第8話 歪み軋む真実
抑え込んでいた魔眼が効力を発揮した。
色彩が大きく変動し始める。
輪郭が波打ちながら曖昧なものへとほぐれていく。
その光景に意識を投じて集中する。
(俺と竜では力の規模が違いすぎる。完全に無力化するのは不可能だ)
魔物の群れは簡単に苗木へと変貌させられたが、今回の相手は竜だ。
簡単に姿は歪められない。
単純な能力で言えば向こうの圧勝であり、たとえ魔眼を使っても理想の結果は引き出せないと思う。
こればかりは仕方ない。
最強の種族である竜なのだから、魔術が効きにくいのは当然だろう。
むしろここで通用する幻創魔術こそが異常なのだ。
俺はひたすら魔眼で竜を凝視し続ける。
(体格差を無くして、強みを簡略な形にする。そして弱点を目立たせる)
視界の歪みが拡散して、極彩色が乱れ飛んで狂う。
そこに魔眼を介して幻創魔術の強制力を作用させる。
強固な虚構が、ふやけた真実を、喰らい尽くしていく。
「さあ、始まりだ」
一度だけ瞬きをする。
そこにもう竜はいなかった。
代わりに大きな剣と盾を持った鎧の騎士が立っている。
騎士は全体的に赤い。
甲冑の爪先から兜まで明るい色味を発していた。
背中からは鱗に覆われた翼が生えている。
兜で顔は見えないが、身体の線からして女だろう。
その騎士こそが竜だった。
幻創魔術で擬人化させたのである。
求める条件を統合した結果、あのような形になった。
本当はもっと弱い姿にしたかったが、力の差があるので妥協したのだ。
騎士の持つ剣は、竜の攻撃力の象徴だろう。
長大な刃は赤熱しており鋭そうだ。
本来は牙や爪や吐き出す炎といった攻撃要素が、幻創魔術で一つにまとめられたのである。
盾と鎧については、竜の頑強な体躯と鱗の防御力を示している。
翼はほとんど変化がないので、幻創魔術の上書きを反映し切れなかったようだ。
今の俺の能力的な限界であり、竜との格差だった。
「我の魔力が変質した……何をした」
竜は異変に気付くも、己の容姿に驚くことはない。
きっと竜の主観では何も変わっていないのだろう。
赤い騎士として認識しているのは俺だけなのだ。
互いの視点で見えているものが違う。
誤っているのはもちろん俺だ。
言うなれば妄想に近い。
しかし、その妄想が重要だった。
誤った認識を現実に反映するのが幻創魔術である。
肉付けした虚構を押し付けて世界を歪める力なのだ。




