わたしの。ロングソードだけない」
マティの不安げな声。
なに……?まさか。
「皆、気を付けろ……!」
「ぐっ!」
振り向くと、エリーザの胸から剣が生えていた。
パリスが真後ろから、ロングソードを突き立てたのだ。
カラン、と双剣が床に落ちる音がした。
レリアが驚きの声を上げる。
「オリハルコンの防具なのに!?」
「あれはマティのロングソードだ!」
剣も防具も、同じ強化でコーティングされてるが、両者がぶつかれば攻撃側が勝つのか!
パリスがそれを知っているはずはないが……
くそ、たまたま奴に都合がいい結果が出てやがる。
「エリーザ!」
俺とマティは走り、エリーザのもとへ向かう。
その足元へ、剣を引き抜いたパリスが試験管を投げつけてきた。
「あぶない!」
俺はマティを後ろから抱き、バックステップ。
試験官が落ちて割れた場所から、凄まじい炎が吹き上がった。
レリアの、『ぼうぼう薬』だ。一本、かすめ取ってやがったか。
炎の壁の向こうから、パリスの声が聞こえてきた。
「おう、試験管のラベルに炎が書いてあったから使ったが、思った以上のすげえ威力。
やっぱり、俺はついてる男みてえだ。んじゃお先に! 嬢ちゃんたち!」
姿は見えないが、古代魔法の部屋へと向かったのだろう。
「【広く、可愛く、頼もしく】! ウォーター!」
キラキラした、広範囲に広がる水魔法で炎を消す。もうもうと煙が上がった。
それが収まったころには、パリスは部屋の入口までたどり着いていた。
しかし、まずはエリーザだ!
「が、はっ。ぱ、パリスを、まず」
床に倒れたエリーザは血を吐き、パリスの方へ指をさす。
見捨てていけるわけがないだろう!そしてパリスもきっちり足止めする!
「レリア、風邪薬を! マティはこれを持って、あの部屋近くで起動だ」
「は、はいっ!」
「わかった。まかせて」
マティは受け取ったものを握りしめ、部屋へと走っていく。
俺はレリアから受け取った風邪薬を、ブースト強化でエリクサーに代えてエリーザに飲ませた。
「ご、ごほ……ん、んっ? これは!?」
「どう、気分は」
「えっ!? 私は胸を貫かれ……しかし傷も、何もかもが嘘のように!
それどころか。この、あふれる力は!?」
エリーザが起き上がり、居ても立っても居られない、という風に足踏みをしている。
「行き場のない力が、私の中に! うおおおおお!」
体から蒸気まで吹き出してきたぞ!?
いつも無駄に元気なエリーザだからなあ。
……もしかして、効きすぎた?
▼
「これが古代魔法のオーブか!」
パリスが部屋中央の台座にたどり着いた。
備えられている、輝くオーブを掴み……掲げる。
「ついに手に入れた! これで俺も英雄か!
結局、ファビオもティエルナの連中も……俺を押し上げるための、土台程度の存在だったな!」
含み笑いを漏らしながら、ポータルクリスタルを取り出す。
「後はこれで地上へ、っと。ポータル、起動」
だが、クリスタルは何の反応も示さない。
パリスがクリスタルをコンコンと叩くが、変化はない。
「もしもーし? 壊れたのか? まさかだろ」
「無駄。ポータル。わたしが先に起動した」
パリスが振り向くと、部屋の入り口にマティが立っていた。
その後ろには、ポータルの出入り口が作られ、青い輝きを放っている。
「ポータル近くには。新しくポータルを作れない。剣。かえして」
「て、てめえ!」
怒りに顔を歪ませるパリスだったが、マティが丸腰の様子を見て、ニヤリと笑った。
台座から離れ、マティに近づいていく。
その手には、マティの『打ち損じ伝説級ロングソード』が光っている。
「これ、めちゃ良い剣じゃねえか。あらゆる物を貫き通せるぜ。
柄に可愛い模様が入ってるのが難アリだが……
いかに勇者だろうと、素手と名剣じゃ、勝負になら……?」
パリスの言葉が止まる。
いつの間にか、マティの横に、体から蒸気を吹き上げているエリーザが立っていたのだ。
マティもちょっとビクッとなった。
「フゥーッ! 今の私なら、素手でも! あなた程度! ぶちのめせる自信があります! フゥーッ!」
「な、なんだぁ? こいつ、目つきがヤバすぎる! に、にげ……」
パリスが【空間収納】を起動しようとしたが。
「うおおおおお!」
「ごぼーーーっ!?」
雄叫びを上げたエリーザが、パリスに凄まじい勢いで突進。
腹に拳を叩きこんだ。
「今のは殺されかけた私のぶん!
