7 コラボ配信
コラボ配信当日。
水海ナミさんのチャンネルで行われるコラボ配信の待機所には、既に5000人以上の視聴者が集まっていた。
初めてのコラボがいきなり超大物の大先輩ということもあり、普通に緊張する。
ちなみに今回のコラボ配信の内容は、マシュマロという匿名でメッセージを送れるサービスを利用して募集した質問に一緒に答えていくものだと聞いている。
【朔夜ミヨ】話題の美少女吸血鬼とマシュマロ対談コラボ!【水海ナミ】
5293 人が視聴中・0 分前にライブ配信開始
『こんナミ~! 今日は今話題の新人Vtuber、ミヨちゃんに来てもらいました!』
「こんばんは! 美少女吸血鬼Vtuberの朔夜ミヨです! 今日はよろしくね!」
【こんナミ~】
【ツイッターで切り抜きがバズってたVtuberか】
【顔バレの子だ!】
【切り抜きで見たことある!】
このチャンネルのリスナーにも「顔バレ放送事故」はしっかり認知されていた。
やっぱり放送事故のインパクトは相当大きかったようだ。
『ということで、今日は事前にマシュマロで募集した質問を朔夜ミヨちゃんにNG無しで答えてもらいたいと思います!』
「わーい! ってえええ!? NG無しとか聞いてないんですけど!?」
『初配信で顔バレしたミヨちゃんにこれ以上隠すものなんてないでしょう?』
「容赦がない!?」
【草】
【今回の被害者は新人か。可哀想に……】
【これが水海ナミのやり方だ】
【ミヨちゃん逃げて】
【さっさと全部吐いて、楽になっちゃいな】
お、恐ろしい人たちだ……。
『それじゃあ早速、1つ目のマシュマロを読んでいきましょうか! 最初は無難な質問から行きましょうかね~』
「最後まで当たり障りのない質問でお願いしたいです……」
『まずはこの質問から! 【パンツの色を教えて下さい】』
「いやおかしいでしょ!?」
【初手パンツの色たすかる】
【初っ端からぶっ込んでくる】
【(水海ナミにとっては)無難な質問】
『で、何色なんですか?』
「えっこれ答えないといけないんですか」
『当たり前でしょう? 先輩の言うことが聞けないんですかぁ?』
「ひいいいっ……し、白です……」
『みなさん、朔夜ミヨちゃんのパンツは白だそうです!』
【解釈一致】
【鬼畜すぎるw】
【うおおおおおお】
【なるほどね、メモメモ】
もうやだこの配信。
その後もひたすらセクハラまがいの質問をされ続けた。
『ミヨちゃんにあんなことやこんなことも聞けて大満足なので、今日はこの辺で終わりにしましょうか。みなさん、おつナミ~!』
「……お、おつかれさま、でした……」
【おつナミ~】
【神回だった】
【ミヨちゃん疲れ果ててて草】
【とても勉強になる配信でした】
【おつ】
――配信終了後。
『ミヨちゃん今日はありがとう! 今回は特に視聴者多かったし、すごい面白い配信になったと思う!』
「いえ、こちらこそ誘っていただいてありがとうございました……ちょっと想像以上に過激な質問が多くて疲れましたけど……」
『いや~ごめんごめん、本物の美少女ロリにセクハラしてると思うと楽しくてね、つい止まらなくなっちゃった』
「セクハラしてる自覚はあったんですね」
俺は初めてのコラボ相手を間違えたのかもしれない。
◇
(つ、疲れた……)
水海ナミさんとの通話を終えて一息つく。
配信が終わった後もナミさんはなかなか通話を切ろうとしなくて、ひたすら個人情報を聞き出そうとしてきた挙げ句、配信では言えないようなレベルの下ネタ談義に付き合わされ、終いには『オフで会わない?』とか言い始めて対応にとても困った。
俺に対するセクハラ発言はコラボ配信を盛り上げるための演技だと思っていたが、もしかしたら本当にロリコンさんなのかもしれない。
結局、配信前の打ち合わせと配信後の雑談も合わせると合計で3時間半くらい話していた。
容赦のないセクハラまがいの質問攻めには参ったけど、ナミさんは何故か初対面だとは思えないくらい話しやすくて、意外と楽しかった。
それに、どこかで聞いたことのある声だとも思ったが、多分気の所為だろう。
Twitterをチェックすると先程のコラボ配信をきっかけに興味を持ってくれた人たちがフォローしてくれたようで、フォロワーが1万人を超えていた。
チャンネル登録者数もすごい勢いで増えている。
色々とハプニングはあったが順調だ。このまま行けばそう遠くないうちにYouTubeだけで充分に妹を養えるだけのお金を稼げるようになるかもしれない。
そんなことを考えながらエゴサーチをしていると、突然ドアがノックされる。
「お兄ちゃん……ちょっと話したいことがあるんだけど、今大丈夫?」
『ああ、大丈夫だよ。こんな夜遅くにどうしたんだ?』
ゆっくりドアを開けてパジャマ姿の妹が俺の部屋に入ってくる。
怒った顔も可愛いなぁなんて思いながら妹の入室を見届ける。
……ん?怒った顔?
