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第百二十一話 恐怖するエリーザ ~魔王ふたたび

 ――どこまでも広がってそうな茶色の大地を、ひた駆ける一頭の馬。

 その馬はブレシーナ王城へ向かっていた。


 馬を駆っているのはエリーザ。

 そしてマティがその後ろにしがみついている。


 レリアとアデリーナはどうしたかというと、マティのアイテムボックス空間に入っていた。

 乗馬スキルがあるのがエリーザ一人だけなので、こういう手法で城へと向かっている。


 その空間からレリアが顔を出しながら、


「大丈夫? エリーザさん。マティちゃん」


 と声をかけた。

 なにせエリーザは――皆もだが――下に何も穿いていない。

 アイテムボックス空間にかろうじて残っていた、何かの名残のぼろ布切れを何重にも巻いてしのいでいる。


「は、はい。鞍に直に座ってた時より、だいぶ良いです」


「問題なし」


 マティも同じように布切れを巻き、乗馬時の揺れの衝撃対策としていた。


「あとどれくらいかなー? シルヴィアちゃんは、大丈夫かな……」


「……それについて朗報を届けにきましたよ」


「おかーさん!?」


 突然、レリアの目の前にニーナの生霊が現れた。



 ニーナはネクロマンサーである。

 自分の魂を飛ばして、ある程度自由に、レリアのもとに出現することが出来るのだ。



「何事です……ひぃっ!?」


 後ろを振り向いたエリーザが顔を真っ青にして、即前方へと顔をそむけた。


「お、おば、おばけが憑いて来てりゅっ! 


 はやく、うま! はしらせ、逃げなきゃ……!」


「だ、大丈夫だよ、エリーザさん。これおかーさんだから」


「お、お、お気の毒に! ま、迷うことなく、天に召されてほしい!


 そして速やかに消えてほしい!」


 ガクガク震えながら、それでもなんとか馬を城へ向けて走らせるエリーザ。


「何か勘違いしてる……?


 も~おかーさん。エリーザさんは怖がりなんだから、もう少し考えてー!」


「あら、ごめんなさいね。じゃ、話を二つだけして、すぐ帰るわ。


 一つ目。シルヴィア……いやシルヴァンさん。元の体に戻れました」


 それを聞いて、もはや前しか見えていないエリーザ以外の三人は、声を上げて喜んだ。


「や、やったあ!」


「戻れたんだ。おにいちゃん……! 良かった。本当に」


「おめでとうございますう! ご主人様!」


 レリアとマティはほとんど泣かんばかりだ。

 アデリーナはアイテムボックス空間内で、謎の喜びの踊りをおどっている。


「二つ目。レリア、先を越されたわよ」


「え……んー? ……あっ!」


 レリアは最初何のことか分らなかったが、ニーナの身振り手振りでなんとか察した。

 ファニーがシルヴァンに告白したことに。


「早く来てね。まだ、彼は答えてないから。それじゃ、お城で……」


 ニーナがそう言ってふっと消えた。

 

「あ、あう……」


 レリアは真っ赤になったり青ざめたり。

 しばらくあうあうしていたが、意を決したように前を向き、


「え、エリーザさん! 急いで! おねがい!」


 と声をかけた。


「お、おばけは!? まだいりゅの?」


「いなくなったから! だいじょうぶ! (おばけじゃないんだけど)」


「了解しました! 可能な限り急ぎましょう! ハイッ!」


 急に冷静になったエリーザが、馬の尻に鞭を入れ、加速させた。




 ▽

 



「も、戻れた、戻れた! 男の体に、戻れたんだ!」


 がばっと立ち上がり、自分の体のあちこちを触って確かめる。

 元の体だ。本当に、戻れたんだ。

 

 それも、本来なら死んでいた体に……!


「あ、ありがとう! エウねーさん!


 そしてロレーナ、リリアーナ、ニーナさん!


