第6話 寂れた村の事情
加速し続けながら移動すること暫し。
翌日の昼頃、俺は最寄りの村に到着した。
あの森に見捨てられる前、ここで一夜を明かしたことを思い出すと同時に、久々に目にした文明的な場所に感動する。
安堵してしまうのも仕方のないことだろう。
ずっと危険な森で暮らしていたのだ。
こうして村を目にしたことで、自分が最悪の状況を脱せたことを改めて実感した。
俺は少し懐かしい気持ちに浸りながら村の中を散策する。
そして、すぐに違和感を覚えた。
「やけに静かだな。活気が感じられない」
村は五年前より明らかに寂れている。
地理的に不安定なのは知っているが、ここまで急速な衰退は不自然だった。
誰かに事情を聞きたい。
そう思っていると、畑仕事をする老人を発見した。
老人は俺の姿を認めて声をかけてくる。
「おお、あんた。こんな辺境に何の用だい」
「近隣の魔物を狩りに来た。金稼ぎだよ」
俺はさらりと嘘をつく。
真実を伝えると、余計な混乱を招きかねないからだ。
今は不要な情報だから秘匿した方がいいだろう。
魔物狩りと聞いた老人は、嬉しそうに笑みを覗かせた。
「そいつはありがたい。この地域は獰猛な魔物が多いんだ。迂闊に出歩くこともできやしない。少しでも魔物が減ると助かるよ」
「冒険者を雇わないのか。ギルドに討伐依頼を出せば、状況も改善するだろう」
「それができたら苦労しねぇさ……この村には痩せ細っちまって、依頼を出す余裕もないんだ」
老人が暗い顔で言う。
彼の目には静かな絶望が漂っていた。
ただならぬ事情を察して、俺は老人に尋ねる。
「どういうことだ」
「村の近くの渓谷に竜が棲み付いててな。生贄の代わりに作物や宝石を要求しやがるんだ。逆えば滅ぼすと脅されるから何もできないのさ」
「要求に従い続けることで、村の資源が枯渇しつつあるのか」
「ああ、そうなんだ。もう二年も持たないだろうな。兄ちゃんも早く立ち去った方がいい。竜に目を付けられないうちにな」
そう言って老人は遠くへ去っていく。
残された俺は魔力感知の範囲を広げた。
すると付近に留まる強大な反応を突き止める。
具体的な種族は不明だが、ほぼ間違いなく噂の竜だろう。
他にそれらしき反応はない。
地域最強と思しき魔力の持ち主は、俺のいた森とは反対の方角に生息している。
(村から搾取する竜か……)
俺は顎を撫でつつ考え込む。
竜という魔物は、災害と同列に見なされる存在だ。
それだけの力を秘めているのである。
魔王軍ですら迂闊に手を出せず、かと言って人間の味方というわけでもない。
彼らは己の欲に忠実であり、神のように振る舞うのだ。
実際、地域や組織によっては竜を信奉しているので思い上がった行動ではないと思う。
神に等しき横暴が許されるのが竜なのだ。
「だけど、俺は許さない。そんな身勝手な行いで村が滅ぼされるなんて、あってはならないんだ」
心の奥で怒りが燻る。
これは、義憤だろうか。
俺の英雄としての本質である。
ここで老人から話を聞けたのは運命かもしれない。
幻創魔術ならば、たとえ竜が相手だろうと引けを取らないはずだ。
災害に立ち向かうような事態なのに、一切の不安や恐怖を感じない。
確たる自信が精神を支えている。
俺は竜の討伐を決意した。




