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第百二十七話(最終話) シルヴァン ~シルヴィア

「俺の部屋にもベッドが……」



 エルフ国からの支援で、ブレシーナ国に必要な物品が続々と届いている。


 これまで寝る時は、エウねーさんの魔女の小屋を使っていた。

 王宮の一角に、小屋への入り口を作ってもらい、夜になるとそこへ集合するわけだ。



「今夜からは、その手間がなくなるってもんだが」


 ベビー用品の件で、いよいよお世継ぎの話が現実味を帯びてきた。

 なんだかソワソワする。


 ここは、俺から部屋を訪れるべきなんだろうか……

 などと思い悩んでいると、コンコンとノックがされた。


「ファニー、とレリア?」


 扉を開けると、なんと二人が先に俺の部屋へとやってきたのだった。


「い、いらっしゃい」


 二人を招き入れる。

 ファニーもレリアも、寝間着にしてはやたら薄物をまとっていた。


 エルフの技巧によるものだろうが、体の線が浮き上がっててドキドキする。


「突然の訪問、すみません」


「こ、こんばんわー」


 二人とも顔が赤い。

 

「環境が整ったからってすぐ、なんて、はしたないかとも思ったのですが……


 や、やはり国の復興には必須のことですので! 善は急げと申しまして!」 


 とまくしたてるのはファニー。

 うん、覚悟は伝わった。


 レリアが付いて来たのはなんとなく意外な気もしたが、


「ファニーさんに誘われて……平等に愛してくれるっていうから」


 とレリア。

 確かに、その通りだった。


 俺の中では二人に順番なんて無い。

 身勝手かもしれないが、実際そうなんだから二人にはちゃんとそれを示して行かないとな。


「わかった。二人とも……」 


 俺がベッドの端に腰掛け、うながすと二人は着ているものを脱ぎ始め……

 はらりと、床にその薄物が落ちる音がした。


「……ファニーのは馴染みのものとはいえ、こう目の前にすると……


 やはり、迫力があるなあ」


 と思わず感想をもらす。


「もう! じろじろと見ちゃダメです!」


 ぱっと体を隠してしまうファニー。

 それとは対照的に、


「もー、平等って言ったのに! こっちも見て!」


 ぴょんと飛びついてくるレリア。

 小ぶりではあるが形の良いものと、引き締まった体がぴったりと。 


「そ、そんなつもりじゃないんだ。うん。レリアも、綺麗だよ」


「え、えへへ! じゃ、じゃあ……えい!」


 と、俺の唇に唇をおしつけてきた。


「あっ! ず、ずるいですよ、レリアさん!」


 とファニーも負けじと体を寄せて来て、唇を重ねてくる。


 俺はそんな二人の体に手を回す。

 ファニーもレリアもやや震え気味に、


「は、初めてですので……お、お、お手柔らかにお願いします……」


「あ、あたしもー! おかーさんから少しは教えてもらったんだけど」


 と言ってきた。


(俺だっていきなり二人相手とか、自信ないけども!)


 なので俺は【強く、可愛く、気持ちよく】でブーストした『技能強化』を自身にかけ……

 周囲に飛び散るハートマークを背負いながら、二人と共にベッドへと倒れこんだ。





 ▽


 

  


「ふう、やれやれ……」



 次の朝。


 まだ寝てる二人を起こさないように、ベッドから抜け出した俺。


 三叉神槍トライデントで呼び出した雲からのエリクサーシャワーを浴びた後……

 服を着なおして、城の中を軽く散歩していた。



「この城にも、大浴場とか、個室のシャワールームとかを増設したいな。


 ロレーナに相談して、色々計画を立てないと」


 独り言を言いながら、ぼんやりと廊下をうろついていると、


「昨夜はお楽しみでしたな?」


 後ろから突然エウねーさんに声を掛けられ、俺は少し飛び上がった。


「な、なんだいねーさん。お楽しみって……


 ま、まさか……のぞき見してたんじゃないだろうな!?」 


「んなヤボ、するわけないだろ。


 アタシはオマエのこと、長年見てきたんだ。だいたいの事は見りゃ分かる」


「ほんとかよ……」


「というか今の反応で確信できたわけだが」


 くそう! カマかけか!


 と、ここでねーさんは俺の首に腕を回して来て、


「それじゃ、次はアタシの番てわけだ」


 は? 次……?


「なんだいその顔は。アタシはなあ、ずーっと待ってたんだよ。


 オマエと再び、会える日をな……」


 ねーさんは泣き笑いのような表情をうかべている。

 それを見たら、何も言えなくなってしまった。


「ひ、人の心を一方的に奪っておきながら、勝手に死んじまって。


 オマエを取り戻すため、どれだけの時間をかけてオーブを解析したか。


 そして時をさかのぼってみりゃ、記憶を失って……


 その後いろいろあってようやく、アタシはオマエと再会できたんだ」


「ねーさん……」


「だから、やんぞ。アタシはオマエを今から襲う。


 好き放題にしてやるから、覚悟しろよ!?」


 なにー!?


