第百二十三話 決戦、賢者対魔王・中編 ~未熟な勇者
「どうした? もう手は尽きたか?
やはりニンゲン程度、これが限界ということか?」
魔王ディアベルが、あざけりの笑いを含んだ声で聴いてきた。
「うるせー、物理的に高い場所から上から目線の発言しやがって……」
巨大キマイラとなった魔王の頭は、相当高い位置にある。
会話するとなると、こちらが見上げる形になるのも腹が立つ。
「それでは遊びはここまでだ。
寝かしつけの時間だ……二度と目覚めぬように、な」
ふたたび魔王が全力攻撃の構えを見せる。
あの攻撃はしのげなくもないが、魔力無限でやられるとな……
黒炎を吐くために魔王が息を大きく吸う……
が、その魔王の顔が、突然の爆発音と共に軽くのけぞった。
「……むうっ?」
魔王の背中に、攻撃魔法がさく裂していた。
光り輝く、あの効果は……!
「マティか!」
魔王の背後、遥か彼方に、走って来る馬が一頭。
騎手はエリーザ。マティはその後ろに立ち、勇者専用の光魔法を撃っていた。
「無事だったか……!
エルフや人魚たちは間に合ったみたいだな。ありがとう……!」
思わず天を見上げて感謝の言葉をつぶやく。
だが、しかし……
マティの攻撃魔法は、魔王本体への多少のダメージとなったが、致命傷には程遠い。
「未熟な勇者どもか。どうやって生きていたのかは分からんが……
我に攻撃を当てた無礼、何百倍にして返してやろう」
魔王がマティの方向をふり向きざま、その口から黒炎を吐きだした。
あの攻撃は、マティでは相殺しきれないかもしれない……!
「待て!」
炎乃神剣で魔王キマイラの足を薙ぎ払う。
体勢を崩せれば、黒炎の飛ぶ方向が変わると考えての攻撃だった。
しかし、山羊の頭から発射された雷神槌で相殺されてしまう。
黒炎はマティたちの元に届き……その場に巨大な爆炎が吹き上がった。
ドーンという爆発音が一瞬遅れて届き、風圧と衝撃波が周囲を揺るがせる。
「マティーっ!」
「うん」
突然真後ろからマティの返答があったので、ちょっと飛び上がってしまった。
「……!? いつの間に!?」
「アタシが連れて来たよ」
これまた、いつの間にか近くにいたエウねーさんが答えた。
リリアーナやロレーナ、ニーナさんもいる。
気づけば、時間停止空間に全員巻き込まれていたようだ。
魔王は向こうを向いたまま、止まっている。
「マティちゃんたちが見えたから、時空の秘術を使ったんだ。
あの馬の周囲空間を、切り取ってこっちに繋げた。危ないとこだったね」
またねーさんには助けられた。
これで何度目だろうか……
「おにいちゃん! 戻れた! 元の姿!」
もう我慢できない、といった感じで抱き着いてくるマティ。
俺もマティの頭を撫でてやる。無事でよかった……
俺がファニーだった時と違って、マティの頭がすごく下にあるな。
しかし、これが元の感覚なんだ……
「わ、わ……! シルヴァンさん、なんだね……!」
レリアはかなり戸惑っている様子。
アイテムボックス内に居たようで、こちらも無事でほっとした。
戸惑ってるのは、今までカプセル内の俺しか見た事なかったからかな……
しかし、意を決したようにうなずくと、レリアもまた抱き着いてきた。
「元の体に戻れて、おめでとう! ……ございます、かなー?」
「はは、シルヴィアの時と同じで良いよ」
「……うん! おめでとう! 良かった、本当に……!」
マティとレリアが、揃って回した腕に力を込めてくる。
俺も二人に腕を回し、ぐっと抱きしめた。
「し、シルヴァンどの! 良かったです!」
「おめでとうなのだご主人さま、やったぜ! そんな姿だったんですね!」
エリーザも声を震わせ、笑顔でこちらを見てきた。
アデリーナは奇妙な踊りをおどっている。
俺はエリーザを見て一瞬ぽかんとなった後、目をそらしながら、
「……なんで下穿いてないの!?」
「え……? ひゃああ! ま、巻いてた布がいつの間にか……!」
エリーザが真っ赤になって、シャツを引っ張って下半身を隠した。
そういえば皆、おそろいのシャツ着てるな……
それでなんとなく状況は察せられた。
でもだぼシャツ(エリーザ以外)、シンプルに可愛い格好だな、皆。
うらやましい。
……なんですと? 俺?
