第二十五話 ダンジョン中層へ ~ファニーの親衛隊長
「これなら、血を流す必要もないね! シルヴィアちゃんやるう!」
この市のギルドに、この攻略情報を伝えた方が良いかな。
ただ、上級麻痺魔法でないと効果はないだろうけど。
俺の魔法はLV1だが、『強く』でブーストして上級にまで格上げしてある。
そのレベルの魔法を使えるやつが、ここに居るかどうかだな……
「床におにいちゃんの魔法を撃てば。最下層まで直通で行ける。かも」
マティがふと思いついたように指を立てた。
「うーん。
このダンジョンがどんな構造で、どこまで深いのかが分からないうちは……ちょっと危険かも」
一応ロープなどは準備してあるが、床に深い穴を空けて降りていくのに足りるのか不明だし。
その場合、ロープをどこに結ぶか問題もある。
見た限りダンジョン内に適した場所が無く、床に杭を打ち込んでロープを結ぶのも危険な気がする。
生物なら、その打ち込んだ杭を押し出してしまいそうだ。
「地道に、降りていこう。もう、私たちには扉の脅威は存在しないからね」
「そうだね」
「モンスターも、今のところ大したことないしね! さっさと進んじゃおー!」
このダンジョンは構造自体は、複雑な迷路にはなっていない。
ただ、さっきまで無かったはずの場所に、いつの間にか例の扉が現れたりする。
その点だけは厄介か。
しかしその後も、邪魔な扉は麻痺から穴を空ける戦法で、全て突破。
「五階だー!」
これでこのダンジョンも半分ほど制覇。
古代の文献によれば、ここもアルニタク同様、全10階構造になっているはずだが。
「生命を持ったダンジョンだからって、自己増殖で階層を増やしてる、とかないだろうな……」
「自己修復は持ってたね。増殖……ダンジョンの赤ちゃんが出来る。ってこと?」
「かわいくなさそー!」
完全に同意。
自己進化まで持ってないことを祈る。
五階をしばらく探索。
ここにもバビビ石は落ちてないか……
ただ素材の質はまた上がった。
「ふんふん~」
拾った素材(ほぼ虫由来)を両手に持って、見比べたりしているレリア。
楽しそうで何よりだが、よくそんな気持ちの悪いものを持てるな……
とか思っていたその時。
「うおおっ! そうはさせん!」
通路のどこかから、女性の声が聞こえてきた。
どうやら、戦闘中のようだ。
「他のパーティの人かな?」
「おそらくな。こっちか」
駆けつけると、壁から生えてくる触手と戦っている人間が一人。
青みのある髪を後ろで束ねた、ショートソード二刀流の女騎士だ。
騎士の出で立ちだが、上半身はなぜか白いタンクトップのみ。
「助太刀。しよう」
「もちろん。【強く、可愛く、いきとどく】、パラライズ!」
俺が壁に向かってブーストした麻痺魔法を飛ばすと、触手も動きを止める。
そしてマティが剣を振るい、全て切り落としてしまった。
「か、かたじけない。危うい所を、助かりました」
女騎士が頭を下げた。
「あなた一人?」
マティが近寄って尋ねる。
「いや、パーティの他の方々は残念ながらモンスターにやられ……
一人でなんとか地上へ戻ろうとしていたのですが、行く先行く先で壁から触手が現れて。
鎧もはぎ取られてしまいました」
それでそんな姿か。
しかし触手の生える壁、初めて見たな。
壁を触って調べてみたが、別に今までのと変わりはない。
「それじゃ、私たちと合流しない? 私たちはあと一階くらいは深く降りたいと思ってるんだけど」
俺が声をかけると、女騎士は「ぜひお願いし……」と言いかけ、言葉を詰まらせた。
なんだ?俺のことをじっと見つめて……
「ふぁ、ふぁ……」
くしゃみかな?
「ファニー様! ファニー様ではありませんか!」
女騎士は目に涙を浮かべ、いきなり俺を抱きしめてきた。
「もがっ!?」
「ファニー・オージェ・ブレシーナ様! ああ、生きておいででした! いえ、信じておりました!
あの方が亡くなろうなどと! 絶対そんな事はありえないと……!」
本体の人……ファニーと関わりがある人みたいだな。
同じ国の人かな、もうブレシーナ王国は滅んだと聞くが……
って、苦しい!
この人めちゃくちゃ胸がデカい!埋もれる!助けて!
「はっ! し、失礼をいたしました! このエリーザ、一生の不覚!」
背中を叩くと、気づいてぱっと離れてくれた。
窒息死するかと思った……
「ファニー様に剣を捧げた身でなんたる無礼! こうなれば、命を捧げて謝罪する所存!
どうか、この剣を押して私の命をおとりください!」
女騎士はひざまづくと、剣の刃を胸に向けた状態で手に乗せ、柄の方を俺に向けてきた。
「え、エリーザ? っていうの? 大げさな、やめてくれ」
「は! 勿体ないお言葉!
このエリーザ、また生き延びてファニー様のご安全を守れる立場に戻れること、
幸せに思います!」
エリーザはビシッと両足を揃えて、最敬礼してきた。
なんとも堅苦しい人だな。
「ま、まあ。よろしく」
「ところで、その方々は? ファニー様のご友人で?」
マティとレリアの方に目を向けて、女騎士エリーザが尋ねる。
「私たち、ティエルナのパーティメンバーだよ。勇者と、薬師の」
「マティです。よろしく」
「こんにちは! レリアです、よろしく!」
二人の挨拶に、エリーザもいちいち敬礼で返す。
「あなたは、シルヴィアちゃん……んん、ファニーちゃん、のお知り合い?」
「はっ! 自分はブレシーナ王国、王女ファニー・オージェ・ブレシーナ様の親衛隊隊長!
エリーザ・アモーディオであります!」
またビシッと姿勢を正した。
なるほど、親衛隊長さんなのか。
しかし困ったぞ。
今のファニーは、シルヴァン……シルヴィアでもある。
この状況、説明して分かってもらえるだろうか?
「では! 早速地上へと戻りましょう。
そして、ファニー様生存の報告と、ブレシーナ王国復活の宣言を!
民の喜ぶ顔が見えるようです!」
「……え?」
女騎士エリーザの言葉に、思わずぽかんとなる俺だった。
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