第5話 幻創術師の懸念
森を進む俺は、途中から幻創魔術を行使する。
鬱蒼とした木々に注目し、進路のみを舗装した道にした。
樹木が流れるように倒れて隙間を作り、地面が振動してレンガ造りに変貌する。
何度見ても、現実が塗り潰される光景には驚きを感じる。
これが自分の力で為されるのだから誇らしくもなってしまう。
能力に溺れて高慢にならないように気を付けなくては。
とにかく、これで時間をかけずに移動することができる。
俺が通った後、術は解けて森は元通りになるから環境破壊にもならない。
森を呑気に散歩する趣味も無いので、さっさと通り抜けようと思う。
俺は身体能力を強化して高速で疾走する。
周囲の景色が瞬く間に流れていった。
一直線の道がなければ、樹木に激突しかねない。
方角だけを気にしながら突き進んでいく。
俺の接近に伴って、付近の魔物は慌てて逃亡する。
魔眼の力は封じているのだが、それでも危険を感じるようだ。
おかげで余計な戦闘をせずに済むのは快適だった。
幻創魔術を使った戦いの訓練は重要だが、今はなるべく早く最寄りの村に向かいたい。
五年間の努力が報われてはしゃいでいたが、大切なことを忘れていたのだ。
移動に時間をかけている場合ではなかった。
(今の世界はどうなっている? 魔王はまだ生きているのだろうか)
いくつもの疑問が焦燥感と共に浮上する。
盲目で置き去りにされた俺は生きるのに必死だった。
だから今の世界の状況をまったく知らない。
五年もの歳月が経過しているとなると、何がどうなっているか予測不能である。
幻創魔術で把握できれば楽なのだが、現在の世界を知る具体的な方法が思い付かない。
目的に合わせて現実を歪めるという性質上、俺が想像しなければいけなかった。
適した幻創ができないと、求める結果は得られない。
制約はないものの、術者に閃きが要求されるのだ。
これは欠点と言えるのかもしれない。
想像力が足りないのならば、実際に出向いて話を聞くのが手っ取り早い。
だからオレは最寄りの村へと急いでいる。
人々の魔力を感じるし、魔族らしき反応は無い。
少なくとも人類が支配されたようなことはないようだ。
しかし、情勢の悪化は十分にありえる。
魔王軍の脅威は計り知れない。
どこかの国が陥落していたとしても不思議ではなかった。
勇者パーティがあれからどこまで奮闘できたかが問題だろう。
彼らの動向を探るのも目的の一つである。
何をするにしても行方は掴んでおきたかった。
(どんな状況だろうと俺がなんとかしてやる。そのために力を手にしたんだ)
幻創魔術の可能性は無限大だ。
発想次第でどこまでも効果を発揮する。
何も恐れることはない。
俺はもう三流の幻術師ではないのだから。




