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第百十七話 ねーさんの記憶 ~おわりのはじまり

 その後も、俺の歩んできた道とは違う展開になっていく。


 エウねーさんの、時空のオーブ研究ははかどらず、妹の病は進行する一方。

 俺Bはまた冒険者稼業に戻り、金をためて一級治療師を雇うが……


 力及ばず、妹は死んでしまった。


(そ、そんな!? マティ……!)


 失意の俺Bは、その後生命のオーブを得るべく、冒険者稼業に戻ったが。

 ミンタカのダンジョンにて、死亡した……


(お……俺が、死んだ……?)


 エウねーさんは俺Bが死んだことを嘆き悲しみ、研究により打ち込むようになった。

 そして数十年の月日が流れ……

 


「やった! ついに、時空のオーブを、極めた!


 やったよ、シルヴァン。アタシは、マスターになったんだよ……!」


 すっかり年老いたエウねーさんが、小屋の中で喝采を上げた。

 年のせいで、もう歩くことすらままならない状態だ。


(俺の知るエウねーさんは、かなりの短期間でマスターになった。


 こっちのねーさんは、自身の生涯をかけるくらいの時間が必要だった……)


 そしてねーさんはそのオーブの秘術を使って、自分自身の時を戻し……

 全盛期の姿になった。


「……成功だ! アタシは、若返った! 


 ついでに、自身に作用する時間の流れを遅くすれば……


 いつまでも、この姿を保っていられる!」


 エウねーさんはさらに、俺たちの死体の時を戻し、蘇らせようと考えたが……

 もう骨一つ、残ってはいなかった。


「人体を保存しておく薬品を用意できなかったのが痛手だね……


 なら……時間を飛び越えるしかないね。


 アタシが昔に戻れば、秘術で二人を助けられる……


 シルヴァンに、また会えるんだ……! 


 待っててくれ、妹さんも助けられるよ!


 そうしたら、皆で、海にでも行こう!」

 


 こうして、時をさかのぼったエウねーさんだったが。


 過去に戻った瞬間……

 『過去のねーさん』と『未来のねーさん』が競合を起こしたのだ。



 同じ時に、同じ人物は存在できない。

 それがこの世のルールだった。


 そして、エウねーさんは一人に統合された。



「!? なんだい、今の爆発……?


 あれ? アタシ、何やってたんだっけ……?


 ああ……師匠の錬金術の、課題中だった」



(統合の衝撃で、ねーさんは未来の記憶をほとんど失ったのか)


 時の秘術などを学んできた知識は、無意識の中にかなり残っており……

 自身にほどこした秘術も作用し続けた。


(だが、ねーさんの目的。俺たちを救う、という記憶は……)


 その「二人を救う」という目的は、おぼろげに残っていたらしい。

 俺と妹が村人から邪険にされていた時、二人を世話すると名乗りをあげた。


「どうして、ぼくたちを?」


 と子供の俺がねーさんに聞いた。


「……アタシにも、良く分からない。


 ただ、オマエたちを放っておけない……そう思っただけ。


 ま、そうすべきだと思った事は、素直にそうしたほうが良いんだろうよ」


 とねーさんは答えた。


「ぼくたちはおねえさんに、なにもあげられないよ」


「なんだい、一方的に助けられて、居心地が悪いとか思ってるのかい?


 子供は気にしなくていいさ。生意気だね。


 どうしても、というなら大人になってから……借りを返せばいいじゃないか」



 