「……でも。オマエは、アタシを嫌いかい?


 中身は結構なババアになっちまった、アタシとじゃ、嫌かい……?」


 いきなり、しおらしくなるねーさん。

 どうも調子狂うな……


「い、嫌じゃない。俺にとっては、エウねーさんはエウねーさんだ。


 自分勝手で、マイペースで……でも時々妙にかわいい、ねーさんさ。


 嫌いなわけないじゃないか。大恩人でもあるし」


 と答えると、ねーさんは目を輝かせた。


「そ、そうかい! じゃ、さっそくだなあ!」


「うわー!」


 突然、俺は全裸になっていた。

 また時空の秘術をこんなことに使って!


「で、でもアタシは未経験だから、リードはオマエがするんだよ!?」 


 なんじゃそりゃ! 

 肉食っぽさは見せかけなのか!?


「あらあら。朝からお盛んなこと……」


 とか言って現れたのは、ニーナさんだった。

 さっきから、柱の陰に気配は感じていたのだ。


 ……嫌な予感がする。


「わたしも、この時を待っていたのですよ。


 何のために、シルヴァンさんの肉体を保持し、磨き、清潔に保ち続けたか……


 エウフェーミアさん。わたしも我慢出来ません。一緒に、良いですよね?」


 ニーナさん、再び獣の眼光で俺を見てきた。

 その視線は一点に注がれている。


「んー、かまわないよ」


 ニーナさん参戦!

 また、二人相手なのかー!?


 せめて、部屋で!

 ここは人が来ますから!




 ▽




「……や、やれやれ」



 俺はふたたび、城の廊下を歩いていた。


 エウねーさんは勢いだけはあるくせに、いざとなるとぶるぶる震えて、初々しいにもほどがあった。

 ニーナさんは対照的に、なんかもう熟練の域で手練手管を使って……


「……すごかった。実に。

 

 しかしニーナさん……『今度は、娘と一緒でも?』って。


 とんでもないことを提案してくる人だ」


「あの! シルヴァン王!」


 ここで声をかけてきたのは、エリーザだった。

 隣にはリリアーナ。珍しい組み合わせだな。

 マティはまだ外かな?

 

「現状、わが国には致命的に足りないものがあります!」


 とエリーザ。びしっと背を伸ばし、綺麗な気を付けの姿勢だ。

 足りないものとは、なんだろう。


「人口であります! 民であります! 

 

 国を支える、最も重要なものであります!


 ゆえに! 私はそれを増やすべく、王にお願いに上がりました!」


 まあ、そりゃそうだな。今のとこ、城下町すらないんだもんな。


 って、『増やす』?

 ……まさか。


「そ、それで! 不躾ではありますが、わ、私と、つがっていただき!


 人口を増やす、一助と……! 立場は、愛妾あいしょうということで!


 私も、この国のために身を粉にして尽くしたいのです!」


 ……なんでこう、立て続けに来るんですか。

 まさか、リリアーナもなのか?


 そもそもリリアーナ、気持ちの整理とかついたんだろうか?

 と彼女に目をやると、


「え、えと。ぼ、ぼくをあの時……新しい世界へと連れ出してくれたのは。


 結局はシルヴァンさんなんだと思うんだ。だ、だから……」


 ともじもじしながら、


「また、さらなる新しい世界へと連れてってくれる事を、期待したい。


 生命のオーブを解析することで、あ、新たな興味が生まれたんだ。


 人間もまた生命を生み出す存在。ぼ、ぼくも女だし、そう言う事が出来る」


 やっぱりかー。

 リリアーナもかー。


「あ、でも、シルヴィアおねえさまだったファニーさんの肉体も……


 変わらず、追い求める事にも決めたんだ。


 シルヴァンさんの次は、ファニーさん。き、興味はつきないよ」



 ……すまないファニー。

 この件に関してはちょっと妙な事になりそうだ……



 とにかく、結局この二人ともそういう事になってしまった……




 ▽




 とりあえず自室に戻って、一息つく。

 求められることで男として自信は湧いてくる気がするけど。


「毎日こんな調子なら、体がもたないぞ……エリクサーシャワーがあるとはいえ。


 ファニーとレリアは居ないか。自室に帰ったかな?」


 今日は一日求められっぱなしで、もう日も暮れてしまっていた。



 ちなみに、ロレーナも『そういう事』に興味津々な様子だったが。

 さすがに見た目年齢が一桁の幼女にはご遠慮願った。


「なんでじゃ! つるぺた差別か!


 おのれ、生命か時間の秘術で成長すればどうじゃ!?


 そうすりゃ、わしもエウフェーミアなみにバインバインぞ!」


 とロレーナは憤慨したが……


 しかし、強制的に成長するのは、寿命を削る可能性があるらしく。

 ロレーナは数十年後のお楽しみに、いう話で決着した。


 そもそも、他国の元女王と関係をもつとか、どうなの!?



