第44話 存在新調
俺は魔王の装備を観察する。
黒の革鎧は、しなやかで堅牢そうだった。
本人の精神力や、闇の身体の防御性能を示しているのだろう。
腰には短剣と鞭を吊るしている。
他にも暗器を隠し持っているようだ。
変幻自在の攻撃を象徴しているに違いない。
顔は人形のように精巧だった。
表情は薄く、片目が冷たい眼差しを覗かせている。
俺は魔王に説明する。
「今の欠点から目を逸らして、強みだけを強調した。人間形態については徐々に慣れてくれ」
「……ふむ」
魔王の片腕が霧のように掠れて不定形になった。
闇の部分が拡散されて、部屋を巡ってから元の状態に戻る。
幻創魔術で人間になったが、元の能力は残っているらしい。
それだけ強烈な個性なのだろう。
俺の術でも均し切れなかったというわけだ。
魔王は検証を済ませて俺に告げる。
「悪くないな。礼を言うぞ、幻術師レード」
「感謝の気持ちは行動で示してくれ。共闘して青炎の魔王を潰すぞ」
俺と魔王は家の外に出る。
木の枝で虫と戯れていたノアが、こちらを向いて伸びをした。
彼女は眠たそうに豪快な欠伸をする。
「終わったのか」
「ああ、この通りだ。魔王は一気に強くなった」
「ほう」
ノアは魔王をじっくりと観察する。
その顔がだんだんと険しいものへと変わっていった。
やがてノアは俺に耳打ちする。
「ううむ……やりすぎではないか? 化け物すぎるぞ」
「問題ない。万が一の時は俺が殺す」
術を解除するだけで元の姿に戻せるし、視点をずらせば弱体化も可能だった。
もっとも、これは魔王自身も理解しているはずだ。
彼は落ち着いた口調で意見を言う。
「安心しろ。貴様らと敵対するつもりはない。勝てないのも理解している」
「弱気だな」
「事実を述べたまでだ。こうして術を受けて分かった。貴様の能力は人智を超えた代物だ。敵う敵わないの次元ではない」
魔王は淡々と述べる。
その目がひらりと異様な光を帯びて俺を睨んだ。
「それでも誇りを穢されれば、たとえこの身が朽ちようと殺しにかかるつもりだ」
「大した覚悟だ」
俺は手を打って称賛しつつ、訊き忘れていたことを思い出した。
「そういえば、名前は何だ? 現代は魔王がたくさんいるから区別して呼べるようにしたい」
「……ルイズだ」
「そうか。じゃあ改めてよろしくな、魔王ルイズ」
俺は手を差し出す。
千里眼の魔王ルイズは、何度か躊躇ってから握り返してきた。




