第七話
ブックマークしてくれた方がいるのに気づいてテンション上がったので投稿します!
ありがてぇありがてぇ!
乾杯したあと、まず口を開いたのはシルビアだった。
「とりあえず、タケルが私たちに聞きたいことがあったら質問してもらって、それに答えていく流れで行こうと思うんだがジギルはどう思う?」
ジギルは「くぅー! やっぱ昼間っから飲む酒はたまんねえな!」などと騒ぎシルビアの鋭い眼差しに姿勢を正して頷く。
「よし、ではタケル何か聞きたいことがあれば聞いてくれ。答えられる範囲で答えていくよ」
シルビアは俺に静かに言う。
「えっと……それじゃまずは異世界人が珍しくないって言ってたけど、そんなにしょっちゅう異世界人がこっちの世界にやってきてるもんなの?あとこの世界に来た異世界人は、何か手続きとかしないと住めないとか仕事しちゃいけないとかって法律はある?」
さっそく俺はシルビアの家で、目覚めて最初の会話で気になっていたことをまず聞いてみた。
「そうだね。極端な話だが数日に一人二人くらいの頻度でやってきている。状況は様々なようだがね、ちなみにタケルのように、知らない誰かの手紙や声に答えた途端に、こちらの世界に転移させられた人もたくさんいる。この話はこの街の住民やここから馬車で、七日ほどかかる首都メーンからやってきた行商人から聞いた話など様々だ」
シルビアは俺以外の転移者の話を色々と教えてくれた、どうやら本当に沢山の人たちが転移してきてるようだな。
「それと異世界人としてのこの世界で暮らすための手続きだが、世界全体でみるとあったりなかったりってところだね、ちなみにこの国にはあるが絶対にしなければいけないってほどの義務化されてはいないので、してない人も結構いるみたいだね」
「なるほど、そんなに沢山の人たちがいる上に案外手続き緩い所は緩いんだねぇ……。転移者の他には? 転生者とかは居ないのか?」
俺はネット小説などでよくある向こうの世界で、様々な形で命を落とし神様から色んなチートやらを授かったりまたは死んで意識を失って、ふと目が覚めると別人に生まれ変わって異世界に来ていたとかいうお話があることをシルビアたちに聞かせた。
「ふむ、転生者か……居るのかも知れないが私はまだ聞いたことがないな、ジギルはどうだい?」
「転移者ならともかく転生者ねえ……俺もさっぱりだな。いたとしても、もしかしたら言わないでおいて静かにこちらの世界で暮らして行きたいって考えてるのかも知れないし……それか言葉を話せない生き物に転生してたりする場合もあるんじゃねえか?」
「そうだなー。確かに魔物に転生してどうのこうのって話があったしなー」
俺は有名なとある小説を思い浮かべる。そこへシルビアが葡萄酒で少し喉を潤してから言う。
「最初から元居た世界で、能力を持った状態でこの世界に来ている者、またはこの世界で転生し特殊な力を得た者がいて、その人たちを私たち庶民の耳に入らないように、情報を秘匿しながらも知識やら何やらを研究して、自国の利益や軍備に生かそうとしているのかもしれないんじゃないか?」
うんうんと俺とジギルは頷き同意する。
「転移や転生の話は大体わかった。それで気になったんだけどさ、この世界って異世界人を追い出せ! 殺せ! みたいなそういう考えの人たちっているの? いわゆる人種差別みたいなやつ」
心なしか空気が重くなるが仕方がない、こればかりは聞いておきたかったのだ。
「ふむ、タケルの考えてる通りこの世界の全てがこの街、この国のように異世界人を受け入れているわけではないのは事実だ。 そして受け入れているように見えても、ここで暮らす人々全てがそうだとは残念ながら言えないのも事実としてある。そして他国には異世界人に対しては何をしてもいいという法まである国がある、タケルがもし国外に行くことになったら、そのあたりは十分に気を付けて欲しい」
シルビアが真剣な顔で、俺の目を見ながらこの世界の異世界人の扱いを教えてくれた。 確かに今の話を聞くと他国に行くのは危ないな。
「そしてなぜ転移者又は転生者に対して酷い制度がある国が存在するかなのだが、そういう者たちの中にはこの世界を絵本の中というか、夢の中の出来事のように思っている者が少なからず居るようで、悪質な悪さをする輩が度々現れている。酷いのだと強姦、窃盗そして極めつけは殺人。その行いを裁こうと捕えたら捕えたで捕まった事を喜んでる者までいるらしいんだ」
シルビアは葡萄酒で少し喉を潤し話を続ける。
「もちろん、反省の姿勢も見えないそんな輩を許す事などありえない。極刑として死刑を言い渡されても楽しそうに訳のわからない事を言うそうだ」
俺はなんとなく予想がついたが黙って話を聞く。
