第百二十五話 その後のティエルナ ~婚約、そして
「中を実際歩いてみると、なかなか良い王宮じゃのう。
二度、同じ城を作り直す羽目になるとは思わんかったが」
「お疲れさまだよ、ロレーナ女王、おっと元だったっけ」
「ロレーナでよい、エウフェーミア。
お主も例の儀式に魔界特定、色々苦労したようじゃの」
ロレーナのスキルにより、再びブレシーナ王城は元の姿を取り戻した。
地獄の様相を呈していた周囲の土地も、同じようにして復元。
エウフェーミアとロレーナの二人は、その王宮の廊下を歩きながら談笑していた。
復活したブレシーナ王国と竜人都市アンニザーム……そしてエルフ国。
この三つの国は、友好国の契りをかわすことになったのだった。
竜人都市との契りはロレーナの独断専行ではあるが、
「わしは今でも、アンニザームには大きい影響力を持ってるのじゃ。
非公式だがそのうち公式となろうぞ。
ただ、人間世界に対して発表はなし、にしてもらうがな」
とのこと。そして竜人の存在はあくまで秘密。
新生ブレシーナ王国の最初の友好国は、公式にはエルフ国だけということになっている。
「わしも、人間の国と国交を結ぶことになるとは考えてもおらんかったが。
すべてはあの男……シルヴァンの取り持った縁、ということじゃな」
「シルヴァン、ね。すべてはあの男から始まった気がするよ」
エウフェーミアが少し遠い目をした。
「大した男じゃ。
わしの国のメイドバトリング大会で優勝した女、いや男が今や……」
▽
魔王を倒し、魔界も消滅。
この世界の脅威を取り除いたのち……
俺はその後もしばらく、忙しく動き回る羽目になっていた。
まずは、ブレシーナ王国の復活を世界に宣言。
各国にその旨の文書を送り、反応を見ているところだ。
呪いが解け、豊かで広大な土地が現れた以上……それを狙う国が現れる可能性もある。
だが……今のところ、どこも軍を差し向けてくる様子はなかった。
「……こんなもんなのかな? ちょっと肩透かしだなあ」
俺は豪勢な椅子に深く座りながら、一息ついた。
「なにせ、強国バレルビアの軍勢を退けた国ですから」
俺の言葉にファニーがにっこりほほえむ。
「それも、魔王に率いられた大軍という。
その魔王も倒され、バレルビアもマウロ王も撤退し……
そしてそれは、ある英雄の力によって成し遂げられて……」
歌うように言葉を続けるファニーに、
「英雄ってのも、くすぐったい。皆の力あってこそだよ」
とやや照れた俺は返した。
「はーい。薬効ありの美味しいお茶が入ったよー」
ここで、レリアがハーブティーが入った杯を盆に三個乗せてやってきた。
「そういえば三つのオーブ、全部かえしちゃって良かったの―?」
とハーブティーを配りながら、レリアが聞いてくる。
「こっちには、ロレーナを含めてマスターが三人も揃ってるんだ。
もう、必要ないさ」
ティエルナがオーブ強奪犯という話は、魔王がブレシーナ王国に攻め入る口実だった……
ということで落ち着いていた。
なぜなら、三つのオーブが王の自室から発見されたからだ。
実はこれは俺たちの手により、こっそり戻されたものだ。
「それを発見した時の、王の慌てふためきようは笑えた」
レリアのとうめい薬で、俺たちは一部始終を観察していたのだ。
「それで、マウロ王はすべてを魔王のせいにして……
何もかも、うやむやにしちゃったんだよねー!
ブレシーナ王国復活前に、なぜか攻め込んだことも」
マウロ王が操られてる間、その記憶はおぼろげにあるらしかった。
それで、責任を魔王に押し付けようとしたのだ。
「魔王の考えは『ニンゲン』には分からない、という扱いになったようだ。
それに関しちゃ好都合じゃあるが」
俺は苦笑する。
「でも、また……あのオーブを悪用することはないでしょうか」
ファニーが心配そうな顔をするが、
「それについては大丈夫」
と、俺はうけあった。
オーブにはふたたび研究されないよう、マスターの手により情報の封印処置がされている。
しかし、魔王をこの世に呼び込んでしまったことに、マウロ王は恐怖し……
三つのオーブは、地下深くへと封印されることになったという。
このオーブを巡るごたごたは、やがて王の権威を失墜させ……
マウロは王の座から、引きずりおろされる事になった。
「バレルビアの新王にその気があるなら、国交を結ぶこともあるだろう」
「ああ。本当に、ブレシーナ王国は復活したのですね……
国同士のやり取りが行えるまでに」
ファニーが両手を組んで、目をつむる。
「国民はまだまだ少ない状況だけどね」
まあ全世界に復活を告知したし、元国民で戻れる人は戻って来るだろう。
エルフの人たちが何十人か残って、国づくりを手伝ってくれてもいる。
リリアーナの生命の秘術のおかげで、畑を作れば即作物が育ち、あっという間に収穫期。
余裕で自給自足の生活が送れるようになっている。
「あの時はちょっと焦ったな。
いきなり、俺たちだけで収穫できない量が採れてしまった」
「エルフの人たちが居て良かったねー!」
談笑しながらお茶をしていると、エリーザが入って来て一礼した。
「報告します!
リリアーナの生命の秘術により、周囲の平野から草原や森が生まれつつあります。
いずれ動物たちも戻って来るでしょう。湖も川も、また青い水をたたえ……
美しかった、かつてのブレシーナ王国が蘇っていく様を見られて、私は……!」
うっうっ、と滂沱の涙を流すエリーザ。
その様子に、やや苦笑してしまう俺とファニーとレリアの三人。
俺たちティエルナは、冒険者稼業をやめ……
新生ブレシーナ王国の復活に忙しい毎日を送っていた。
そして俺の立場は今や……この国の、王、だったりする。
▽
――時は少しさかのぼり。
ここはブレシーナ王宮の一室。
俺はそこにファニーを呼んで……
彼女に対する答えをなんとか言葉にしようと、悪戦苦闘していた。
「えーと。その……儀式前にした約束、その答えを言おうと思う」
「は、はい……!」
俺もだが、ファニーもかなり顔が赤く、熱い。
しばらく俺は頭をかきかき、うなっていたが……
やがて心を決め、ファニーの目を正面からとらえて話し始めた。
「その、例の……共にこの国を復興させていこう、という話。
ええと、了解? 承諾? なんといえば適切なのかは分からないけど。
とにかく、その……俺とファニーは、いつまでも一緒だってことだ」
「えっ……! で、で、では!」
俺の言葉に、ファニーの目がうるむ。
「以前、俺が元の姿に戻った時には、ファニーは国の復興のため……
誰かと結婚して女王になるんだろうな、とか考えた事があるんだ。
そしたら、なんだか苦しくなった。とても嫌だな、って感じたんだ」
「シルヴァンさん……」
「その時は独占欲かなにかかな、とも思ったんだけど。
ファニーが俺を好きだって言ってくれたこと、嬉しかったよ。
それで分かった。俺はファニーが好きなんだって」
「ああ、シルヴァンさん!」
「ともにこの国を豊かにしていこう。
今まで二人は一人、みたいな状態だったけど。
二人が二人に戻っても、俺たちは分かちがたい存在なんだって思った。
結婚、しよう。ファニー」
「ありがとうございます! シルヴァンさん!」
俺は飛びついてきたファニーを受け止め、力強く抱きしめた。
しばらく、二人でそうしていると。
「……でも。レリアさんのことは?」
とファニー。
「そう、だな。
レリアのことは……」
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