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第十八話 ティエルナ、国の英雄になる ~ファビオの決断

「ギルド長を呼んでくれ。私たち、古代魔法を取ってきたんだけど」


「ああ? 子供の冗談に付き合うほど暇じゃないんだよ! 出ておいき!」


 ポータルを抜け、地上に戻った俺たちが向かったのは冒険者ギルド。


 目つきの悪い、くたびれたような受付嬢の人に報告したら、完全に信じてもらえなかった。

 はなから子ども扱い、いや子供なんだけどさ。 


 確かに、にわかには信じがたい話だろうが、塩対応すぎない?


「くそう、この体が恨めしい。


 こういう時だけ、元の体に戻れればな……」


 ……今、俺なんつった!?


 こういう時だけ、じゃない!全ての時に、男の俺の体じゃないとダメだろ!?

 ちょっと最近、女の体になじみすぎだ!


「あらあら。いつぞやの賢者ちゃんに、勇者ちゃんじゃないの~」


 なんだかゆるい雰囲気の受付嬢がやってきた。

 ギルドで俺らが登録した時、居た人かな。こちらを知ってそう。


「あの! 古代魔法を獲得したって、ギルド長に伝えて欲しいの!」


「えええ? 本当~?」


 ゆる嬢は首を傾げ、どうしたものか迷った様子だったが、


「……でも、本当なら看過できないわね~。前代未聞の勇者ちゃんと、天才賢者ちゃんだもんね。


 うん、信じちゃう。ここで待ってて~?」


 と奥のほう、ギルド長が居るらしい部屋へと駆け出していった。


 話が分かるお姉さんで良かった。

 古代魔法獲得者の話を上に通した、栄誉ある受付嬢になるだろう。


 俺たちを追い払おうとした奴、存分に悔しがれ。




 ▽




 その後は大騒ぎになった。

 ギルド長と鑑定士がやってきて、俺が提出したオーブを【鑑定】し、本物と判明。

 

「ほああああ!?」


 ギルド長が奇妙な叫び声をあげ、あちらこちらへ走り回り。

 王への謁見の申し入れと報告をしに、外へと駆け出して行った。


 ギルド中も湧きたち、俺たちは他の冒険者に囲まれまくり、質問されまくり。


 

「スゲエなお前ら! いや、お嬢ちゃんたち!」


「やっぱり、伝説を作るのは勇者と、賢者の組み合わせなんだな!」


「そのうえ皆かわいい! 俺、ティエルナのファンになる!」


「バカ野郎、俺が最初のファンだ!」


「シルヴィアちゃん! こっち向いて!」 


「マティちゃん尊い……」


「レ・リ・ア! レ・リ・ア!」



 ……なんなんだこいつら。


 光らせたフレイルを振り回すやつ。

 『推し』とか書かれた、取っ手が付いた丸い板を振り回すやつ。


 俺らの周囲を取り囲み、熱狂的な目で見つめてくる。

 最初はドン引いたが、ただただお褒めの言葉ばかりを浴びせられてるうちに、何となく嬉しさも込み上げてきた。


 可愛いって言われるの、悪くないよな……?

 何か、おかしい事言ってるかな、俺……?



「こら~! 散りなさいあんたたち! ティエルナの子たち、困ってるでしょ~!


 この子たちはねえ、この国の英雄になったんだから~!


 並みの冒険者は、今後、ティエルナの半径100メートル以内に接近しないこと!」


 ゆる嬢が出て来て、冒険者たちにしっしっと手を振る。

 

 熱狂した冒険者たちは、「横暴だ!」「犯罪者扱いかよ!」などとぶー垂れたが、

 「子供を怖がらせたらいけない」と案外紳士的な意見が出たところで皆納得し、散っていった。


 遠くで「これからもがんばれー」「応援してるぞー」「シルヴィアしか勝たん」とか叫びつつ。



「ありがとうございます」


「いえいえ~。これから、あなたたち大変よ。


 国の偉い人に会って、褒められて、ご褒美もらって。


 しばらく、自由には外を歩けないかも?」



 ……実際、そうなった。


 国王との謁見。

 