 あとちょっと経てば夕飯の時間だ。

 夕飯は主にエウねーさんが担当しており、毎回絶品の料理が楽しめている。

 

「それまでに、届けられた服とかを棚にしまったりするか」


 俺は、部屋に置いてあったエルフからのお届け物などの整理を始めた。

 キャビネットの中には、シルヴィア時代に使っていた服もかけられている。


「なんか懐かしい気もするな……」


 その中の一着を取り出し、前に掲げてみる。

 体に当ててみるとさすがに小さい。


「……」


 俺はなんとなく周囲を確認し、


「【デカく、可愛く、都合よく】。『強化』」


 とスキルを使って、その服のサイズを俺に合うように大きくする。

 そしておもむろに着替え始めた。



「……さすがに、無理があるかな?


 いや、だいぶ伸びた髪をおろせば……」 


 などと、エルフからのお届け品である姿見で自分を映しながら、あれこれやっていると……



「夕ご飯の準備できたよー!」


「あ、あな、あなた……皆、集まっていますよ」


 バーンと扉をあけ、レリアとファニーが入ってきた。



「うわー!」

 

 俺は思わず飛び上がり、悲鳴を上げる。


「あれ? その格好?」


「見覚え、ありますね……」


 まじまじと見てくる二人。


 俺は今、シルヴィアの時の私服を着ているのだ。

 そんなところを見られて、一体何を言われるか……!


「あ、いや、これはだな……!」


 言い訳を考えてると、


「シルヴィアちゃんが、帰ってきたー!」


 と、レリアが満面の笑顔でそんな事を言ってきた。


「まだわたしの体だった頃が、忘れられないみたいですね!」


 ファニーも、なんだか嬉しそうだ。

 あ、あれ……


「……笑わないのか?」


「どうして? 


 シルヴァンさんの中に、シルヴィアちゃんがまだ居て、なんだか嬉しい!」


「ですね、あれっきりというのも寂しいですし」


 うーん、おかしい人扱いでもされるかと思ったけど。

 案外、認めてもらえてる……?


「メイクをキッチリすれば、けっこう美人さんになると思うな!」


「そうですね! 王家秘伝のメイク術、今こそ使う時のようです」


 わいわいと盛り上がる二人。


「いっそ、生命の秘術で性転換してしまうのもアリかもー?」


 ま、マジすか……


 せっかく男に戻ったのに、また女に戻る……?

 でも、マスターが居ればその辺、自由自在だよなあ。



 いやいや!


 なに興味引かれてるんだ、俺は男だ、今回のは気の迷いなんだ。

 もう二度と女の格好なんて……



 なんて……




 ▽




 ――その後。



 新生ブレシーナ王国の再建は順調にはかどり……

 バレルビアをはじめとした、世界各国とも友好国の関係を築きつつあった。


 市井の人々が酒場で、井戸端で、口にする話題の大半もブレシーナのこと……

 ブレシーナ王のこととなっていった。

 


「ブレシーナ王。シルヴァンというらしいが……


 聞くところによると魔王すら退ける、とてつもない力を持った賢者の男だと」


「あら、わたしは可愛らしい女性の方と聞きましたけど」


「それじゃ、女王が二人いる事になるじゃないか」


「いや、女性と見まがうばかりの美形の男と聞いた。これは確かだ」


「実際に会った事のあるお偉いさんと、俺は知り合いなんだが……


 どう見ても、女性の体つきだったそうだぞ?」



 色んな話が出たが、どれも確証のある情報ではなかった。

 男か女か曖昧なこと、相当若いということだけは確かなことから……


 ブレシーナ王は男の娘である、という意見が主流になっていったのだった。




 ▽




「……結論はおおむね合ってるか?」


 俺はやや苦笑してつぶやく。 

 エウねーさんの使い魔からの情報で、他国の庶民の間でそんな話になっている事を聞いたところだ。



 それはともかく、これは決して俺の趣味ではない。

 


 なんかファニーもレリアも、ノリノリで服を持ってきたりメイクしてくれたり。

 二人が楽しんでるから、それを否定するつもりがないだけだ。

 家庭内の空気を悪くしない、夫婦円満の秘訣なんだ。



「さてと……」


 そろそろ朝飯の時間だ。

 俺はベッドから降りて、キャビネットに向かった。


 キャビネットを開けると、中には下着がならんでいる。

 男用のも、女用のも。


「今日の気分的には、どっちかな……?」



 俺が手を伸ばして掴んだのは――

 




  完

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


当初の予定の、三倍以上の長さの物語になるまで続くとは思ってもみませんでした。

これも読者のみなさんのおかげです!


評価、ブクマ、感想、大変励みになりました! 誤字脱字報告にも感謝!

多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです!

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[良い点] ハッピーエンドで良かった。 [気になる点] お時間あれば、その後(外伝)も書いてみてください。
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