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第三十二話 消えるパリス ~ミンタカのドラゴン戦

 パリスが竜に向かって走っている。

 その背中に向けて、


「逃がさない! 【のろく、可愛く、食らいつく】! 『強化』!」


 追尾性能を持たせた鈍化魔法を放った。

 パリスが迫って来る魔法に気づき、振り向いた。だが、何かするにはもう遅いだろう。


 しかし、魔法が命中する直前、パリスはふっと消えてしまった。

 鈍化魔法は目標を見失い、消失。


 しばらくのち、同じ場所に突然パリスが出現し、再び走り始めた。

  

「なんだ? どうなっているんだ……とりあえず、追いかけよう!」


 竜の元に向かったパリスに追いつくべく、走り出す。


「おにいちゃん。武器が無い」


 武装解除され、マティたちの武器はやつに回収されたのだ。


「しかし、今から地上に戻って武器を取って来る間に、先に古代魔法を取られてしまう」


 やつが竜を倒せるような強さを持ってるとも思えないが、何か算段があるはずだ。

 竜の元へ走るやつに、迷いは見えない。


「そうじゃない。おにいちゃん。パリスはわたしたちの武器。持っていない」


「……!」 


 確かに、やつは自分の装備以外は何も持っていない。

 軽装鎧に、腰につるした剣一本。


 床に置いた武器は、あいつが回収していったはず……それはどこに行った?

 レリアの薬が入ったカバンとか、それなりにかさばるはずだ。


「私たちの装備は、いつの間にか消えていました。床にでも吸い込まれたように」


 エリーゼも困惑顔だ。


 消える。床に……


 ……


「……まさか、【空間収納】!?」


「でも、勇者以外にそのスキルは使えないんじゃ? 


 マティちゃんの鑑定では、パリスは魔法戦士だったよね?」


 いや、それがそもそも、間違っていたのかも……


「やつはマティだけを狙っていたように思う。何か、理由があるはずだ」


 走りながら考える。


 血が目的なら、マティの血があの扉に効果的という事を知っていた?

 それはない、あの時そばにはパーティ以外の誰も居なかった。


 なら、何故やつはマティの血を狙っていたのか。


「……それは、マティが勇者だから。勇者の血が、あの扉に効果的だから」

 

「それを知っていたのは。パリス自身も。勇者だから……?」


 さっき俺の職業も何気なく当てていた。魔法使いではなく、賢者だと。

 【鑑定】も使えるということだ。

 

 間違いない、やつも勇者なんだ……! 


「さっきは、自分自身を【空間収納】したんだ」


「だから、鈍化魔法で捕らえられなかったんだね」


「そしてやつの固有スキルが、何か、あざむくような効果のものだとしたら。


 マティが鑑定した結果も、偽物を見せられた。ファニー……私の姿にもなれた」


「【欺瞞】とか【擬装】、【嘘表示】や【幻】なのかもしれませんね!


 ファニー様の姿になるなど! 不敬極まりない! パリス、許しがたし!」


 エリーゼが怒りで興奮している。


「見てください! 


 パリスが竜の元にたどり着くより、我々がパリスに追いつく方が早いようです!」


 案外、パリスは足がそこまで早くないようだ。

 やつが振り向き、少し焦り顔なのが見て取れる。


「くっ! 地上に帰ってろよ畜生! ……はあ、はあ。


 つか、なんで沈黙魔法が効かなかったんだあいつは!


 しゃあねえ、プランBだ!」


 とパリスが突然、竜に向けて攻撃魔法を放った。

 輝く光球だ。


「あれは。勇者専用魔法。プラズマボール」


「勇者確定だな」


 その光魔法が竜に着弾し、爆発する。

 白いエンシェントドラゴンが首をもたげ、こちらを睨みつけた。


 全くのノーダメージのようだが……


「また、パリスが消えました!」


 くそ、竜をこちらに押し付ける気か。  

 

「仕方ない、竜から先に片付ける!

 

 武器のない皆は、防御に徹して!」


「りょーかい!」


「わかった」


「ど、ドラゴンと相対してこの冷静さ……わ、私などは身震いが止まりません!」


 とエリーザが震える声で叫んだ。

 丸腰だと仕方ないか?


「疑似オリハルコンの防具があれば、そうそうダメージを負わないよ、落ち着いて」


 マティは背中の盾を前にかかげ、レリアとエリーザはマントで体を包んだ。

 地響きを立て、白い竜がこちらへと走り出す。


「しかしここは私一人で……【強く、可愛く、頼もしく】! ファイアーボール!」


 久々の、最強火炎魔法だ。


 子供のようなフェニックスの形の爆炎が、竜を包む。

 すさまじい咆哮をを上げ、黒焦げになった竜は床に倒れ伏した。


「やったね! アビスワイバーンをこなみじんにしたやつ!」


「す、凄まじい迫力……! ファニー様、お見事です!」


 ……が。


 その黒焦げの体はみるみるうちに元の色に戻っていき、竜は息を吹き返した。


「うええ。こいつもダンジョン同様、自己修復持ちなのか!?」


 しかしよく見ると、ダンジョンの床から触手が伸び、竜の体に繋がっていた。

 なるほど、あれで生命力を与えて蘇らせているのか。


「なら麻痺で……って効かないよな、やっぱり。


 毒……は床が溶けちゃ巻き込まれてしまう」

 

 などと考えていると、竜が口を開けて炎のブレスを吐いてきた。

 皆は疑似オリハルコンの防具で、俺はブースト強化のシールドでそれを防ぐ。


「なんとお! この防具は炎に対して壁になるどころか、熱すら通さないんですね、素晴らしい!」

 

 エリーザがまた感心している。


 ……そうだな、間に壁を作ればいいんだ。


「【強く、可愛く、とめどなく】! アイスキューブ!」


 竜に対し、俺はブーストした氷結魔法を放つ。

 氷が竜の体を急速に覆っていき……1秒後には、完全に氷漬けのエンシェントドラゴンが出来上がりだ。


 氷の塊は、帽子を乗せた雪だるまのような形になっていた。目や口もあるデザインだ。

 

「わー! 透明な雪だるまの中に、竜が閉じ込められちゃったー!」


 レリアがはしゃいだ声を上げた。


「『とめどなく』で永久に溶けない氷塊の出来上がりだ。触手も通らないくらい、カッチカチにね」


 事実、床から伸びる触手は厚い氷を突破できない。

 生命力を補給することが出来ず、白い竜は氷の中で息絶えたようだ。


 奥へと通ずる大扉が、ゴゴゴ……と振動を響かせながら開いていく。


「あとは、パリスだ。出てこい……!」

★次回、決着。


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