 ここで、再び目の前の光景は消え……

 俺はふたたび、光あふれる天国まで戻って来ていた。



「……思い出したよ。すべて。


 アタシは、一度オマエを、オマエたちを失っていたんだ。


 そして、取り戻すべく行動したが……失敗、したんだね……」


 ねーさんの声がどこからともなく聞こえてきた。


 ねーさんが、天国にあったねーさん自身の魂に触れた時。

 時を超えて存在する魂の全記憶が、ねーさんに流れ込んできたようだ。


「その光景を、リンクしていた俺も見た、ってことか。


 あれは、あったかもしれない世界、とかじゃなく。


 ねーさんが経験した、昔の記憶だったんだ」


 ねーさんが時をさかのぼって、歴史が変わった……

 おかげで、俺も妹も、今は生きている。


「ありがとう、ねーさん。昔のねーさん、ずいぶんと頑張ってた……」


「……恥ずかしいところを見られたね……


 アタシ自身の手で、二人を救うつもりが、記憶をなくすなんて……」


「でも、ねーさんが俺たちを拾い上げてくれたおかげで……


 ここまでこれたんだ。途中、回り道はしたかもしれないけど。


 その回り道だって、ここにたどり着く大事な道だった」


「……でもなあ、オマエは結局また死んだし、元の体にもすぐ戻せなかった。


 アタシは女の子になったオマエを笑いさえしたしな。不甲斐ないよ……」 


 記憶が戻ったねーさんは、かなり弱気になっている。

 ちょっと、らしくないな。

 

「でも、こうして俺は復活しようとしてる。仲間もたくさん出来た。


 結果論かもしれないけどさ。全部、結局はいい方向に向かったと思うよ。


 ファニーの国だって、復活しようとしてるんだ。


 いつものねーさんなら、結果オーライだからいいだろ! とか言って……


 背中をバンと叩くくらいじゃないと!」


 姿の見えないねーさんに向けて力強く、そう主張した。


「……そうか。そうだね。それがいつもの、アタシか。


 おっと、ぐだぐだ話してる場合じゃないね。儀式を、進めないと。


 それまで失敗しちまったら、もう合わせる顔もないね!……」


 なんとか、いつものねーさんに戻ってくれたかな。


 つか、そういえば儀式の途中だった。

 それだけ、ねーさんの記憶の話に気を取られていたみたいだ。

 

「……さあ、続きだよ。天国から、魂のエネルギーを集める。


 ここからが、本番だ……!」




 ▽




「ま、魔王はもういないんだよね!? ど、どうしてー?」


 バレルビアの増援は、既に狂戦士化しているという。

 海軍も上陸間際。


 使い魔からの情報に、驚くレリアたち。


「……いや。魔王はまだ。近くに」


 と、マティが剣を構える。

 すると、


「正解だ」


 と空中から、禍々しい声が降ってきた。

 声の方向を振り向くと、白い煙のようなものが浮かんでいた。


 直後、凍り付いていたキマイラの彫像が次々と割れ……

 中のキマイラの死体が、空中へと集まっていく。


「キマイラが、合体ー?」


 煙に吸い寄せられるように、キマイラの死体が重なりあい、そして融合を繰り返していく。


「うわあ。超巨大なキマイラが誕生しちゃいました!?」


 アデリーナが場違いな声をあげた。


 しかし、その姿はキマイラそのものではなかった。

 獅子の胴体、その背に生える山羊の頭、蛇の尻尾は同じだが、頭部の部分が全く違う。


 そこには筋肉質の、人間の男のような上半身が生えていた。

 青い鱗で覆われ、悪魔の形相というにふさわしい頭部には、曲がりくねった角。


「あ、あれが、ま、魔王ですか!?」


 エリーザの声が震えている。

 マウロ王の姿とは、当然だがまるで違う見た目だ。


「ふう……急造だが、悪くない肉体だ。

 

 賢者のやつにディスペルで消されかけた時は、さすがに死を覚悟したが……


 今この時は、魔力が満ちる時間帯のようだな」


 と空を仰いだ。

 そこには、太陽と月が重なっている様子が見える。


「日食……!」


「たっぷり、魔力を吸収させてもらった。


 おかげで、復活できた……賢者の駒たちよ。


 貴様らの命、ニンゲンどもの命の……終焉の、始まりだ!」


 魔王がくわっと口を開け、魔界の炎をマティたちに向けて放った!

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