そしてここからは、ファニー様の姿を真似した不敬罪のぶんですーっ!」
▽
戻って来たマティと、俺とレリアで三人、しばらく部屋の外で待っていると……
ペッと部屋から吐き出されるように、パリスが吹っ飛ばされてきた。
「後はお好きに!」
部屋から出てきたエリーザ
蒸気はなく、落ち着いたようだ。
「パリスもうボロボロ。あと少し何かしたら。命尽きそう」
「だな。レリア、回復してあげよう」
「はーい!」
【ゆるく、可愛く、元気よく】でごく普通のポーションを『強化』する。
するとギガポーションが出来上がった。
体力の上限を超えて、回復するポーションだ。
それをパリスに与える。
「……お?」
傷がふさがり、元気いっぱいになったパリス。
「なんだあ? めちゃ気力がわいてくる! バカかお前ら、これで逃げらr」
そこへレリアのカエル薬。
ぼんと煙が立ち、人の身長ほどある巨大なカエルが出現した。
「ゲコ!?(な、なんだこりゃ!?)」
「体力満タン以上だから、でっかいカエルになったな。
んで、その姿だと、魔法もスキルも使えないよな」
「ゲコ、ゲココ(うがっ! 何も、何も出来ねえ!)」
「じゃあ、私たちのぶん。行こうか……!」
「じゃ。わたしから。おにいちゃんたちを困らせた罪。重い」
マティが抜剣し、目にも止まらぬ速度でパリス(カエル)に斬りつけ始めた。
右上から左下、右下から左上。その太刀筋を何度も繰り返す。
場所をずらしながら重ねた×印の斬撃跡が多数、一瞬で刻まれた。
「ゲコオオオーーー!(うぎゃあああーーーっ!)」
「聖剣の牢獄!」
吹っ飛ばされるパリスに背を向け、マティの決め台詞。
そ、それも俺が子供の頃に考えた名前……
「次はあたし! あたしは簡単に、『しみる傷薬』!」
レリアによると、失敗作らしい。
傷は治るけど、超絶しみるとか。
「ゲゴオオオオオ!(いってえええええ!)」
実際、傷だらけのパリスが天井高く飛び上がった。
傷口からもの凄い煙が出ている。まあ、傷は治るから良いじゃないか。
次は俺がボロクソにするけども……
「【デカく、可愛く、ぶっ叩く】! 『ストーンパンチ』!」
床から岩で出来た拳が生えて、パリスを真上に吹っ飛ばした。
妙に丸っこい、子供のような手だ。
だがその太さは、樹齢1000年以上の巨木ほどもある。
吹っ飛ばされたパリスへ、今度は天井から生えた、同じ岩の拳が打ち下ろす。
上へ下へと、何度もぶん殴られるパリス。
「ゲゴ! ゲゴ! ゲゴ!(うげっ! ぐえっ! あがっ!)」
最後は上下の拳で同時に潰され、床へひらひらと落ちていった。
ぼんと煙が上がり、そこにはボロ雑巾と化したパリスが。
俺はその腕を後ろから捻り上げ、拘束具を付けた。
「返済終了!」
借りは宣言通り、何倍にもして返してやったぜ!
「『生命のオーブ』か。今回も違ったか……」
【鑑定】の結果、ここにあったのは生命を操る古代魔法だった。
生命と魂、近いようで実際は遠い。
生命は物質的、魂は非物質的なものなのだ。
「ま、次に賭けるしか。まだ一つ、古代魔法ダンジョンはある」
古代魔法の獲得自体は、誇らしいことだ。
今回も凱旋として、胸を張って戻ろう。
俺たちはパリスを引き連れ、地上へと帰還した。
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