「……再会の喜びはそれくらいにして。
はやく魔王をどうにかしてくれないと困るよ?
時間停止も無制限じゃないんだからね?」
そうか、時間停止も魔力を消耗するんだった。それもかなり。
儀式の最中は、あらかじめマナポーションを大量に用意しておいた。
それをガブ飲みしながら、ねーさんは儀式を終えるまで持たせたのだ。
そのマナポーションは、城が吹っ飛んだ時に同時に失われた……
「ぷはっ! 時間切れ!」
エウねーさんの宣言と共に時間が動き出した。
「……ふん、また時間停止か。
しかし、だからといって何か出来るわけでもなかったな」
ゆっくりと魔王が振り向いた。
時間停止と同時に神話級ディスペルを当てていれば……
いや、あの巨体をディスペルが解呪しつくすには時間がかかる。
時間停止中にディスペルが魔王を侵食し始めても、時間が動き出したと同時に、魔王は相殺してしまうだろう。
ダメージにはなるが、まだまだ致命傷とまではいかない。
「それなら……!」
三叉神槍を発動させ、遠隔でエリクサー雲を上空に呼び寄せようとする。
だが、
「無駄だ」
魔王の雷神槌が放たれ、エリクサー雲を粉砕してしまった。
「ねーさんをフル回復させながらの、時間停止ディスペル作戦も不可か……」
「さあ、覚悟を決めろ…
やはり、劣等種のニンゲンに、我を倒すことなど出来ぬ。
賢者は惜しい所まで行ったが。勇者が未熟でさえなければな」
魔王が余裕を見せ、ゆっくりと息を吸い始めた。黒炎の前動作だ。
「マティが未熟だと……!?」
しかし、マティの力では魔王には及ばないのは確かだ。
勇者として相当成長したとはいえ、それでも魔王と対等にまでも行けなかった。
若すぎたというのもあるが、もっとマティの力を伸ばせていれば……
……
そうか。
「勇者の力! 伸ばす! それなら!」
「おにいちゃん?」
俺はマティの後ろに立ち、その両肩に両手を置いた。
そしてスキルを発動させる……
「【強く、可愛く、結びつく】! 『共感』!」
ブーストされた共感魔法。
それにより発生した赤い糸が、俺とマティを結び付けた。
「マティ、魔王を倒す勇者の光魔法……退魔光を!」
「でも。わたしの力じゃ」
「今、俺とお前は『共感』で同調している。
俺のスキルで、退魔光をブーストできる!」
「わかった! 肩じゃなくて抱きしめて。それで余計力が出る」
俺はうなずいてぎゅっとマティを抱きしめた。
「「【強く、可愛く、神々しく】! 『退魔光』」」
俺とマティの声がシンクロし、神話級にブーストされた退魔光……
天照烈光が発動し、マティの両手が光り輝く。
マティが両手を突き出し、手のひらを魔王に向け……発射。
同時に、魔王が黒炎を吐きだした。
周囲を白く染めるほどに強く輝く光弾は、その黒炎すらも飲み込み……魔王に着弾。
「ぐぅおおおおおおおおおおお――っ!?」
光に包まれた魔王が絶叫し、その体が徐々に溶解しはじめた……!
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