第二十九話 ファニーとの夜会話 ~マティとレリアの夜会話
一日かけて、装備の一新と必要なものの購入などを済ませた夜。
「こんばんわ」
おっと。また例の、白い夢の世界だ。
ファニー、今度は何の用かな。
「別に用はないんですけどぉ……」
え、じゃあなんで?
「よ、用がなくたっていいじゃないですか!
この時ぐらいしか、あなたと話せる機会がないんですから……」
ややそっぽを向いている。
しかし、大丈夫かな。昼にも出られるようにする、と言ってたのに。
夜のこの会見、もう無くなると思ってたけど。
「今回はお昼に出番、無かったので大丈夫ですー」
うーん、なんとなく不機嫌な気がする。
なんか、怒らせるような事したっけ……
「……もう! 昼の様子、わたしは見るだけで!
話に混ざれないのが、ちょっと、寂しいんですっ!
だから、あなたはわたしに、つ、付き合う義理があるんです!」
なるほど、そういう事なら分かる。
会話に混ざりたくても混ざれないのは、確かに辛そうだ。
せっかく旧知のエリーザも居るのにな。
「わかった。付き合うよ、自分で良ければ。いくらでも話し相手に」
「えっ!? ……ああ、付き合うって、話に……ですね。びっくりした……」
やや顔を赤らめたファニーは、こほんと咳払いして、せきを切ったように話を始めた。
エリーザの事、そして彼女と王国で一緒だった頃の話。
というかエリーザの話ばかりだ。
まあ、いま一番の共通の話題は、それだろうしな。
「……だから、彼女のあだ名は『委員長』だったり『オカン』だったりするんですよ」
「はは、合ってる合ってる。エリーザ、正義感強くて色々お節介なところありそうだもんな」
と、二人でエリーザのことで盛り上がっていると。
「……あ」
とファニーが耳を澄ませるような姿勢になった。
なんだ?
この世界に、他に介入してくる存在とか、居るんだろうか。
しかしファニーは、
「マティさんとレリアさんが、あなたのことで……」
「ああ、混ざりたい! 彼について、語り合いたいこと、たくさん……」
「もどかしい、でも、わたしが彼を占有出来る時間を持ってるのも、確かだし……」
などとブツブツ言っている。
なんだ?夢の外というか現実世界の事を言っているのか?
マティとレリア、夜更かししてるんじゃなかろうな。
「あ、ええと。ああ! 時間が来てしまいました。今回は、ここまでということで……」
けっこう話したもんな。
「また、お話しましょうね! ふ、二人だけで! それじゃ、また…… すやぁ」
とファニーはこの世界に溶けるように消えていった。
▽
「レリアちゃん。起きてる?」
「んー、起きてる」
「今日は。眠れなくて」
「そだね。なんか眠れないね」
皆で装備の一新をした夜。
レリアとマティは、何故か寝付けないでいた。
「どうしてだろ」
「お昼。楽しかったから」
「そうかもねー。まだ、あの時の気分が抜けないでいるかもね。
たくさんのお友達と、お買い物、おめかし、初めてだよー」
うつ伏せになって布団を頭にかぶり、ひそひそ話を続ける二人。
「わたしも。ふふ」
「エリーザさんも、楽しそうだったね」
「真面目だけど。可愛いよね」
声をひそめて、笑い合う。
「そういえば。
あたしは前にシルヴィアちゃんと二人でお買い物、おめかし、やった事あったよ」
「いいなあ」
「あの時も、楽しかった。シルヴィアちゃん、全然服にこだわろうとしなくて。
全部、あたしがコーディネイト? っていうのを、やったんだ!」
「いいな。いいなあああ」
マティはかなり本気で羨ましがっている。
「いいでしょー」
ふと、ここでマティが何かに思い当たったようにちょっと黙った。
そして、
「……レリアちゃんは。おにいちゃんのこと。すき?」
と切り出した。
レリアは意外な事を聞かれたように少し驚き、ちょっと考えたのち。
「んー。そうだね、すき、だね」
と答える。
「……」
「……」
なんとなく黙り込む二人。
しばらくしてマティは表情を緩め、
「ふふ。わたしも。おにいちゃんのこと。すき」
と返した。
「そうだよね」
「うん」
ここでエリーザさんが起き上がり、二人に注意した。
「こーらー? レリアさん、マティさん。明日に響きますよ。
いつまでも夜更かししないで、ちゃんと寝なさい」
「あ。はーい」
「はーい。エリーザさん、なんかおかーさんみたい」
「うう。よく言われるんですよね、それ……
せめてお姉さん、にはならないでしょうか……」
マティとレリアはふとんをかぶり直した。
そのうち、マティはすやすやと寝息をたてはじめる。
しかし、レリアはまだ眠らずに、さっきの会話を思い出していた。
(うーん。さっきの「すき」はシルヴィアちゃんのこと? シルヴァンさんのこと?
どうなんだろう。すき、っていうのはあれかな。普通のすきより、もっと、違う意味なのかな。
……なんか、ちょっと、ドキドキしてきたかも。
なんだろ、これ)
色々と考えるが、もやもやとして結論は出ない。
(……うーん。まあ、わかんないや。
また今度、考えよー……)
レリアはお気楽にそう思い、そして眠りに落ちていくのだった。
▽
部屋のカーテンがシャッと開かれた。
「おはようございます! 今日は曇りですね!
ダンジョンに潜るなら全く関係ありませんが!」
今日もまたエリーザさんの大音声で、快適な目覚めとなった。
もう少しお手柔らかに、ならないものか……
「おはよう……」
うーん、昨晩は結構ファニーと話したはずだけど、夜更かしした感じは特にないんだよな。
あの夜会話、なかなか有意義かも。
「おはよー!」
レリアも元気だよな。
目が合うと、目をぱちくりさせ、やや間があったが……すぐいつもの笑顔を返してくれた。
ん、特に何も問題なしかな?
「おはよう。おにいちゃん。レリアちゃん。エリーザおかあさん」
「その呼び方はご遠慮願いたいです……」
朝からやたら元気なエリーザさんが、ややしおれてしまった。
しかしマティが冗談を言うのは珍しいな。
つか、何でマティがエリーザのあだ名を知ってるんだ……?
「……さて、今日は二回目のミンタカのダンジョン攻略だ。
今回で古代魔法までたどり着けたら調子いいな」
戦力も一人増えたし、装備も一新した。
気合も万全。
「それでは頑張っていきますか!」
「「おー!」」
「御意!」
しかし、この時マティを狙う影が迫っている事に、気づく者は誰も居なかった……
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