 皆のおかげで、元の体に戻れた! 感謝しても、しきれない……!」


 彼女らに振り向き、深々と頭を下げた。

 

「あ、ああ。とりあえず、服を着なよ……」


 やや顔を赤らめ、エウねーさんが呆れた声を上げた。

 そうだった、俺は素っ裸だった。あわてて股間を隠す。


 しかし、今までさんざん見て来たくせに、なんで今は動揺してるんだねーさんは。


 ロレーナもニーナさんもガン見してきてるというのに。

 特にニーナさん、もう獣の眼光とか邪眼とかいうレベルだよあれ……


「は、はい服。ぼ、ぼくは見てないからね、あまり……」


 とリリアーナが目をそらしながら、男用の服を手渡してきた。

 なんて常識的なんだ……




「……さあ、あとはファニーの呪いを解くだけだ」


 と服を着終わり、作業台に寝たままのファニーに向き合う。


 ファニーの体には、バスタオルがかけてあった。

 い、いや残念とは思わない。常識的判断、よし。


「【強く、可愛く、頼もしく】。『ディスペル』」


 自分が得たと思っていた、このスキルは実はファニーのもので。

 自分はそれを借り受けて使っていただけで、もう使用不能に……

 ということはなく。


 正常にスキルは作動し、ブーストされた解呪魔法はファニーの体を光で包み込み。

 そして……


「ファニー……?」


「……う、うーん?」


 ゆっくりと、ファニーのその目が開いた。

 

「こ、ここは……?」


 体を起こし、周囲を見回す。

 そして、自分と目が合った。


「……シルヴァン、さん……?」


「そうだよ。ファニー。無事に元の世界に、体に帰れたんだ」


「ああ! シルヴァンさんっ!」


 ファニーががばっと、飛びついて抱きしめてきた。


「うあああああん! 良かった! 良かったです……!」


「ありがとう、ファニー。


 今まで体を貸してくれて……何もかも君のおかげだ」


「そんなことないです! それはシルヴァンさんの、いえ!


 シルヴァンさんと、あなたと関わりのある、皆さんのおかげです!」

 

 抱きしめる腕にぐっと力をこめてくるファニーの頭を、そっと撫でてやる。


「……あたたかいです。


 人の体、こんなにあたたかいものだったんですね……」


 ファニーは呪いで『永遠の眠り』状態になっていた。

 それからずっと、精神世界に居つづけたのだった……


 しばらく、お互いに抱きしめ合った状態から、なんとか身をもぎ離す。


「……! あ、えっと。


 ファニーの、その体……なんか、名残惜しいって気持ちもあるな……


 い、いや変な意味じゃなくてだな?」


 思わず言ってしまう。

 ファニーが「え?」と下に目をやると、バスタオルが床に落ちており……


「きゃあああ! も、もう! へんたい!」


 慌ててファニーが体を隠した。

 涙目で、頬を膨らませて見上げてくる。


 改めて見ると、自分よりだいぶ背が低いな……


「あ、いや、そうじゃないんだ! その、もう可愛い服が着れないな、とか!


 髪型を変える楽しみとか! 女の子ならではの、色々がもう、って意味で!」


 言いながら、だんだん複雑な気持ちになってきた。

 なんかすごい残念な気がするの、気のせい!?


「だはは! そうだよなあ……!


 オマエ、めちゃめちゃ女の子生活エンジョイしてたもんな!


 まだ、一人称は『私』か?」


 エウねーさんがニヤニヤこっちを見ながら、ファニーの体に上着をかける。


「うっ……ど、どうだっけ? わ、私? 俺?」


 なんか、分からなくなってる!

 

 い、いや、俺、で良いはず!?



 ……そんな事をしていると。


 どどっ……どどっ……という、地響きのような音が聞こえてきた。


「なんだい? 地震?」


 ねーさんが不安げにつぶやく。


 いや……

 これは何か、強力な力を持った何者かが、こちらに近づいて来ている!?


 城の二階のバルコニーに出て、その音の正体が判明した。

 同時に、地の底から響いてくるような、禍々しい声がとどろいた。



「出てこい、賢者よ! さあ、最後の決着をつけようぞ!」



 巨大なキマイラの姿をした魔王が、そこにいた……!


お読みいただきありがとうございます!


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