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魔眼の幻創術師 ~勇者パーティに見捨てられた三流幻術師は真の力に目覚めて世界を翻弄する~  作者: 結城 からく


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第1話 盲目の幻術師

 荒野にて俺達は魔物の群れと戦っていた。

 鬱蒼とした森林地帯を背にして攻防を繰り広げている。


 戦況は劣勢だ。

 魔物の数は多く、こちら側は消耗している。

 たった四人で数十匹の相手をしているのだから当然だろう。

 辛うじて押し切られずに済んでいる状態だった。


 さすがにここから逆転するのは厳しい。

 犠牲を抑えつつ、どこかで撤退すべきだろう。

 そんな中、勇者が俺に指示を飛ばしてくる。


「レード! こいつらの攻撃を止めろッ!」


 幻術を維持していた俺はその指示に戸惑う。

 底を突きそうな魔力を気にしながら抗議を返した。


「待ってくれ。作戦と違うじゃないか。俺の役目は攪乱で……」


「さっさとしろよノロマ! 誰のおかげで勇者パーティーにいられると思ってんだ!」


 勇者が目を見開いて怒鳴ってくる。

 そこには日頃の不満も含まれていた。

 他の二人も同じように非難めいた視線を向けてくる。


 もう皆が限界なのだ。

 魔物と斬り合う勇者は息を切らしている。

 結界と回復を担当する僧侶は顔面蒼白だった。

 大盾を持つ聖騎士は敵の接近を食い止めている。

 そして俺は、幻術で魔物を翻弄していた。


(名指しで怒鳴ってきたのは、俺を見下しているからだろうな)


 俺は既に幻術を発動し続けている。

 そこからどうにかするのは、勇者と聖騎士の役目だった。


 彼らに軽蔑の感情を覚えていると、勇者がいきなり駆け寄ってくる。

 そして俺の襟首を掴み、渾身の力でその場に引き倒した。


「うぐっ」


 頭を強打した俺は呻く。

 今ので出血したかもしれない。

 さらに衝撃で幻術が解けてしまった。


 不味い。

 騙していた魔物が次々と押し寄せてくる。

 勇者はなぜこんなことを……。


 その時、遠くから勇者の声が聞こえた。


「肉壁でも何でもいいから気合でやれッ! おい、レードを囮にして撤退するぞ!」


 四人のパーティメンバーの気配が遠ざかっていく。

 勇者の指示に従ったのだろう。

 役立たずの俺を、奴らは囮にしたのだ。


(そんな、嘘だろ……?)


 信じられずに顔を上げる。

 眼前にリザードマンが立っていた。

 掲げられた剣の一閃が俺の顔面を通過する。


「ぐあぁっ!?」


 激痛を受けて悶え苦しむ。

 目が、開かない。

 ちょうど横一線に熱い痛みが走っていた。

 今ので切られたのだろう。

 ぞっとするような悪寒が這い上がってくる。


 俺はみっともなく立ち上がると、必死に勇者達を追いかけた。

 微かに感じる魔力反応を頼りに走る。


「お、置いていかないでくれ。目が見えないんだ。誰か来てくれ!」


 背後から魔物の気配が迫っている。

 追い付かれれば殺されてしまう。

 遠くから返ってきたのは四人の罵声だった。


「黙れ! お前はそこで魔物を止めとけよ! クソッタレの役立たずでもそれくらいはできるだろうがッ!」


「あなたはここで犠牲になりなさいっ! 三流の幻術師でもそれくらいはできますよね!」


「魔物を連れてきたらぶっ殺すからなッ! 一匹でも食い止めて死にやがれ!」


 絶望のあまり膝から崩れ落ちる。

 よく思われていないとは感じていたが、まさかここまでだとは。

 その事実が胸に圧し掛かってくる。


(駄目だ。置き去りにされた。俺は、見捨てられたんだ)