 莫大な額の報酬をもらい、祝賀会に出席。

 

 あちこちに引き回されては取材、聞き取り、質問攻め。


 解放されたのは、一週間後。



 ……つかれた。


 ダンジョン攻略より圧倒的に。




 ▼ 




 エスペランザの、いつもの部屋。


「……」


「……」


 レオンスとシャンタルが椅子に座って、天井を見上げたりうつむいたりと、どちらも放心している。

 パリスの姿は無い。

 

 ファビオは目をつぶって立ち尽くしている。


「終わった、な」


 レオンスがつぶやいた。


「古代魔法を手に入れるため、ありとあらゆる事をしてきたが……


 何もかも、無駄に……」


「うちら。これから、どうすればいい?」


 シャンタルが不安げにファビオを見上げる。

 ファビオは答えない。


「もうギルドのやつらも、冒険者の連中も、俺たちに目もくれない。


 今日、初めて聞いたティエルナとかいうパーティが、全てをかっさらっちまった」


「英雄だね、すっかり」


 窓の外を見ると、ギルドどころか町中が大騒ぎの真っ最中。

 誰もがティエルナの名を叫び、たたえていた。


「本当に、あのガキは俺たちが奈落に落とした、あいつだったのか」


「……そのようです」


 レオンスの問いに、ぼそりと答えるファビオ。

 目は完全に死んでいる。


「てことは奈落から本当に戻ってきたのか。亡霊とかでもなく」


「そしてたった一日で、ダンジョンを完全攻略した……化け物だよ。


 他の二人も、誰か知らないけど、同類だ」


 ぶるっと身を震わせるシャンタル。


「そんなわけ、あるはずがないでしょう」


 ファビオの言葉に、二人が振り向いた。


「あれはただの子供です! 


 あんな連中に、歴戦の冒険者である我々を、出し抜けるはずがありません!」


「しかしだな、実際、」


「奈落に何か、秘密があったのです!


 そう、あのダンジョン自体の構造をいじくるような、何か!


 でなければ、常識的にありえない!」

 

 ファビオがまくしたてる。


「そうです、そうに違いない。


 あのダンジョンに、奈落への穴があちこちに空いていたのは、理由があった。

 

 あえて奈落へ行き、隠された何かを獲得しろという、謎かけだったのです!」


 ファビオの目が熱を帯びてきた。

 

「それをたまたま、あの奴隷のガキが手に入れた。


 だから、ダンジョンの地形をいじくることでモンスターを無力化し……


 そして! 古代魔法を……!」



 では奈落に落とされたやつらが、誰一人帰ってこなかったのは何故なのか。 


 あの奴隷の子供がなぜ、そんなものを手に入れる事が出来たのか。

 そもそも呪いで、目覚める事はなかったのではないか。


 ファビオの推測は穴だらけだったが、ファビオは自分の言葉に納得している様子だった。



「だからと言って。今さら、もう……何もかも、終わったんだ」


「そうね……もう、うちらはどうしようもないよ」


 レオンスもシャンタルも、力なくつぶやく。


「あなた方は、それでいいのですか? あんな子供らになめられたまま!


 そもそも、あの奴隷の子供を放置するのは良くないでしょう。


 我々が奈落に落とした事を、ギルドに報告でもされたら?」


 シャンタルがビクッと肩を震わせた。


「そ、そりゃマズイね。うちらの手が、後ろに回っちまう」


「もし奴にその気がありゃ、既にここに警吏が踏み込んで来てもおかしくないが」


「そうしないだけの、理由が何かあるのでしょう」


 ファビオが油断なく窓へ近づき、外を見回した。

 浮かれた群衆が居るだけで、宿を包囲してくるような動きの者はいない。

 

「……例えばです。その件で我々をゆする、とか……」


「ま、マジかよ」


「そうなれば、うちらは一生、あのガキの言いなりなの!?」


 青ざめた二人に振り向き、ファビオがささやくように告げた。


「そうなる前に、始末しましょう」

お読みいただきありがとうございます!


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