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第八話

更新です。

 差し込む日差しに、顔を顰めつつ身じろぎして周りを見渡す、身に覚えのない天井が視界に入る。寝ているのはベッドで、肌触りの良いシーツが掛けられていた。


「う……頭いてえぇ……」


 シーツを捲って立ち上がるが、完全に二日酔いの頭の痛さに、すぐさまベッドに腰掛けて唸る。


 「あれぇ……あのあとどうなったんだっけ……?」


 全く記憶が無かった。ジギルがしこたま飲むのに合わせて、シルビアも涼しい顔してガンガン飲むから、負けじと俺もそれほど強いわけでもないのに、ひたすら飲んだのは覚えているのだが……。

 と、一人で二日酔いと戦いながら昨日を振り返っていると、ドアをノックする音が部屋に響いた。


 「私だ、タケル起きたかい?」


 ノックの主はシルビアだった。


 「ああ、どうぞぁ」

 「おはようタケル昨日は随分深酒をしていたが……やはり二日酔いのようだね」


 シルビアはドアを開け入って来るなり俺の撃沈具合を見てやれやれと呟く。


 「ああ、二人とも凄い飲むもんだから釣られてついつい……ね」

 「私とジギルは酒には強い方でね、時々飲み比べを挑まれたりしているが、負けたことがないほどだ。その私たちと対等に飲もうとするのは自殺行為だったね」


 口元に手を軽く当てクスクスと笑うシルビアはとても楽しそうな笑顔を浮かべながら話す。


 「おいおいそれほんと? 通りであんだけ飲んでるのに二人ともピンピンしてるわけだよ……」

 「これで一つ勉強になったところで、タケル済まないが家に戻るから支度をしてくれ。 ああ、焦らなくていいから別に宿屋に泊まっているわけじゃないからね」


 痛む頭に顔を顰めながらも、再度立ち上がって上着を取ろうとした俺にシルビアは言う。


 「え?ここ宿屋じゃないのか……」

 「そうともジギルの店兼自宅の客室さ」

 「あ、そうなんだ。てことはジギルが俺を?」

 「そう、君が潰れた後店を出てジギルが君を背負ってここに連れてきて、寝かせたあと私とジギルとクレアの三人で二次会を始めてね……おかげで寝不足だよ」


 そう言ってシルビアは手で口元を隠し欠伸をした。


 「今度からシルビアたちと飲むときは絶対に自分のペースを守ろう……」


 「ふふ、それがいいね。そうそうこれを飲んでおくといい二日酔いに効く飲み薬だ、ここに置いておくよ。じゃあ私は先に馬車の用意をしておくから、支度が出来たら来てくれ」


 小さい包装紙をベッド脇のローテーブルに飲み薬を置くと小さく手を振ってシルビアは出て行った。


 「んじゃ薬飲んでちゃっちゃと着替えますかぁ……うええ、とんでもなく苦いなこれ……」

 

 俺は、シルビアが置いて行った飲み薬を口に入れ飲み干し、その味にげんなりするもノロノロと緩慢な動きで着替えをした。


 着替えを終え外に出ると、既にだいぶ日が昇っておりまぶしい日差しが目に刺さって、二日酔いにはとても辛く顔を顰めつつもジギルたちの声のする方へトボトボと歩いていく。


 「おはようジギル」

 「おうタケル起きたか!なんだぁだらしねえぞ!あれくらいで二日酔いになるなんて」


 などと言いながら俺の背中をバシバシ叩いてくるが正直辛いのでやめてほしい。


 「ジギル、その辺でやめておけ店の前に吐瀉物があったらまずいだろ?」

 「それもそうだなはっはっは!」


 シルビアに注意され素直に叩くのを止めるジギル。


 「さて、タケルひとまず今日は君と同じ異世界人の所にいったりギルドで、君のことを登録と紹介しておこうと思っているんだが、それでいいかな?」


 こめかみがズキズキと痛みを訴えてくるのに耐えながら俺は頷く。


 「うん、構わないよ。 でもギルドって俺みたいな何も戦い方も知らない人でもそういう仕事って出来るの?」

 「まあ確かに中~高ランクの依頼は、さすがに戦える人でないと達成できないものばかりだが、低ランク帯の依頼ならそれこそ昨日私たちが、ジギルの店などに納品した薬の元になる薬草を指定された量まで回収するとか、そういう簡単な物が殆どだし万が一魔物が出そうな場所での採取になるなら、私も同行すればいいだけの話だしね」