「断頭台に向かい首を切られる寸前まで『このげえむはくそげえだ』『はやくりとらいしたいからさっさと殺せよ』『どこからこんてにゅーできるんだろ』など他所から聞いた話だが、今言ったように訳の分からない言葉を、笑いながらだったり苛立った様子で刑の執行を催促して絶命するそうだ」
うん、予想通りだった。話を聞いた限りだとこの世界に来ている転移者又は転生者の中には、俺の居た世界の技術より、もうちょい先の時間軸からやってくるものたちがいるのだろう。そいつらはネット小説とかで出てくるVRMMO、フルダイブ型のゲームプレイヤーでゲームの最中に俺のようにメールやらなにやらで、この世界にやって来てゲームの続きだと思って過ごしてやりたい放題振る舞い、逮捕され最悪の場合処刑される。けれども彼らは最後の最後まで、この世界が現実だと理解出来ず仮想世界の出来事だと認識したまま、この世を旅立っていくのだ。二度と目覚めることのない夢の世界へ。
「確かに自分が死ぬって分かってんのに、そんなわけのわかんないことをへらへら笑いながら話して死んでいく異世界人を、見ていたら異世界人をよく思わない人が出てくるのなんて当たり前だよな……」
シルビアはゆっくりと頷き、口を開く。
「まあ、今言った事があるのでこの世界では異世界人を差別、畏怖、奇異のそういう否定的な目で見る風潮も出来上がっている。その中で今私たちが属している連合国は、その中では異端とされる異世界人肯定派だ。ここで暮らしている人々全てが、受け入れてくれるとは流石に言えないが大体の人は、普通に接してくれると思うから安心してくれ。」
「とりあえずなんとなくわかった、情報収集してここで生活してみてって感じかな」
俺は改めて転移してきた最初の状況こそ最悪だったが、なんだかんだでかなりの幸運に恵まれていた事を思い知る。
そこで会話が小休止になり、暫し自分の酒やつまみを楽しんでいたのだが、ふと気付くと俺に熱い視線を送る、目付きが悪く肩から手の甲までびっしりとタトゥーを入れた男が、手に杯を持ったままだいぶ出来上がった状態で、こちらのテーブルにふらふら千鳥足でやって来たのだった。
「なんだなんだ? そこのなよっちいのは? 見ない顔だがもしかしたら異世界人かぁ?」
「ええと、はい」
無視したらしたで暴れだしそうな予感がするので素直に答えてみた。
「そっかそっかぁ……異世界人さんかぁ、一つ良い事を教えてやるよ。この店はこの世界に生まれこの町で育ったやつらの憩いの場所なんだぁ、だからよぉ……」
そこで言葉を切ると男は手に持っていた杯の中身を俺にぶちまけた。
「お前みたいな余所者は、さっさとどっか人気のないとこで野垂れ死んで魔物の餌にでもなってな」
男は頭からポタポタと酒を滴らせる俺をあざ笑いながら吐き捨てるように言う。
「ああ、そうだね悪かった――。って言うと思ったか、ああん!?」
俺はそのまま立ち上がり、そいつの胸倉を掴みかけたがそれは不発に終わった。
なぜなら持ち上げかけた腕をシルビアが抑え込み、絡んできた男をエルが足を引っかけ転ばせたからだ。
「タケル、君は案外血の気が多いんだね。それだとこの先今みたいな事に数えきれないほど遭遇する度に、乱闘騒ぎを起こしてちゃ体が持たないだろう?平常心を保つんだ」
俺が力を抜くのを確認してから、シルビアは俺の手を離し肩に手を置き優しく叩いた。
そして男の方はというと、エルと厨房から出てきたエルの父親らしき男から、次何かやらかしたら出禁にすると脅され気まずくなり代金を置いてそそくさと出ていった。
「まあ、さっきシルビアが言った通りこの街は比較的穏やかだし、異世界人に対してそこまで酷い差別はしていない。だが今みたいに絡んでくることは無いとは言い切れないから気を付けた方がいい」
ジギルが荒事は慣れてますといった様子で、酒を煽ってから俺に忠告をしてくれた。
「よく分かったよ。 我慢が大事だね」
俺はそう言いながら、席に戻り残っていた酒を一気に飲み干すとエルを呼んでおかわりを頼む。
「随分勢いよく飲むね君、酒は強い方なのかい?」
「嫌なことがあったら酒と一緒に飲んで忘れる、それが俺の対処法なんだ」
空になった杯をテーブルに置きシルビアに向き直る。
「そういうわけでシルビア、いえシルビア様!働いて返すからひとまず今日はとことん飲ませてください」
「全く……元からこの場は君の歓迎会も兼ねてるんだし、そもそもこちらのお金を君は持っていないだろう?気にせず好きなだけ飲むといいさ」
シルビアは呆れ顔で葡萄酒をゆっくりと口に含んで味を楽しむ。
「よっしゃ、シルビアの金で飲み食いし放題か、何喰おっかなー?」
「ジギル、君の分は出さないからな?」
シルビアがゴミを見るような目でジギルを見ながら言った。
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