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4 新たな目標



吸血鬼になってから数日が経った。


 妹に禁止されてしまった掛け持ちのアルバイトをやめたり、吸血鬼について調べたりと忙しくしていた。

 身長が大幅に縮んでしまったことにより、これまで着ていた男物の服や靴はもう使えないので身の丈にあった可愛らしい洋服を揃えたりもした。

 

 吸血鬼の特性や苦手なものに関しては、ネットの情報を鵜呑(うの)みにするのもよくないと思い自分でも色々と試してみたのだが……

 結論から言うと、ほとんどの情報は正確だった。

 

 昼間の日光に当たると焼けるように痛いし、暗くて狭いところが一番落ち着く。……それと、(とが)った耳の先を触るとすごく気持ちいい。

 十字架と流水も実際になにか害があるわけではないのだが、恐ろしくてたまらない。恐怖症のようなものといえばわかりやすいだろうか。

 

 以上のことを行った時点で一般的に知られている吸血鬼の特性はほぼ正しいのだと確信し、他のことはまだ試していない。というかもう怖くて試せない。

 きっと今の俺にとってニンニクは鼻が曲がるほどに臭いし、長い間血を飲まないと酷く喉が渇くのだろう。

 なんて面倒な身体になってしまったんだ……。


 そして、面倒なのはそれだけではない。

 吸血鬼の姿は、とにかく目立つのだ。 


 どこまでも透き通るような紅い瞳、キラキラと輝く白銀の髪、美しく幼い顔立ち、真っ白な肌に薔薇色の頬と唇。

 まるでアニメや漫画のキャラクターのように可憐(かれん)な少女になっている俺は、どこに行っても目立ってしまう。

 

 夜中に外を歩くだけですれ違う人からの視線を感じるし、夏休みが明けて学校が始まったらどうなってしまうのだろうか……。




    ◇




「ありがとうございましたー」


 唯一続けているコンビニのアルバイトを終え、バックヤードで帰宅の準備をする。

 時給だけで考えれば飲食店のバイトを続けたかったのだが、日光が天敵となってしまった今はこうして深夜帯に入れるバイトじゃないとやってられない。


 この身体になってしまったことは他の店員や店長にもすごく驚かれたが、なんとか説明して納得してもらった。……いや、納得はしてないのかもしれないけど、とりあえずこうしてバイトは続けられている。

 コスプレをした中学生のような容姿だからか、レジ打ちをしている俺を見たお客さんがみんな驚く。

 最初は少し不快だったが、今となっては一周回ってなんだか面白くなってきた。変な性癖に目覚めてしまったのかもしれない。



 

 バイトからの帰り道。


(これだけじゃ足りないよなぁ……)


 お金を下ろそうと銀行によるが、残高を確認して焦り始める。

 最近は掛け持ちのバイトを全部やめて、洋服で一気にお金を使ってしまったこともあり、多少余裕があったはずの貯金が目に見えて減っている。


 妹にああやって言われてしまった以上、バイトを増やすわけにもいかないしどうするべきか。

 昼間は日光に当たりたくないからできれば家の中で、何かお金を稼げる手段があればいいのだが……。


 そんな都合の良いものはないと思いながらも、ダメ元で検索してみようとスマホを開く。

 すると、最後に開いていたネットニュースサイトが画面に表示され、そこに書かれていたのは――




【今話題のバーチャルユーチューバーとは? トップクラスは月収1000万円超え!】




 …………これだ!!


 最近何かと話題になっているバーチャルユーチューバー、略して『Vtuber』。

 自分も何度か配信を見たことがあるが、常に「スーパーチャット」と呼ばれる有料のコメントが飛び交うすごい光景だったのを覚えている。

 比較的男性の視聴者が多く、可愛い声の女性配信者に多くの人が集まりやすい傾向にあるのはなんとなく知っている。

 表情と連動して動くイラストを使って自身を表現するため、顔を映す必要もない。

 

 有名になればたくさんのお金が稼げるバーチャルユーチューバー。

 家でできるし、顔も隠せる。

 吸血鬼になった俺の声はアニメに登場する幼いキャラクターのように透き通るような高音で、贔屓目(ひいきめ)なしにかなり可愛い。

 これならいけるかも知れない……!




    ◇




「ただいま」

「おかえり、お兄ちゃん!」


 家に帰ると、パジャマ姿の妹が出迎えてくれる。

 そして、なぜか最近はそのまま抱きついてくる。あの一件があってから妹のスキンシップがさらに激しくなったような……。


「もう遅い時間なんだから、先に寝ていろと言ったじゃないか」

「……お兄ちゃんが帰ってくるまで不安で眠れないの」


 ぐはっ。その言葉は俺に効く。未だに罪悪感に押しつぶされそうになる。


「もう二度と心配かけないようにするから。もう今日は寝たほうがいい」

「うん、わかった。お兄ちゃん、おやすみ」


 既に食事や風呂を終えていた妹は部屋に戻っていく。

 ちなみに俺は吸血鬼なので食事はとらない。

 汗もかかないので風呂に入る必要もない。というか、シャワーが怖いので風呂には入りたくない。




   ◇




「よし、やるか」


 自分の部屋で部屋着に着替えた俺は早速Vtuberになるための準備に取り掛かる。

 現在時刻は午前1時と真夜中だが、吸血鬼になってからは昼間に寝ているのでむしろ今が最も集中して作業ができる時間帯だ。


 「Vtuber 始め方」「配信 やり方」など安易なキーワードでとりあえず検索して、基礎的な知識を蓄えていく。 


 父親がIT関係の仕事をしていたこともあってか、家に眠っていたデスクトップパソコンはそこそこスペックが高いため、それを使わせてもらうことにした。

 Core i7にGTX 1660 Ti。ハイエンドとまではいかないが、配信を始める分にはこれで充分だろう。

 Vtuber活動がうまくいって人気が出ればお金をかけてもっと良いパーツに変えていけばいい。


 キャラクターモデルについては自作することにした。

 昔は本気でイラストレーターを目指していたこともあったので、一応それなりのものは描けるだろう。

 イラストを動かすためのソフトであるLive2Dも勉強する。

 専門のクリエイターに頼んだほうがより良いものができるとは思うが、なるべくお金を節約したい。


 他にもYouTubeやTwitterアカウントの開設、配信ソフトの設定、配信画面のデザインといった様々なタスクをこなす必要がある。

 覚悟はしていたつもりだが、やはりVtuber活動を始めるのは容易ではないようだ。




 まずは手軽にできることから始めていこうと、一先ずTwitterのアカウントだけでも作成しておくことにする。

 Vtuberとして活動する際に使う名義は「朔夜(さくや)ミヨ」に決めた。

 “ミヨ”というのは、本名の“深夜(しんや)”をそのまま別の読み方にしただけで、“朔夜”は語呂がよかったから。なんとも安易なネーミングである。


 Twitter上では、#Vtuber準備中 というまさに今の自分のような人の為に用意されたハッシュタグあるので、それを使って今のうちからアピールをしておく。

 まだTwitterアカウントを作って最初のツイートをしただけだが、一気に「Vtuberとして活動する」という実感が湧いてきた。

 

 人気バーチャルユーチューバーを目指して、頑張るぞ!

ジャンル別日間11位ありがとうございます。

明日も20時に更新します。

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