 俺はシルビアの話を聞いて、昔やったモンスターを狩るゲームを思い出していた。 あれも低ランクのクエストはキノコを集めてこいとか薬草を集めてこいとかあったなぁ……。


 「なるほどね、それじゃ安心だ」

 「ではなジギル、クレアにあまり迷惑かけないようにな」

 

 シルビアはジギルに釘を刺すと馬車に乗り俺にも乗るように手招きしてきた。

 

 「そんじゃジギル、迷惑かけてごめんな」


 シルビアの横に座ると彼女は手綱で馬に指示を出し動き出す馬車に揺られながらジギルに謝罪する。

 

 「なに、いつでも遊びに来い。つっても店番あるから仕事終わりに来てくれると助かるがな。昨日のあれは特別なんだぞ!ほんとだぞ!」」


 見苦しい言い訳を聞き流しながら俺たちは角を曲がって見えなくなるまで手を振ってくれるジギルだった。


 ルイルの街を出てシルビアの家に戻ると、シルビアは馬車を元の場所に戻して馬に干し草を与えて毛繕いをし始めたので、それのやり方を教えてもらったりしてその日は夕方になった。


 「タケル、いつか君が違う国に行く日がくるかもしれないが、とりあえずしばらくの間はここに住むといい、もちろん私の手伝いをしてくれたらその分の給料は払うし、それ以外の時はギルドの依頼を達成してそれの報酬でお金を稼いで、ルイルで空き家を借りるのもいいかもしれないがね」


 俺の今後の方針についてシルビアは語る。


 「うーん、ひとまず迷惑かけると思うけどここに居候させてもらうよ。シルビアの手伝いをしながら街の人たちに馴染んできたら空き家を借りるようにしようかなって思ってる。違う国に行くのは今のところ考えてないや」


 俺はそういうとシルビアがそうかとだけいってキッチンに向かい器を盆に乗せリビングに置いてあるテーブルに並べた。


「うわ、美味そう……」

「ふふ、こう見えて私は料理が好きでね。味は保証するよ」


 いただきます!と声に出してシルビアの作った煮込み料理を口に入れる。

 まず、初めに舌の上に濃厚な肉の旨味と野菜の優しい風味が合わさったスープが広がり、トロトロに蕩けた肉が優しく噛んだだけで崩れて溶けて消え、程よく柔らかくなった玉ねぎ?のような触感の野菜がスープを吸って柔らかくなっており噛まずにそのまま飲み込めるほどになっている、それだけでも十分に美味だが、そこへきっちりと火が通りホクホクになった芋の歯ごたえが対比になって、この煮込み料理をさらに引き立てていた。


「……ほぉ」


 俺はただ、一言呟き放心する。正直この口の中の風味を外に出すのが惜しい。そう思いたくなるほどこの料理はたった一口で俺の胃袋を掴んだ。

 俺の様子を見て満足したのか、シルビアも一口ゆっくりと口に入れ味わい嚥下すると、一つ頷く。


 「うん、美味い」


 シルビアも笑顔になった。基本的に無表情というかクールなシルビアだけど、今みたいに小さく笑ったりする場面がちょこちょこあって、その笑顔がとても魅力的で俺は目を奪われていた。


 「どうした?冷めないうちにもっと食べてくれ」

 

 俺がシルビアの顔に見惚れてスプーンを持ったまま止まっているのが気になったらしく促してくる。


 「あ、うん。」

 

 だめだ。俺シルビアに一目惚れだな……。命の恩人ってだけでもう好感度振り切ってるのにあんな笑顔見せられたらもうね……。


 「な、なあシルビア」

 「なんだい」

 「俺シルビアの手伝いに専念するよ。だからこのまま居候させて欲しい」

 

 俺はスプーンを置いて姿勢を正しお願いする。それを見たシルビアはまたあの笑顔を浮かべ、ハスキーな声で何処か弾んだ調子で答えてくれた。


 「そうか。ではよろしく頼むよタケル」

 

 差し出された細くて綺麗な手を俺はそっと握り返した。

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