「お兄ちゃん、最近私に隠れて何かしてるでしょ」
「えっ……」
開口一番、責め立てるような強い口調の妹。
……俺が隠れてしていること……まずい、心当たりしかない。
というのも、吸血鬼の特性を調べるために自分の身体で色々と実験したあの日以降、吸血鬼の性感帯である耳の先を弄って一人で気持ちよくなるという背徳行為にハマってしまったのだ。
自分の部屋でコッソリしていたのだが、もしかしてバレたのか……!?
「夜、私の部屋に声が聞こえてくるんだけど」
「……ッ!」
うわああああ!?そんなに声出ちゃってたの!?
夢中になってて全然気づかなかった……
「焦ってるってことは、やっぱり隠してたんだね」
「いや……でも恥ずかしくて……」
「恥ずかしい……? あんなに大胆なことをしておいて、バレないとでも思ったの?」
「ひいぃぃ…」
大胆って……、一体どこまでバレてるんだ!?
「私、見ちゃったの。ちゃんと隠さずに言ってくれれば、応援してあげるのに」
見られてたの!?
っていうか応援ってなに!?
見られていたならもう言い逃れはできないだろう。
素直に白状するしかないのか……。
「じ、実は……」
「モジモジしてないで、早く教えてよ」
覚悟を決め、大きな声で懺悔する。
「毎晩一人で耳を弄って気持ちよくなってました!!!!」
「…………え…………?」
「……あれ?」
思ってた反応と違う。
あれ?なんか俺、重大な勘違いをしてしまった気がする。
「…………えっと……その……私は、お兄ちゃんがVtuberになってることについて聞きに来たんだけど……」
「…………」
よし、死のう。俺は無言で部屋の窓に手をかけ2階から飛び降りようとする。
「早まらないで!?」
慌てた妹に手を引かれる。
「離せ!こんな恥を晒して生きていけるわけがない!」
「お兄ちゃん落ち着いて!」
◇
「――というわけなんだ」
妹に宥められて落ち着きを取り戻した俺は、Vtuber活動を始めた経緯を語った。
Vtuber活動自体は別に妹に隠そうとも思っていなかったから、先程はあんな勘違いをしてしまった。思い出したらまた死にたくなってきた。
「なるほど……やっとお兄ちゃんが自分の趣味を見つけてくれたと思ったのに、結局Vtuberになるのもお金の為だったんだね」
「……だけど、今はVtuber活動自体が楽しいとも思ってる。これは本当だ」
「ならいいんだけど。何回も言ってるけど、お兄ちゃんは私の為に頑張らなくていいんだからね」
本当によくできた妹だ。
そう感心しつつ、自然と妹の首筋に視線が吸い寄せられてしまう。
あんなことがあった直後だからなかなか言い出しにくいが、ここしばらくは血を全然飲めていなくて結構喉が渇いている。
そんなときにパジャマ姿の無防備な妹と近くにいるとどうしても気になってしまう。吸血鬼だもの。みつを
「……血、飲む?」
俺の視線に気付いたらしい妹がやや恥ずかしそうに尋ねてくる。
自分から言い出せない、情けないお兄ちゃんでごめんなさい……。
このあとめちゃくちゃ吸血した。