 勇者達の足音が聞こえなくなり、代わりに魔物の気配が接近してくる。

 俺は、このまま殺される運命なのか。

 絶体絶命の状況で抱いたのは、生への執着だった。


「くそ、死んでたまるか……」


 目から血を流しながら立ち上がる。

 なけなしの魔力を振り絞って幻術を行使した。

 周囲の魔物の五感に干渉して同士討ちを誘発する。

 幻術における初歩中の初歩だ。

 これでどこまでやれるか不明だが、もう躊躇うだけの余裕はない。


「――俺は生きる。必ず、生き残ってみせるぞ」


 覚悟を決めて短剣を握る。

 俺は混乱する魔物達に襲いかかった。


 その後、俺はどうにかして逃走に成功した。

 数匹の魔物を倒してから、幻を振り撒いて逃げたのである。

 捕まらずに済んだのは単に幸運だっただけだろう。


 大地の隆起で生じた裂け目に身を隠す。

 恐怖と疲労に苛まれながら深呼吸を繰り返した。

 ただ縮こまっているだけで涙が出てくる。


 痺れのような痛みに顔を顰める。

 確認してみると、右手が親指を除いて欠損していた。

 戦闘のどさくさで噛み千切られたらしい。

 断面から血が噴き上がっている。


 左膝も上手く動かない。

 曲げようとするだけで気絶しそうな痛みがあった。

 触れてみたところ、どうやら肉が剥がれて割れた骨が露出している。

 これでは歩くのも苦労するだろう。

 よくもこの脚で逃げ出せたものである。


 この森林地帯は人里から離れている。

 最も近い村でも歩いて二十日はかかるだろう。

 満身創痍で踏破できる道のりではない。


「死にたくない……絶対に、生き残るんだ」


 俺は呪文のように呟き続けた。

 止まらない震えを押さえて、これからのことを考え始める。




 ◆




 森での生活を始めて七日。

 相変わらず目は見えず、死と隣り合わせの時間を送っている。

 耐え難い空腹は、湿った苔やキノコを食べて凌いでいた。

 毒の有無は気にしないことにした。

 己の幻術を施すことで五感を誤魔化して、少しでも症状を緩和する。


 今は魔物に見つからないことが先決だ。

 目が潰れた状態で挑むほど無謀ではない。

 ひっそりと息を殺して、苔やキノコを集め続けた。


 それからさらに三週間が経過した。

 森での暮らしにも慣れてきた。

 湖を発見したおかげで飲み水に困ることはない。

 たまに魚が獲れることもある。

 幻術が馴染んだのか、肉体の不調を感じることがなくなった。


 半年が経った……と思う。

 正確な日数は不明だが、それくらいは経過しているはずだ。

 弱い魔物なら不意打ちで狩れるようになった。

 幻術で五感を狂わせて、短剣で刺し殺すのである。

 やはり肉は美味い。

 幻術で味覚を弄っているので、どれだけ酷かろうと絶品に感じられる。


 今なら最寄りの村に辿り着けそうだが、その気はない。

 盲目のまま帰還したところで何があるのか。

 この森林地帯で己を鍛え上げて、英雄として返り咲くための活路を見い出すのだ。

 そうすべきだと本能的に確信している。


 置き去りにされてから一年後。

 視覚の代わりに魔力感知が発達し、日々の生活に不自由がなくなった。

 目が無事だった頃より楽だ。

 魔物の巣穴に迷い込んで右手と左足を失ったが、なんとか生き延びている。

 猛烈な痛みは幻術で消している。

 日々の失敗を糧に、俺は死にづらくなっていた。


 そして三年後。

 己に施す幻術強度を上げて、自己催眠の域へと昇華させた。

 おかげで身体能力は劇的に向上し、傷の治りも速い。

 失った手足の代わりに挿した木の棒も上手く扱えるようになった。

 今では料理もできる。

 生活に余裕が生まれたので、空いた時間は幻術の鍛錬を行っている。

 きっと何かの役に立つだろうと信じている。


 五年後。

 ついに俺の幻術は進化を遂げた。

 認識のずれで生まれた幻を、現実世界に反映できるようになったのだ。

 極限状態での鍛練が、思わぬ形で実を結んだ形だった。


 手始めに欠損した手足を創り出した。

 実際は木の棒だが、俺の幻術が真実を打ち負かしたのだ。

 試しに指を動かしてみる。

 何の支障もなく、むしろ力に溢れていた。 


 さらには両目も復活させた。

 ゆっくりと瞼を開いてみると、白黒だけで構成された世界が映る。

 魔力を調整すれば、色彩が絶えず変化していく。

 本質的には幻の目なので機能に制約がなく、様々な視点から世界を捉えることができるようだ。

 それはもはや魔眼と呼べる代物であった。


 手足と目を取り戻した俺は微笑する。

 そして、五年の歳月で習得した力を幻創魔術と命名した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 第一話を読んでいて思いましたが、目が見えないのに植物発見やら湖やらってどういう理屈なんだろう?と思いました。 せめてそういう魔法があるという説明は欲しい。
[一言] 始まりだけですが今後が楽しみです
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