第55話 抗えない死
リエアが驚愕し、防御態勢に移ろうとする。
しかしもう間に合わない。
渦はあちこちに発生していた。
当然ながらリエアだけでなく、ノアとルイズも魔力を吸い取られている。
これは単純な弱体化を招く一方で、魔力感知を難しくさせる効果があった。
だからリエアの反応が遅れたのだ。
高速戦闘において、魔力的な感覚は重要だ。
実力者ほど視覚よりも魔力感知に頼りがちになる。
その傾向は正しい。
相手の魔力を正確に感じ取れれば、動きの予測や力の残量の把握が容易になるためだ。
情報が増えるほど戦闘で有利に傾くため、誰もが魔力感知を磨いている。
ただし、それは必然的に弱点を増やすことと同義だった。
依存する感覚が何らかの事情で鈍ると、行動に支障が生じてくる。
ちょうど今みたいな状況だ。
魔力を奪われた者達は反応が弱まり、感知しづらくなる。
つまり死角から襲われると行動が遅れる。
ましてやリエアは俺に対する怒りで我を失っていた。
直前まで気付けなかったのは必然と言えよう。
「ちくしょうがあああああああぁぁぁぁぁァァァッ!」
大絶叫したリエアがノアとルイズを迎え撃とうとする。
ただし、その姿勢は俺に背を向けることになる。
あまりにも無防備な背中を晒されて、何もしないわけがなかった。
俺は魔眼を媒体に幻創魔術を発動する。
「お前は籠の中の鳥だ。もう逃げ場はない」
言葉が暗示となり、暗示は視界に異質な幻を生み出す。
骨のアンデッドだったリエアが、湧き出る肉に包まれていった。
さらに色鮮やかな毛に覆われて巨大な鳥になる。
リエアはいつの間にか鋼鉄の籠に閉じ込められており、その隙間から手を伸ばすことしかできない。
両手が鉄格子を叩くも、壊れる気配が微塵もなかった。
籠はリエアを完璧に封じ込めている。
敗北の予感と死の恐怖が、幻創魔術の干渉を許してしまったのだ。
万全の精神状態ならここまで一気に弱体化させられない。
動揺がそのまま結界に反映されたのだった。
リエアは既に青炎の魔王としての力をほとんど剥奪されていた。
幻創魔術によって能力の大部分が籠の維持に使われており、本人の制御できない状態である。
鳥になったことでアンデッドという特性も失った。
もはや不死ですらない。
能力だけなら超一級の魔王だったが、些細な心の乱れが敗因となった。
籠に囚われたリエアの前では、ノアとルイズがそれぞれ剣と槍を差し向けていた。




